9話 明海元年の新型機
明海元年 11月2日
例の三週間弱で終結した戦争から早一か月。
今日と明日で新型の航空機の試験が行われる。
両方、自分がまず始めに実戦経験ある搭乗者として。
今日は新たな概念として「爆撃機」として開発された、桐山である。
今回新型機に枕詞が付かなかったのは、上に開発部が「長い」と一蹴りされたためである。
本当は早風と太刀風も上官たちは略したかったらしいが、開発部が駄々を……涙ぐましい交渉術によって正式名はそのまま、書類上での略称はそれぞれ早風、太刀風となった。
そんなこんなな命名をされたこの機、桐山は、双発機であり、完全防風がなされている。
この機は四人乗りで、操縦士、主に航法を担当する副操縦士、投下係りの三人が最低限であり、四人目は投下の計算を行い、また銃座で自衛砲火を行う人を入れる。
固定武装は前方機銃に一三式航空小銃改、航法銃座に同小銃が付けられている。
一三式航空小銃改は、新たに弾倉が付けられている。これで一々一発一発弾を込めなくて済む。弾倉の中にはバネが入れられており、送弾する手間は弾倉の弾が切れた時に弾倉を入れ替える手間だけである。
そして搭載爆弾重量は三人乗りで120㎏、四人乗りで50~60㎏ほどである。
今回の試験は通常のように飛ぶかどうか、それと、飛んでいる最中に爆弾倉扉が開くかどうか、飛行中に航空小銃がしっかり発砲できるかどうかである。
「で、なんでお前がいる、倉田」
「いいじゃねぇか相坂。これはもともと四人乗りだぜ。一人が二人になったところで不具合が出てもいけないし、それに一人も良いけどたまには二人でも良いだろ?あと、後方の小銃は誰が撃つんだよ」
「まあ……そうか」
「それに、これは後で航空輸送とかの為にも使うんだぜ。移動するだけでも二人乗りは確実。なら今回も二人乗りでもいいんじゃないか?」
「そうか?なんかこじ付けのような……それに、事故っても自分は知らないぞ」
「お前はそんなことないと思っている」
「そりゃどうも」
「それに、一回でいいから自分が作った飛行機にちゃんと乗ってみたくてな。でも今までの飛行機じゃ、風防をつけるのが面倒くさくって」
「やっぱりそれが目的か」
「駄目か?」
「別に良いけど、取り敢えず、出るぞ」
「了解。やっぱり、安全帯だけで、風防を付けずにいられるのは良いな」
「倉田、五月蠅い」
「すまん」
「今度こそ出るぞ」
二人を乗せた桐山は、完成してはいるが、未だ就役していない千鶴型航空母艦三番艦、白鶴から発艦する。
「おお……これが飛ぶってことか」
倉田が浦呉の空からの風景を見て呟く。
「上昇……良し、下降……良し、右旋回……良し、左旋回……良し、加速……良し、減速……良し、右水平移動……良し、左水平移動……良し、機関動力を推進器と駆動器の離脱をさせる……問題無し」
隣で「ほえ~」とか言っている倉田を余所に、航空機の試験をする。
「倉田、急旋回の試験をする。何かに掴まれ」
「お、応」
「行くぞ……、右急旋回……良し、左急旋回……良し、急上昇……良し、急降下……良し、・……で、失速限界は……このくらいか」
「落ちてる落ちてる落ちてる!!!」
「五月蠅ぇ!」
機体を失速させると倉田が呪文のように落ちてる落ちてると叫び出したので、思わず怒鳴り散らしてしまう。
「だって!だって!あーーーーー!!!!」
「だから五月蠅ぇ!もう失速してないだろ!」
「あーーーーーーあぁぁぁぁ、、、え?」
「もう失速してないから落ちてるような感覚にはもうなってないだろ」
「あ、ああ」
倉田、もしかしたらちびっていたりして。
「次は小銃の駆動試験だ。弾倉は……ここか、これを付けてっと。こうか?」
