98話 運河を超えて
明海二十年 8月20日 紅海 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 飛行甲板
東南イシア海域を超え、南イシアは音打洋から何度かの補給を経て、今は地中海へ抜ける運河、地中紅海運河に向かっている。
そしてこのあたりの海域から、藩泥流などの所謂『同盟国』側の存在も出て来る。
地中海南東部に梅斧目戸が存在し、彼らの戦力は強大であるとされている。
そして彼らが広げる戦線はその海峡にまで及んでいる。
海峡を抜けるとすぐ北に彼らの本土があるが、取り敢えずは海峡を抜け、西へ向かい、『同盟国』側国家、墺利亜帝国に宣戦布告した、こちら側、『連合国』として扱われる芦麻菜王国に寄港し、戦力を整えてから再出征することとなっている。
芦麻菜は三国同盟に加盟していたが、墺利亜が軍事侵攻を開始したため同盟を破棄、戦況を見て墺利亜に宣戦布告したのである。
兎にも角にも、芦麻菜に着かないことには話は始まらない。
今までも海賊程度なら確認できた。
しかし海賊はこちらがそこそこ大きい海軍の艦隊だと判断したら、すぐさま撤退する。
だが、相手が梅斧目戸の軍であるとそうはいかず、迷いなく戦闘を仕掛けて来るだろう。
『偵察機より、二時の方向に敵航空機を発見したとの報告あり!各員、戦闘配置!』
……このように。
紅海 某所 上空
『海眼より静凪へ。機数八が接近している。偵察機からの情報より、全て戦闘機型と思われる。気を付けろ』
「「了解」」
自分と小川が返事を返す。
梅斧目戸は確か財政難で飛行機を運用することが出来ないと聞いていたが……。
無理して買ったか、義勇軍といった感じか?
まあいい。
これくらいなら、煤羅射の戦いでも経験したことはある。
それに煤羅射から出回っていた情報はPp-2以前の旧型機らしい。
慢心するわけには行かないが、そのとおりだと、脅威ではないな。
そろそろ接敵する頃かと考えていると、
「一時の方向に敵機」
「静凪から海眼へ。敵機を目視にて発見。改めて数を確認する。八機か?」
『海眼から静凪へ。その通りだ。今回の目的は艦隊護衛だ。敵が引き返したらそれでいいからな』
「分かっている」
そして、久しぶりの戦闘が始まった。
「相坂、一機撃墜!」
「小川、こちらも一機撃墜!」
『残り六機。二機が部隊後方へ回り込もうとしている』
「「了解!」」
手早く、一機ずつ撃墜。
やはりというか、梅斧目戸のものと思われる敵機はそこまでの脅威ではないらしい。
「相坂、回り込んだ一機を撃墜。もう一機を追う」
「小川、一機撃墜」
『敵機、残り四機』
「……敵機、逃げていく」
『海眼から静凪へ。こちらでも残りの敵機四機が戦闘領域から離脱する動作をしていることが確認された。作戦は終了。静凪全機、回頭し、帰投せよ』
「「了解」」
あまりにあっけなく、作戦は終了した。
同日 紅海 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 第一会議室
「……以上のことから考えて、斥候、哨戒部隊かと」
「まあ、だろうな。もうそろそろ運河に入ることもあるからだろうが、海賊がめっきり減ってきたからな。政府、海軍の領域に入ったということだろう」
「さて……敵艦がいつ来るのか……。この後すぐか、一日後か、それとも出会わずに行けるのか……。梅斧目戸の戦力を考えると、今の我々にすぐさま抗するよりも、機雷を敷設することの方が良いかと。多少は蓄えさせても、機雷で破壊する方が効率的であると考えます。それに、今の我々はすぐに芦麻菜に向かう途中。そこで戦闘すると梅斧目戸は深追いすることになり、哨戒しているであろう芦麻菜王国軍に迎撃され、深手を負わされる可能性が高まるかと」
「ただ、敵はこちらがここに入ってくる前すぐに補給したと考えて、船を出してくる、と考えられるかも知れんが?」
「それは難しいかと」
「……何故?」
「我々のような比較的大部隊が十二分に補給できる友好国の港となると、数が限られます」
「確かに。だが、それを梅斧目戸が知っているかどうか、だな」
「煤羅射という列強に勝った新興国。眼を付けない理由は無いと思いますが」
「それでも財政難の前では、優先度が低くなってしまうというのもあるだろう」
「それを考えると、出してくるかも知れませんが、場合によっては敵戦力が分からない為、機雷を敷設するのみ、と言うのも考えられます」
「こちらの航空戦力があることが分かった時点で、臨戦状態に移行するとも考えられるが?」
「ここまで遠くの国家となると、空母による攻撃の有用性が、戦場伝説扱いになっている可能性もあります。……あぁそれと、現状、連合国側と同盟国側で分かれてはいますが、我が国と梅斧目戸は互いに宣戦布告を行っておらず、交戦状態にはない、ということです。今回のような“小競り合い”はあっても、大部隊の衝突の可能性は低いかと」
「成程な……。兎も角、警戒を厳となせ、としか言えんか……」
「はい。栄龍の悲劇を繰り返す訳にはいきません」
「はぁ……」
上官と見られる将校が、溜息を吐いたところで報告を終わらせることとなった。
同月 23日 地中海 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 飛行甲板
「敵艦隊……こなかったな」
「ああ……」
自分たちの艦隊は今、地中海を西へ向かい、芦麻菜王国に向かっている。
「上は来るかもしれないから、いつでも戦いに行けるように心身ともに準備しておけなんていっていたが」
「俺たちは戦場に出たのにな」
「まあそれは、整備や操艦の人間も同じ、仕事はあった」
「だが砲雷部は全く仕事、なかったな」
「全ての組織で同じ仕事量というのが珍しい、ということだな……」
結局自分たち飛行部隊は敵航空機を発見次第迎撃に当たっていたが、敵艦隊自体は現れることなく運河を通り抜けてしまった。
戦闘機などによる襲撃は全てで計12回ほど。
内8回を自分たち静凪隊が当たった。
真龍の部隊は一体何をしているのだろうか。
そういえば派閥の話があったな……。
もしかしたら、派閥争いで急いで出るな、なんて言付けがあったのかもしれないな。
また、梅斧目戸のものと思われる陸上部隊が運河に向けて地対艦攻撃を行おうとしているのを発見したため、これを破壊するために爆撃機を向かわせ、その護衛も行った。
これを含めれば、参加した作戦は10を超える。
本当に仕事量の配分は理不尽だな、この運河での仕事を考えると思ってしまうのだった。
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