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凪の中の突風  作者: NBCG
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107話 革命と崩壊

明海二十二年 2月23日 煤羅射 首都フォマグラード


煤羅射の首都、ここフォマグラードは、この戦争前まではサンクト・フォマブルクと呼ばれていた。


戦争開始とほぼ同時に改名された理由は、浜煤戦争での敗北は首都が煤羅射語風でなく、愛国心が育まれていないのではと考えられ、この戦争では必ず勝つ意思を表したものである。


閑話休題。


雄州大戦で総力戦となったその戦火は苛烈となり、その苦しさが各国の国民を蝕む中の、とある日の、国際女性の日であるこの日、ここフォマグラードにて、デモが行われていた。


「政府は食料配給を増やせ!」


それは戦争から今に至るまで煤羅射のその戦績は芳しいものではなく、食糧配給に支障をきたしていたため、その抗議デモが行われたのである。


数万人規模にまで拡大したデモではあったものの、初期に於いては穏健な様相を示していた。


この程度であるならば、警官隊と騎兵隊の出動程度で終わるものだと、政府も軍も、そして市民、労働者でさえそう考えていた。


しかしデモの規模は日に追って更に拡大し、市内の半数以上の労働者が参加するまでになった。


そしてそのデモは食糧配給の改善から、政府の再編まで求めるものにまでなってしまった。


首相は辞任を前線に出ていた時の皇帝、アルノルド四世に求めたが、アルノルド四世はこれを拒否。


アルノルド四世は軍にデモを鎮圧する命令を下した。



同月26日、警官隊は遂に市民へ向け発砲した。


勿論市民に死傷者が出て、この事件に対し、軍の一部が反乱した。


軍は反乱兵の鎮圧する部隊と、労働者側に参加するものが衝突し、混乱状態となった。


この状態を知り、議会議長は皇帝に向け、首都が無秩序状態であること、速やかに新たな内閣を組織し、民衆の不満を静めることを要請した。


この連絡を受けたアルノルド四世は更なる軍の投入を決定、彼らに反乱を鎮圧させるように命じた。


その翌日27日、反乱兵は数を増し、夕方には反乱兵のみの規模でも数万人までにのぼった。


更にその翌日である28日、他の都市でも反乱が起き、鎮圧部隊は解散を決定。


革命が正式に認められ、労働者たちによる臨時政府が立ち上げられた。


さて、ここで戦争の方へ目を向けると、煤羅射軍は革命への鎮圧で接収されていた部隊が抜けたこともあり、ただでさえ拮抗していた陸軍が支えていた戦線は崩壊。


唯一優勢を保てていた航空戦力も疲弊し、藩泥流の航空部隊は性能で勝る煤羅射の機体を数で押し、航空部隊の支援も儘ならなくなってしまった。


たった数日の出来事であったが、煤羅射―藩泥流間の戦いの主導権は拮抗状態から明らかに藩泥流へ移った。


煤羅射軍上層部は戦線崩壊を知るとともに焦土作戦を展開するよう指示を出したが遅く、既にその領土を完全に侵された後であった。


煤羅射の敗北と焦土作戦の失敗。


これで藩泥流軍の士気はさらに増し、補給も堅いものとなった。


この結果は他の戦線にまで影響を及ぼしたのである。


同年 3月2日 藩泥流 成会矛上陸地点 敵地作戦本部


「最近、バンデルが勢いを増して来たな」


「はい。全体的な力が増し、予断を許さない状況です」


「いったいどうなっているのやら……」


「さぁ……?」


「取り敢えず、次の補給はまだいいが、その次の戦力投入……陸上機の投入がなされなかった場合、再び我々は本土へ撤退する可能性が出て来た」


「二度の撤退……ですか」


「そうなれば、さらにバンデル帝国軍の士気を高めてしまうことになるな……」


「それは避けたいですね」


「はぁ……あぁ」


将校の一人は溜息を吐き、目を瞑りながら頷いた。


同月 7日 浮蘭詩王国 首都ルートティア


「陛下、失礼します」


「どうした?」


「一時回復していた北方戦線が再び崩壊しました。戦っていた部隊は壊滅、現在撤退中とのことです」


「……何があった?」


「バンデル帝国軍が一時投入していた航空戦力を再投入し、我が軍はなす術なく……」


「そうか……」


「実用航空兵器として軍用飛行船だけではどうにも……。飛行機の軍用化を現在していますが、機銃、機関銃を飛行機に載せられるだけの軽量化、及び載せられるだけのエンジンの馬力の向上が未だ出来ていません。今行っているのは飛行機による偵察のみです」


「そちらの戦果と損害は?」


「戦果は援軍の増援や撤退の指標に良く役立っていると言えますでしょう。使っていなかった時期と比べると地上部隊の損害は格段に少なくなりました。損害は……、敵機が現れるとどうにも……。拳銃は持たせてはいますが……」


「はぁ……」


「申し訳ありません」


「兎も角、開発を急いでくれ」


「分かりました。開発部には改めてそう伝えておきます」


「このままでは戦線がここまで、いやこれ以上下がり、場合によっては敗戦する可能性もより高くなってしまった」


そういってフランシス王国国王は更にもう一度溜息を吐いた。


同年 5月3日 夕方 相坂家


「今日は郵便物が多いな」


今日の仕事から帰って来ると、郵便物受けには久々に色々な郵便物が入っていた。


その中に見覚えのある、嫌な予感を煽る封筒があった。


「これは……」


送り主は、軍。


内容は、予備役の招集。


「大丈夫デスカ?」


それを見ていると、愛奈に心配をさせてしまった。


家の中で余計な溜息を吐かないようにするが、顔には出てしまっていたらしい。


「あぁ……、これから少し、大変だなと思って」


できるだけ心配させまいと、苦笑してそう言うしかなかった。

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