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凪の中の突風  作者: NBCG
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102話 化学兵器

明海二十年 9月26日 成会矛軍上陸地点 上空


「敵機、一機撃墜!」


上陸地点も大変な戦場ではあるが、空の戦場も一層のこと、乱戦を極めていた。


しかしながら浜綴の航空戦力は藩泥流の大部隊を前に怯むことなく、敵機を屠っていた。


「小川、更に一機撃墜!」


『上陸部隊の方に三機突出して近い機体がいる!すぐさま急行し航空阻止せよ!』


『鯖戸隊!直ぐに向かう!』


実力では天と地ほどの差はあれど、護衛対象と敵飛行機の多さで忙しさは苛烈なものとなっている。


たった10機で上陸部隊と爆撃機を守りながら、30機以上を相手にせねばならない。


これでは、いつか味方部隊の何れかに、損害が出てしまう可能性が高い。


『クソッ!鯖戸隊、間に合わない!』


「静凪隊、鯖戸隊の支援に向かう!行くぞ!」


「了解した!」


先ほどの三機が上陸部隊の近くに飛んでいる。


「くっ……間に合わないか……!?」


「間に合え!」


『鳥羽、一機撃墜!』


彼らが一機撃墜したなら、彼らは間に合ったのか?


そう考えた時だった。


『クソが!敵機、爆撃開始!敵機の目標は上陸部隊と思われる!』


自分たちの願いは届かず、敵機は爆弾と思われるものを投下した。


『栂居、投下した飛行機を撃墜!』


「静凪隊、到着した。相坂、最後の一機を撃墜!」


なんとか浸透した敵を討ち、投下された爆弾を見やった。


『敵の爆弾、上陸部隊付近に着弾した……が、あまり爆炎は確認できない。不発弾?威力が低かったのか?』


その言葉に、多少の安堵を感じる。


航空阻止は果たせなかったが、味方陣営に被害が出ていないのなら……。


『あれは……白煙?霧の様なものが……まさか!?』


鯖戸隊の一人が、何かを察したらしい。


『鯖戸隊、どうした?』


『あの白煙……毒瓦斯の可能性があります』


『それは、不味いな……。現状今は敵飛行機の撃墜が第一作戦目標だ。君たちは、まずはそれに専念してくれ』


『『「「了解!」」』』


早く対処しないと、上陸部隊への被害が甚大になってしまう。


『こちら鯖戸隊、成会矛の爆撃機が一機落ちた!』


思った傍から……!


「静凪から海眼へ。増援を要請する!」


『こちら海眼。増援要請は既に送っている。増援到着まで、もう少し君たちの力で頑張って欲しい』


「無茶言う……」


『済まない……。しかしもっと悪い知らせだ。敵増援を確認。同方位、距離1600、数は12』


「多い……!」


『海眼から作戦全機へ。上陸部隊に近い機体が二機だ』


『水際阻止は鯖戸隊が続けて対応する』


「静凪隊、敵増援の迎撃に当たる。鯖戸隊、良いな?」


『鯖戸隊、了解。あぁクソ、また投下しやがった!』


「水際阻止出来てないじゃないか。まだ支援が必要か?」


『静凪隊は敵増援への迎撃に専念してくれ』


「了解」


状況がかなり切迫しており、皆が気を張り詰め、皆の気も立っている。


そうして、自分たちは極度の緊張状態を保ち、迎撃に当たるのであった。


……。


『こちら海眼。作戦全機へ。敵航空勢力の撤退を確認。敵地上戦力も壊滅、撤退が確認されている。上陸部隊は敵化学兵器を前に進攻を停止。橋頭保は構築できたが、そこから先へ行けるだけの戦力は失った。最終的に、作戦は戦術的勝利、戦略的敗北という結果になった。地上残存部隊は撤退し、改めて上陸作戦を敢行することとなる。今日の作戦は終了。撤退作業中の地上部隊の支援はもういい。作戦全機、帰投せよ』


『『「「了解……」」』』


皆が疲れたようにそう返した。


「相坂より海眼へ」


『どうした?』


「今回使用された化学兵器の詳細は分かっているか?」


『いや、分析が済んだのか否かの情報もこちらには回ってきていない。恐らく帰投して、艦で説明があると思う。それまで待ってくれ』


「了解した」


『他に何か質問はあるか?』


「いや……ない」


『そうか……。では、改めて、全機、帰投せよ』


帰路 海上


「相坂、どうかしたのか?」


「いや」


「嘘吐け。その声で何もないは通らないぞ」


「そうか……。実は、化学兵器に苦しむ地上友軍部隊を見てしまってな」


「ああ……ご愁傷さま」


「それで早急に対処できそうかどうか生機に聞いたってだけだ」


浜煤戦争でも、化学兵器が用いられていたとは聞いていた。


だが、化学兵器があれほどのものだとは、見るまでは真の理解はしていなかった。


「本当に、自分たちは、こんなに遠い異国の地まで来て、一体何をしにきているのだろうな」


北海 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 第一会議室


「……とのことから、敵軍が用いたと考えられる化学兵器は、塩素瓦斯であると考えられる。これは水溶性の気体で、水を掛けると、塩酸と次亜塩素酸の混合溶液となる。この状態では強い酸性の液体で、危険だが、霧散状態の塩素瓦斯よりは対応しやすいため、まず水を掛けることが先決となる。そしてできた液体に、重曹、または消石灰を散布してこれを中和、無毒化することができる。いずれにしても塩素瓦斯は極めて毒性が高く、この攻撃が見られた際には地上部隊の退避を行い、風向きを確認、風上から放水し水溶させ、中和作業へ移るのが最も安全な対応策だと言える。その為君たちには水と重曹を持って戦闘に上がってもらうこととなった。そして……これは君たちにはあまり関係ないかもしれないが、一応知らせておこう。塩素瓦斯は非常に重い瓦斯であるため、放水後も溝や塹壕に溜まっている可能性もあるため、安全性が確認されるまで風通しの悪いところには立ち入らない様に、とのことだ。ま、風通しの悪い所への散布も忘れるな、ということとでも思っていてくれ。兎に角これで今回使用された化学兵器の概要説明は終わりだ。何か質問は?」


「他の化学兵器が用いられる可能性もありますが、その場合にはどうしますか?」


「敵が化学兵器を用いた場合には、まずそれを採取し、解析。対抗策のある物質であったのなら中和、無毒化を行い、そうでなければ完全に撤退、という感じになるはずだ」


「分かりました」


「他に質問は?」


「はい」


「はい、そこの」


「続けて塩素瓦斯の使用はどれほどの可能性が考えられますか?」


「塩素瓦斯は成会矛からの報告によると、初めて用いられたらしい。今回の戦いで、恐らく藩泥流は有用であると判断したと考えられる。高確率で、塩素瓦斯……、若しくは他の化学兵器が用いられると考えられる」


「ありがとうございます」


「他に質問は……無い様だな。以上を以って、化学兵器についての説明を終了する。解散」


こうして、再び上陸作戦が発動されるまで、また訓練に勤しむ日々が始まった。

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