91話 進む世界
明海十八年 8月23日 万京府 某所
大浜綴帝国 帝都万京の街の一角で、とある男たち二人が、新聞紙片手に話をしている。
「最近世界は物騒だな~。暗殺未遂に革命、それに軍拡」
「ま、俺たちにしては、儲ける機会が増えて、有り難いことだがな」
「お前も悪だな」
「そう言うお前も、稼げるときに稼ぎたいのは同じだろう?」
「まあな?でも、その戦火が得意先にまで飛び火したり、家族にまで及んだりしたら嫌だろうが」
「まあ得意先に、って話は分かるが、流石に家族ってのは大げさじゃないか?そういうのが起こっているのは雄州だろ?」
「まあ、そうなんだが、紛争が起こっているのは“隣”も同じだ」
「ああ、唐は……そうだな、どっちに投資するかで迷うな。確か対抗勢力の……」
「『文華民国』だな?」
「ああ、そうだ。俺は資産がある程度あるとは言え、両方に賭けて利益を出せる程、資産が余っている訳でも、余裕がある訳でも、ましては投資の感性がある訳でもないからな」
「……それ、良い話があるぞ」
「なんだよ。こういう話の“良い話”なんて、大抵あてになるようなものの方が少ないのに」
「まあ聞け。俺の昔の知り合いに、官公庁に行った奴がいるって話、前にしただろ?」
「ああ、それがどうした?」
「政府の連中、どうやらその『文華民国』に肩を持つ動きが大きくなってきているらしい」
「ほ~う。またなんでだ?」
「簡単だ。『文華民国』は共和制を元にする国家だが、近代化については浜綴を模範にするつもりらしい」
「……つまり?」
「ここまで言えば分かるだろ?『文華民国』のお偉いさん方は、こちらのお偉いさんたちに話を聞きに来る。そこで政府の連中は、ある程度奴らに口利きができるようにする思惑もあるらしい」
「成程な」
「で、どうだ?この話は」
「まあ、参考程度にしておくよ」
「それでもいいが、気付いた頃には儲けられる金額なんて、これっぽっちだぞ?」
「俺は大きく出られるまでの金は無いって、さっきも言っただろ?大金より今は、安定を選ぶぞ、俺は」
「分かったよ」
「もっと大きく出るのは、もっと金を手に入れてからにするよ」
「……そう言って、稼ぎどころをいつも逃してないか?」
「五月蠅えやい」
「お前が良いならそれでもいいがな」
「兎に角俺は、その話については、今回は見守る方向で行く」
「ほいほい……あ。これはもうある程度安定した業界の話のことだから、興味あるかもしれないが、聞くか?」
「……まあ、話があるなら聞こう」
「最近業界として、民間の航空輸送業界が温まって来たって話があってな。今はまだ貴族と金持ちの間でしか聞かない話だが、『今藤航空輸送』って株式の会社があって……」
男たちの話は更に盛り上がりを見せるのであった。
同年 12月24日 夜 相坂家
「今日はお疲れ様でシタ」
「まあ退役したとはいえ、予備役登録はあるから、その分はしないと。当然ではあるさ」
「当然でも、私と凪にとっては有り難いことデスから」
「そうかな?」
「最近の新聞を見るに、こうして健やかにあの子を育てられるだけでも幸せだということが分かりマスヨ」
「まあ……そう言ってくれると嬉しいよ」
少しばかり照れてしまう。
それを隠すように、話の話題を変えた。
「ところで愛奈は、来年度から働き出すんだったよね?」
「ハイ!」
「働く当ては、そろそろ見つかった?」
「ハイ!実はもう来年の四月から働くことが決まりましテ……」
「え、いつ決まったんだい?」
「エェト、昨日に……」
「成程、じゃあ自分が知らないのも無理はないか。で、どこに働きに行くんだい?」
「それは……秘密デス……フフフッ♪」
そう言って愛奈は人差し指を口に、妖しげに笑った。
「秘密って……」
「働きはじめたら、教えますヨ?それまでのお楽しみデス」
「危険な仕事か?」
「ンー、仕事内容に依ると思いマスが、私が行こうとしている所は危なくないと思いマスヨ」
「ならいっか……。楽しみにしておくよ」
「ハイ!危ないかどうかを心配してもらえるのは嬉しいデスが、それよりも、戦争が起こるかどうかのほうが私は心配デス……。退役したとはいえ、慎太郎サンも呼ばれる可能性はあるのでショウ?」
「まあ、それはあるけど……余程のことが無い限り、現役軍人が先に呼ばれるはずだし、自分たちが呼ばれることは、たとえ戦争が起こっても、確率としては低いように思うよ」
「そうデスか……。でもやっぱり、私はそのことが心配デス……。貴方がいなくなったりしたら、なんて考えてしまっテ……」
「そう言ってもらえたら嬉しいけど……そうかな?蓄え自体はそこそこあるし、周りの人たちも優しい人たちが多いと思うし」
「私は『貴方と』結婚したんデスヨ?慎太郎サンは私の心の支えデスから……」
「……あ、有難う」
こうも返事に困ることを言われると、嬉しくはあるが、何と言いうか……。
取り敢えずお茶でも飲んで落ち着こう。
「それに私は、ソノ……慎太郎サンがいないと、ダメな体になってしまいマシタから……」
「ぶっ!……ケホッ、ケホッ!」
余りに突然のことの内容に、お茶が気管に入り、咽てしまった。
「アァッ!ダ、大丈夫デスか?」
「いや、大丈夫だけど、そんなことを突然言われると思って無くて……」
「す、スミマセン!きょ、今日はもう先に寝させてもらいマス!オヤスミナサイッ!」
そう言って愛奈はパタパタと小走りで寝室に行ってしまった。
愛奈は時々何というか、突飛で不思議なことをするな。
あれは恐らく、文化的な違いと言うよりも、愛奈自身の性格、または考え方であると思う。
次の春から働くらしいが、そういうところは大丈夫なのだろうか……。
「ふぅ……」
もう一度落ち着くために、お茶を飲みつつ、夕刊の新聞に目を通した。
一面には、雄州の一部で武装蜂起や革命、暗殺未遂が日に日に増して、より過激になっているというものであった。
「愛奈の心配も、分からないでもないか……」
そう言いながら、次の記事へ読み進める。
そこには、文華民国がどうだのと言う記事が書かれていた。
浜綴は今年の10月の6日に文華民国を正式な国家として承認し、次の年から更なる国際関係の飛躍、推進が望まれる、と書かれている。
また、文華民国を国家として承認する国家を増やすことに協力する、とも書かれている。
本当に上手くいくのやら。
「あ、自分の会社が載っている……」
再び記事を進めると、そこには、「今藤航空輸送」が新進気鋭の企業だと、小さくではあるが、一つの枠として載せられていた。
「有名になったもんだなぁ……」
そういえば、愛奈は航空機の免許などが活かせる職に就くと言っていたが、結局どのような所に就くのかすら聞いていなかったな。
まあそれも、来年の4月に聞けば良いことか。
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