112話 巨影を討て
明海二十二年 10月20日 北海 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 第一会議室
現在、自分たちは一度自分たちの補給と陸上部隊の物資を輸送するために成会矛本土へ回航しているところである。
その最中、新たな作戦が成会矛より来て、それについての通達の為にここ、第一会議室に多くの士官たちは集められた。
「藩泥流は装甲化された飛行船を用いて成会矛本土へ爆撃を行っている。成会矛の陸上部隊や藩泥流に潜入している部隊がその飛行船の船渠を発見。また彼らは飛行計画表も手に入れ、作戦行動中の飛行船を落とす狙いだ」
「はい」
「はい、どうした?」
「我々の任務は……?」
「今から言う。我々は、補給、及び支給物資搭載後、再びここ、北海に展開し、海上で飛行船の迎撃を行う予定だ。成会矛の飛行部隊は藩泥流にて船渠を爆撃、または本土にて最終防衛線で飛行船の迎撃を行うらしい」
「分かりました」
「ああ、それで、本題の藩泥流の有する飛行船だが、爆撃に用いられる個体はおよそ70から80と言われている。彼らが一度の作戦に用いる飛行船は2台から6台程度らしい」
その言葉で会議室がざわついた。
「君たちには第二次浜唐戦争の経験を経たものもいると聞いている。その経験を活かし、頑張ってもらいたい」
一通り説明した後、司令官はそう言って、この通達を締めくくった。
同月 25日 北海 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 飛行甲板
「敵戦略爆撃航空阻止部隊、出撃!」
成会矛での補給と物資搭載を終え、今は藩泥流の飛行船を止める作戦が発動されていた。
「静凪隊、出撃!おい江達!鎌鼬隊の準備は終えたか?」
「鎌鼬隊、準備完了しました!」
「鎌鼬隊、いつでも出撃できるようにしておけ!」
「鎌鼬隊、了解!」
今日はいつもの出撃よりも皆、気合が入っているようであった。
第二次浜唐戦争の時は、練度が今と比べたら低かったというのもあるが、多くの戦闘機や爆撃機が落とされたこともあり、同じ空気を吸うだけで緊張感が伝わるほどだ。
そんな空母角端を後にし、任務の部隊となる空域へと向かった。
北海 某所 上空
『海眼より作戦全機。敵機影、確認。大きいのが四つ、恐らくこれらだろう。各機、改めて気を引き締めて行け』
『『「「了解」」』』
久しくなる飛行船との戦い。
だが、前とは違うだろう。
時は経ち、技術力は上がっている。
こちら側もそうだが、世界で技術力が上がっているため、以前唐国で戦ったときよりも、技術力が上がった飛行船と戦うと考えた方が良いだろう。
それも、技術単体で見ても唐国よりも藩泥流の方が飛行船技術はもとより上だったからだ。
『こちら舞武隊。目視にて飛行船を四台確認した。護衛の戦闘機は無いようだ』
その報告から、自分含め、空に上がっていた部隊から程度、緊張感が解ける気がした。
しかし……。
『クソッ!敵飛行船、対空砲により弾幕を展開した!唐国との戦いのときよりも弾幕が厚いぞ!』
その様子は自分たちの箇所から見ても分かる。
飛行船の上と下から煙か水蒸気のようなものを出しながら、動く機銃。
数発に一度のはずの曳光弾が連続して線を引き、夜であるのに眩しささえ感じる。
『こちら耕占隊!これでは敵飛行船上空への進入が出来ない!誰か、敵機関砲をどうにかできないか!?』
『……相坂』
「あぁ、やるしかなさそうだな……。こちら静凪隊、敵機関砲に対して攻撃を開始する。まずは一番前の飛行船の上側から黙らせる。全ての沈黙は一度では出来なさそうだが、爆撃の機会は作れるはずだ」
『耕占隊から静凪隊、感謝する。静凪隊の後方に展開する』
「了解。他戦闘機部隊、支援を頼む」
『舞武隊より静凪隊、支援する』
「静凪隊より舞武隊、支援、感謝する。砲火の中に突っ込むぞ!行くぞ!」
『『「応!」』』
速度を最大に、なるべく被弾を避けるように細かく機体を揺らしながら飛行船上部に設置された機関砲台に向け、発砲する。
自分が発砲するのと同時に、他の機体も撃ち始める。
『耕占隊、爆弾投下開始!』
自分たちは機関砲台を撃った後、大きく旋回し、爆撃機らを見やる。
飛行船より高い高度から彼らが急降下爆撃を行い、一隻の飛行船が炎上した。
『台丘隊玖珂、飛行船一隻の炎上を確認。誘爆を起こしている模様。炎上した飛行船の抵抗は見られない。飛行船の無力化を確認』
『海眼、了解。各機、この方法で他の飛行船に対しても攻撃を行え。全機、死ぬなよ』
そして自分たちはもう一度、前方に位置していたもう一台の飛行船に対しても攻撃した。
『鎌鼬隊、もう一台の飛行船の無力化を確認した』
『海眼、了解した』
「こちら静凪隊、二度の突入で静凪全機、機体の損傷が激しい。次の突入は別の部隊に任せたい」
『舞武隊より静凪隊へ。我々はまだ大丈夫だ。突入は任せろ』
「助かる」
『海眼より静凪隊へ。機体の損傷が激しいようなら戦線離脱を許可する』
「静凪隊より海眼。操縦桿に多少違和感があるだけだ。一線の突入に比べれば、支援する分には問題ないはずだ」
『そうか。だが、無理はするな』
「静凪隊、了解した」
浜唐戦争のときのように、面倒な気球や滑空機もいない。
自分たちは敵の気を引くような飛び方を、敵が機銃を向けようか迷うあたりで飛べばいいかと考えながら、操縦桿を傾ける。
取り敢えず、後の二台に関しては他の部隊に突入を頼もう。
……。
『こちら風威隊、槙本、空域に確認されていた全ての飛行船の無力化、撃墜を確認した』
『海眼、了解。作戦終了。全機帰投せよ』
その声で肩の力を抜き、機体を空母の予定到着位置の方位に向ける面々。
しかし、暫くして、海眼、もとい生機の声が無線から聞こえて来た。
『この電探の影は……まさか!全機、帰投は撤回、方位戻せ!』
「静凪隊より海眼へ。どうした?何があった?」
『大型の不明機を電探にて確認!成会矛の情報から照らし合わせると、恐らく敵の大型爆撃機である可能性が高い!』
夜間作戦の最中、更に寒空の色が濃くなるような気さえするこの刹那、その声の内容に、空に再び緊張が戻ったのであった。
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