序章:ペンタの冒険者時代86
序章ー114 帰還の前日 2
昼食をとって、しばらくの休憩をとる。リディやベルディアーナと会話をしたり、リバーシで遊んだりして時間をつぶしていると、隣の屋敷から迎えが来た。
「マリーお嬢様がお呼びです。ペンタ様、リディア様、ベルディアーナ様はご同行をお願いします」
ヒムカの里出身の黒髪メイド、リンネの案内で、俺たちは隣にある屋敷に向かった。
迎賓館とも見まごう、豪華な建物は、里に来訪した貴族をもてなすための者であり、西洋式のホテルのような内装をしている。
何気に、里に来てから初めて入る建物内に、興味深げにあちこち視線を向けながら、黒髪メイドの後に続いて歩いていくと、俺たちは一室に通された。
「ペン様、お待ちしておりました。ささ、お座りになってください」
部屋には、既にお茶の席が用意されていて、マリー嬢とセレスティアが席についており、壁際には筆頭侍女のフランチェスカさんほか、数名のメイドが並んでいた。
マリー嬢は水色のロングヘアの少女で、聖女の称号を得ている少女である。
小さいときに、魔神四天王の襲撃時に、俺が助けに入ったことで気に入られて、それなりに親しくしてもらっている。
13歳ながら、女性としての成長は早く、年少組の4人の中では一番スタイルが良い。
公爵家令嬢として、心構えを教え込まれているのか、常に穏やかそうな微笑みを見せている少女だ。
「玉露に、どら焼きでございます」
俺たちを案内してきた、リンネが手早く全員にお茶とお菓子を配って回る。
身のこなしは無駄がなく、素早い動きを見せるリンネは、ヒムカの里の忍びの技能を習得しているようで、マリー嬢の護衛も兼ねている。
「このどら焼きというのは、どう食べるものなのだ」
「基本は手づかみで「ごほん」………ナイフとフォークを用意いたします」
セレスティアの言葉に、リンネがどら焼きは素手で、と言おうとしたが、筆頭侍女のフランチェスカさんに咳払いとともに睨まれ、しぶしぶ、人数分のナイフとフォークを用意していた。
リンネに質問をしていたセレスティアは、ギルフォード子爵家の一人娘。
灰色の髪を三つ編みにした、マリー嬢のお傍付きのような態度をする少女であり、割とつんつんした態度をとることが多い少女だ。
年少組の中では、俺が一時期、ギルフォード子爵家にやっかいになっていたこともあり、付き合いは長い。
若干、ポンコツ気味なところもあるが、日々鍛錬なども行っており、徐々に改善されているところだ。
マリー嬢、セレスティア、リディア、ベルディアーナの4人と席に着き、緑茶とどら焼きとともに、会話に花を咲かせる。
会話内容は、ヒムカの里に訪れてからの出来事だったり、都市・タルカンにいたときの出来事だったり、
はたまた、過去の俺が孤児院にて教師のまねごとをしていた時のリディの思い出話や、
ギルフォード子爵家にて、俺とセレスティアの身に起こった、とある事件だったり、色々と話は尽きなかった。
「そういえば、ペン様は魔神の迷宮を攻略されていらっしゃるのですよね。ペン様の活躍を、ぜひ知りたいです!」
「いや、そのあたりのことは……」
「畏れながら、マリー様にはまだ早いかと」
なお、俺とデネヴァ、ウルディアーナとジャネット+ケットシー達で行っている、ダンジョン攻略についての話題は、筆頭侍女であるフランチェスカさんの許可が下りず、話題に上ることはなかった。
「もう、フランチェスカは過保護よ。そう思いませんか、ペン様?」
「ははは………」
じろり、とフランチェスカさんからの無言の圧もあって、俺はその場は、笑ってごまかすことしかできなかったのである。
そんなこんなで、マリー嬢たちとのお茶会はつつがなく終わり、俺は再び、滞在している木造家屋へと戻った。
時刻は夕方、既に掃除はあらかた終わったのか、デネヴァ達の姿もなく、静かな家屋の玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
なんとはなしに、声をあげて玄関に入った俺に、出迎えの声があって少々驚く。玄関先では、黒髪の美人、クオンさんが三つ指をついて俺を出迎えてきた。
「クオンさん? どうしてここに……」
「なんだかんだと、マリー様たちの相手ばかりしておりましたから、明日にはお帰りになりますし、ペンタ様のお相手も務めさせていただこうかと」
クオンさんは、俺たちの滞在先である、クスノキ家の女当主であり、おもにマリー嬢の世話を焼くために、隣の屋敷を切り盛りしていた。
水田を広げているときに、狼に襲われていた時に助けてもらったり、温泉宿に行く一行として共に行動したこともあったが、この家屋に来たのは初めてである。
「本日はこれから、夕飯を作ったり、お背中をお流しさせていただきます………セツナちゃん、貴方も協力してね」
「わかった」
クオンさんの言葉に、天井から顔をぴょこっとのぞかせたのは、ヒムカの里の里長の孫娘、セツナである。
年齢は13歳とマリー嬢たちと一緒であるが、小柄でおかっぱ、座敷童のような風貌は、年齢よりも幼く見えていたりする。
「それでは、私は夕飯のお支度をしますから、セツナちゃんはペンタ様の相手をよろしくね」
「了解。それじゃあペンタ様、なにしてあそぶ?」
………その後、その日の夜は大人なクオンさんと、ちまっこいセツナとともに過ごした。
クオンさんの手料理に舌鼓を打ったり、お風呂場で身体を洗われたり、同じ部屋で寝ることになったりした。
………危うく、搾られそうになったのは、ここだけの秘密である。




