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凪の中の突風  作者: NBCG
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89話 今藤航空輸送

明海十六年 4月5日 今藤航空輸送 本社


ここ、今藤航空輸送の本社は、社長の今藤が元々暮らしていたということもあり、高須賀にその礎を定めている。


「本社」というのは、輸送を行うにあたり、輸送を行う飛行場や空港の各地に支部や支店のようなものなどを置いているためである。


……流石今藤、伊達に貴族をやっている訳ではない。


そこまで大きくはない貴族だとは聞いていたが、輸送機を数機購入し、社屋を数棟建て、その上「本社」用の飛行場を開くというのは、高級取りだった自分でさえ出来る所業では無い。


因みに自分の方が最終的な階級は、今藤は中佐、自分は大佐である。


それでも相続などもあり、今藤の方が資産は多く保持している、ということである。


「ああ、よく来てくれた」


「ご無沙汰だな」


「仮にも社長なんだから敬語とか……まあいいや」


自分が言うと、今藤はそう苦い顔をした。


「早速仕事の方だが、まだ輸送機の納入がまだ全部じゃないもんで、飛んでもらうのはまた後になる。それまでに社員としての色々なことと、飛行計画、制服を作るための測定をこれからしてもらうんだが……、今日のところは測定だけだ。それが終わったら帰ってもらっていい。次来るときは三日後の午前10時までにここに来てくれ。服の確認と、測定以外についてをしていこうと思う。いいか?」


「ああ」


「分かった」


「具体的に飛ぶのはいつから位になるんだ?」


小川が聞く。


「五月の始め頃だな。その頃には本格始動している予定だからな。あくまでも予定だが」


「分かった」


「他に聞きたいことは無いか?」


「自分は特に」


「俺は……無いな」


「俺も」


「それじゃ、今から測定だ。付いて来てくれ。……あと、中には俺より階級が上の奴もいるみたいだが、ここでは俺が社長だ。話すときは『社長』、最低限の敬語で頼む」


「「「了解、社長」」」


「そこは『承りました、社長』で……、やっぱりまあいいや」


この後、身体測定を行い、帰ることとなった。


同月 25日 今藤航空輸送 本社


「相坂、小川、遂に仕事だ」


「何だ?」


「やっとか。まあ予定よりは早かったか」


「まあな。で、この資料に書かれている量のものを運んで欲しい」


「まあ一班で出来ることと言えばそれだけだな」


「ええっと……、ここから青盛空港に……か」


「機体番号は1002だが、既に試験自体は終わっているよな?」


「ああ、確認済みだ。今からでも飛べるはずだ」


「では早速だが飛んでくれ。あ、倉田を機内整備士として同乗させても良いぞ。まあ飛んでる最中にそう故障することもないだろうが、荷降ろしに苦労するだろう」


「「了解した、社長」」


「だから『承りました』って……、はぁ」


同日 民間大型輸送機颯馬社用機体番号1002 固有番号34番 搭乗員室内


「そういえば、俺が相坂と一緒の飛行機に乗るのは本当に久しぶりだな」


「まあ、倉田を載せて飛ぶことなんて無いしな。試験飛行も基本一人で行うものばかりだし」


「複数人乗るような機体は爆撃機乗りや哨戒機乗りに任せているからな、今は」


「というか、他が作った飛行機に乗るなんて初めてだ」


「他の機を買って、研究したりしないのか?」


「そんなに技研は金無いし、それに技研は最新技術を開発することが第一だから、企業の量産型のやつはそこまで見ようとは思わないな、海技や陸技の奴なら兎も角。既存の技術を安く安定して生産供給することが考えられていると思うし、最新技術が使われているとは思わないからな。超超ジュラルミンみたいな新素材も、大概が業界内で有名になって、いずれこっち側……研究業界にも来るからな」


「そんなもんか?」


「まあ、海技や陸技なら普通に身に行けばいいし、何より先立つ金が無い」


「世界の航空技術の中で考えても最新技術が集まるようなところだと思うが、聞く話は他のとこでも聞くような話だな」


「全くだよ。政府はもう少しこっちに金を寄越せってのに……」


「……ん?左の機関の出力が少し下がっているな……。倉田、少し見てくれないか?」


「了解。……燃料槽は……油は差したところだから違うか……。超加熱か?」


「えぇと、あー、済まん。戦闘機のつもりで回していたみたいだ。程度速度を落として、左の出力を最低限に抑える」


「出力差で左右がずれるから、気を付けろ」


「流石に分かってる。感謝する」


「良いってことよ」


数時間後 青森空港


「よいしょと……。降ろすのはこれで最後か?」


「みたいだな。荷積みは少なくて助かる」


「俺は離陸前点検してくるから、相坂と小川は荷積みと手続きが終わったら機内で待機していてくれ」


「分かった」


「急いで手を抜くなよ」


「それは勿論」


「ふぅ~。仕事は一段落したな」


「帰るまでが仕事だぞ、小川『副機長』」


「それは背中が痒くなるから止めてくれよ、相坂」


「なら……小川『機長』か?」


「役職で呼ぶのを止めてくれって言ってんだ。ていうか、何気に勝手に帰りの役職を変えるなよ……」


「いや、そうした方が、気が引き締まるかなと」


「本当、相坂『大佐』は民間職に移っても生真面目だな」


「今は別に大佐じゃないと思うが」


「予備役なんだから、別にその階級称でもいいだろ?確かに現役だと偽ったらことだが」


「軍で動いている訳じゃないから不適切だろ?」


「そうか?」


「二人とも待たせたな。点検は終わりだ。出せるぞ」


「「分かった」」


同日 夕方 今藤航空輸送 本社


「三人ともお疲れ、書類が終わったら今日は帰って良いぞ」


「いいのか?」


「ま、最初はこんなもんだろ。この話が広がれば、新入りがしっかり働けるようになるまで君らが忙しくなるのは目に見えているから、休めるうちに休んでおくことが重要だからな。まあ最初の仕事だったから見送りとかしたが、次からは社員同士でやりとりしてくれ。俺は基本今日から後は何か用事が無いと話にはこないからな」


「そりゃどうも」


「じゃ、お疲れ。倉田も整備はあとの奴らに任せて良いからな」


「「「お疲れ様です、社長」」」


「……それはそれで変だから、『了解』でいいや……」


どうにかこうして転職してからの初の操縦士らしい仕事を終えたのであった。

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