序章:ペンタの冒険者時代85
序章ー114 帰還の前日 1
温泉宿から帰り、数日が経ちーーーーそろそろ、ヒムカの里からお暇し、タルカンへと戻ることになった。
タルカンへと戻った後は、一度、ドワーフの集落に、注文してあったものを受け取りに行く。
ジャネットの武具や、俺の武器、また、デネヴァが注文していた、あるものも出来上がっているだろう。
ともあれ、まずは里を去る前に、感謝の気持ちを込め、滞在時にお世話になった、木造家屋の大掃除をすることにした。
「「「にゃんにゃんにゃかにゃか~」」」
家屋のあちこちをケットシー達が移動しては、掃除用具を片手に奇麗にしていく。
11匹の色々な毛並みのケットシー達は、リーダーであるゲンノスケを中心に、精力的に動き回っていた。
「デネヴァ様、仏間の掃除は終わりましたニャ」
「わかったわ。それじゃあ、次は……」
いつもは、畳の上でごろごろと寛いでいるデネヴァも、今日は三角巾と前掛けをして、ケットシーの指揮を執って掃除をしている。
茶髪で15歳くらいの年齢のデネヴァは、俺の10歳の時に出会った初めての仲間であり、それからずっと行動を共にしている。
出会った当初は、お姉さんぶるなどして、それなりにしっかりしているように見えていたが、ここ最近は気が抜けたのか、わりと残念な姿を見せていることも多い。
そんな風に屋内で掃除をする、デネヴァとケットシー達を見つつ、庭の掃除を行っていると、
「そろそろ、お昼になるよ~」
台所の方から、ウルディアーナが姿を見せ、みんなに向かって声をかけてきた。
ウルディアーナはエルフの里出身の少女であり、エルフの里が危機に陥った時に、一緒に戦ってから、行動を共にするようになった。
里の守備隊の一員として、戦闘のセンスは突出しており、弓と刺突剣を使っての戦いを行う。
こちらも、見た目は15歳程度であるが、俺のことは弟分として見ていることも多く、最近ではちょっとだらしない姉のデネヴァと、しっかり者の姉、ウルディアーナといった感じだ。
まあ、身長で言えばすでに、俺は二人よりも高いのだが、年齢不詳な二人は、俺のことは弟扱いをして憚らない。
「今日は、おうどんっていうのに挑戦してみたわ。捏ねるのは、ジャネットがやってくれたけどね」
「私ができるのは、このくらいですので……」
デネヴァの後について、台所から出てきたのはジャネット。
魔神の迷宮を攻略するために、メンバーに加わった女性で、男爵家の復興を願い、俺たちのパーティに参加した。
現在19歳。シルバーブロンドに、アメジストの瞳を持つ美人。髪形は、肩まで伸ばしたショートヘア。スタイルはムキムキ女性ビルダー。
前線で戦う戦士ということもあり、力はパーティメンバー随一であり、その力でうどんを打っていたようだ。
「いや、うどんを作るのは大変だしな。ジャネットはよくやってるよ」
「そ、そうですか!?」
俺の言葉に、ジャネットの顔がぱぁっと明るくなる。少し前、ジャネットの実家を没落させた、元凶をやりこめたことで、ジャネットになつかれることになった。
気分は大型犬になつかれて、じゃれつかれている気分である。
掃除を休憩し、みんなでうどんをすする。なお、ケットシー達は猫舌なので、ゆでた後、ざるにあげて冷やした、ざるうどんにした。
「つるつるですニャ!」「ムチムチですニャ!」「美味しいですニャー」
「パスタとは違った楽しみ方よね」
「ずるずるずる……」
一部、箸に慣れてきた者たちは箸を使って。そうでない者たちは木のフォークを使い、うどんを仲良く食べつつ、談笑していると、隣に屋敷から、二人の少女が出てきて駆け寄ってきた。
「ペンタ先生、こんにちは!」
「ペンタ兄さま、ウル姉さま、来ちゃいました~」
俺のことをペンタ先生と呼んで慕う少女、リディとウルディアーナの妹、ベルディアーナである。
「いらっしゃい。二人はお昼はまだかしら? それなら、すぐに作るけど」
「はい、いただきますっ!」
元気よく言って、頭を下げるのはリディこと、リディア・アーストン。年齢は13歳で金髪をポニーテールにした、闊達な少女だ。
元気いっぱい、中性的な風貌の良い子であり、マリー嬢をはじめとする、年少組の良心ともいってよい。
「ウル姉さま、私も食べますっ」
若干引っ込み思案な性格だが、先にリディが言ったことで、自分もと声を上げたのは、ベルディアーナ。
エルフの里で仲間になった美人姉妹の妹で、年少組の中では、マリー嬢の次に発育がよろしい。
俺のことをペンタ兄さまといって、なついてくれている。
そんな二人にうどんを出して、二人が美味しそうにすすっているのは、微笑ましい光景に見えて、保保が緩むのであった。
「ところで、二人でこっちに来てどうしたの? 何か用事?」
「ずるずる………あっ、そうでした!」
器用に、箸でうどんをすすっているリディが、忘れていたという風に声を上げた。
「明日、出発する前にマリーさんが、ペンタ先生をお茶の席に、ご招待したいって言っていました」
「それで、午後にお時間が取れないかと、聞いてこいとセレスさんが……」
なるほど、マリー嬢からのお誘いか。とはいえ、掃除中だし、どうしたものかな。となやんでいると、
「いいじゃない。いってくれば?」
と、デネヴァがうどんをフォークで食べながら口にする。
「良いのか?」
「まあ、人間では力のある、公爵家の娘のおさそいでしょ? 断る方がまずいんじゃない?」
「ええ。後のことは私たちが行いますので、ご招待を受けるべきかと」
ウルディアーナとジャネットにも、そういわれたので。
俺は昼食を食べて少し休憩したのち、隣の屋敷に滞在している、マリー嬢たちのもとに向かうことにしたのであった。