「そうだな。それで操縦桿の鈕で……」
「成程。ちゃんと撃っているな」
「弾倉を変えずにまた撃てるかも試してくれ」
「応」
弾倉を変えずに操縦桿の鈕を押す。そうしたら前方の小銃から再び弾丸が発射された。
「問題は無いな。あと数回撃っておくか」
……。
「とりあえずこれで問題は無いか」
「そうだな」
「じゃあ倉田、爆弾倉扉の開閉と、航法銃座の確認を頼む」
「じゃあ後ろに行ってくる」
「気を付けろよ。お前なら弾倉扉から落ちかねん」
「いくら俺がドジだからって、流石にそれは無いって。取り敢えず行ってくる」
後方座席
うひょー。これが後方座席か。前方の操縦室よりも広い。それもそうか。人の他にも多量の爆弾も搭載するし、銃座もある。あと爆弾倉扉の分の空間も取っておかなければならない。
「っと、まずは爆弾倉扉の開閉の試験か。確か此処の鈕で……開いたな。で、もう一度押すと……閉じるな」
扉の開閉を何回かしばらく繰り返し、扉と扉の開閉装置が問題無いことを確認する。
「で、銃座に移ってっと。ここで撃つときだけとは言え、風防を目に付けないといけないのは、なんか嫌だな。ここに座らなくても良い控えの椅子が一脚あるとは言え。えーと、小銃の弾倉は……ここだな」
そして先ほど相坂がやったように弾倉を小銃に取り付け、発砲する。
後方小銃は太刀風のそれのように、左右上下に移動させて撃つことが出来る。
「動かしながら撃つことも特に問題はないな。さて、戻るか」
操縦席
「相坂、後方の爆弾倉扉の確認と、後方銃座の確認が終わった。全部問題は無かった」
「倉田のことがだから、大雑把にやったんじゃないのか?」
「俺だって流石に試験くらいは正直に、真面目にするさ。失礼な」
「それ以外が大雑把すぎるから、こういう時でも真面目にしないとか思われるんじゃないのか?」
「そりゃそうか。そうだな」
そしてハハハと倉田が笑っている。笑いごとではない気がするが……事故を起こさなければそれでいいか。
「じゃ、船に戻るぞ」
「そうか、着艦試験もあるのか」
「当たり前だろ。船から出た飛行機は何処に戻るんだよ」
「んー、飛行場とか?あと着水とか」
「それは状況が特殊な時だろうな。基本的には船だろ。普通考えて」
「冗談だって。冗談」
「そういうところが真面目だと思われない理由じゃないか?」
「自分で言うのもなんだが、実際試験とか開発とかの時以外は真面目とは言えんからな」
「おい」
「だがまあ、俺から言わせりゃお前は硬すぎだな。何事も硬く考えすぎているな」
「そうか?」
「俺、お前とあってからお前がふざけてるところ見たことが無いな。軽口や冗談は毎度のことだが、でもお前が楽しそうにしてるところは本当に一度も見たことは無いよな。お前が好きなものはなんだよ?言ってみろ」
「空と飛行機……と気球」
「今気球忘れてただろ。……って、そうじゃなくて、それ以外にだよ」
「う~ん……饂飩、蕎麦、あとは……味噌汁?」
「全部飯じゃねぇか……」
「味噌汁は飯じゃないだろ」
「いやそういうことじゃ……はぁ、まあいいや」
「なんだよ」
「これ以上何か言っても無駄だし、これ以上考えらんないな。お前が笑ってるところを見るのは」
「んー、空で戦っているときとかは、案外笑っているかもな」
「怖ぇよ!!」
「じゃ、そろそろ着艦する。少し衝撃があるから、しっかり掴まれよ」
千鶴型航空母艦 三番艦白鶴 飛行甲板
「例の新型機、特に問題はありませんでした」
「そうか……倉田は?」
「はい!空は思っていたよりも広かったですね!こう、自由!って感じがして」
「そうじゃなくて、機体の性能とか、調子とかだ」
「あー、そっちは何か問題が起こった訳では無いですね。あんまり高い所には行かないので
高い山に上ったときに起こる不調のような、例えば頭痛とかの症状が少しあったくらいですかね」
「ならいい。不調の方は山登りなどで訓練を入れたりしたらいいか……。じゃ、明日は相坂、一人乗りの新型機の試験を頼む」
「はい、時間は今日と同じで?」
「ああ。それと、お前が望むなら、この船の搭乗員用の船室を一室開けるが……」
「なら、今日はここに泊まるということで」
「そうか。部屋の鍵はこれだ。部屋番号は鍵に書かれている」
「ここの……これですね?」
「そうだ。部屋は飛鶴や千鶴と変わらないが……分かるか?」
「ええ、分かります。大丈夫です」
「ならいい。じゃ、また明日」
「ではまた明日」
11月3日 千鶴型航空母艦 三番艦白鶴 飛行甲板
「今日は俺は乗らないからなー」
「知ってる」
「じゃ、相坂、発艦と運動試験、そして新たに搭載された機銃の試験、そして昨日と同じくこの船に着艦だ」
この上官は何故かここにいる倉田を叱らないのだろうか。もしかして新型機の調整、整備も倉田の担当なのか?
「そう言えば機銃はおろか、こいつの細かな諸元も聞いていませんが……」
「それはすまなかった。これに載せられているのは新しく作られた小銃の一種でな、名を二八式航空機銃と言う。これは機銃と言って、機関砲のように連射できるが、機関砲よりは軽い。これは、機関砲とはガトリング……複数の銃身を備え付けて連射するのと比較し、これは銃身一つで連射が可能であるという点だ。引き金……もとい発射鈕を押し続けると撃ち続ける。そして、前の一三式航空小銃改と同様に、弾倉から給弾できる。まあ連続して給弾できないと機銃の意味がないからな。因みに二八式の二八とは、皇暦2528年の下二桁からだ。で、お前が乗る飛行機……戦闘機の名は『天風』だ。先の機銃はなるべく飛行機の重心に近くして安定性を得るために推進器のすぐ上に取り付けられている。そのままでは推進器の羽に当たるので、『同調器』という、羽が前に来た時に発射を停止するようになっている。あとは……見た通り金属でできた部分が早風のそれより大幅に増えている。なるべく運動性能は上げられるだけ上げてはいるのだが、重さ自体はどうにもね……飛んでいるときそれに留意してほしい」
「分かりました。重さですね」
「では、試験の準備を」
「了解。準備後に発艦します」
「気を付け給えよ。機体自体は多くあるが、実戦経験者は少ない。死んでくれるなよ」
「もちろんです」
そして、発艦準備をし、空に飛び立った。
……。
「運動性能は快調っと」
確かにほぼ全ての性能は早風と同じで、単純な加速と旋回性能に於いては早風のそれよりも上回る性能だ。今のところ、文句の付けようがないな。急降下からの復帰以外、重さを感じさせない性能だ。流石に急降下からの復帰では、底上げした馬力でも時間は掛かるらしい。
「次は機銃か」
自分は操縦桿に付けられた機銃の鈕を押した。
バババババ……と、機銃が唸った。
「こりゃ凄い」
思わず感嘆する。
「確かに同調器も、射撃自体も問題は無しか」
流石『戦闘機』。戦闘に向いた機体だな。早風では、今と比べれば、確かに遅い。早風に搭載されている一三式航空小銃も、今までの銃と比べれば一段と速いが、それでも連射可能なこの機銃には勝てまい。
技廠の力には脱帽する。飛行機と言う概念を生み出して一年半。もしかしたら二年くらいかも知れないが、それでもここまで性能を上げることが出来るとは。全く以って感服する。
「ふぅ……」
新たな愛機になるであろうこの機体の胴体部を、溜息と共にそっと撫でた。
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