序章:ペンタの冒険者時代84
序章ー113 ヒムカの里にて(13)
風呂に入り終えた俺たちは、宴席場に移動し、それぞれ席に着く。長方形のテーブルに並んで座り、公爵令嬢であるマリー嬢が上座。
続いて、子爵令嬢であるセレスティア、男爵である俺、男爵令嬢であるリディ、元男爵令嬢であるジャネット、エルフのウルディアーナ、ベルディアーナ姉妹、デネヴァ、クオンさん、セツナと席に着く。
「それでは、順繰りに料理をお出ししますのでー まずはお飲み物にて乾杯をどうぞー」
「ペン様、乾杯の挨拶をお願いしますわ」
「え、俺? 了解しました。ええと、みんな、日ごろ色々とお疲れ様。せっかくだから、飲んで食べてリフレッシュしよう! 乾杯!」
カンパーイ! と声をあげて一同は杯を掲げる。
今回の宴席はコース料理のようで、お通しから前菜、吸い物に、タケノコの刺身、煮ものに焼肉、川魚と山菜のてんぷら、ご飯に漬物、お味噌汁と料理を堪能する。
「うーん、美味しい! ほっぺたが落ちそうだよぉ」
「そういってもらえると、嬉しいですねー」
リディの言葉に、ケモミミの女将が、ほがらかに笑う。
「それにしても、てんぷらや白いご飯が、また食べられるとは思いませんでした。あれはつい先日、里の歓迎会で初めて出された物だったはずですけど」
締めのデザート、果物の砂糖漬けと、さっぱりとした緑茶に舌鼓を打ち、クオンさんがそんなことを言う。
それに対して、けものみみをぴょこぴょこと動かしながら、ケモミミの女将クレハは笑みを浮かべた。
「里のことは、よく耳に入ってきますからー。おかげで、美味しい料理が作れるようになりましたー」
そういって、俺の方に目を向けてくる女将。どうやって料理の情報を手に入れたのかは疑問は残る所であったが、俺はというとそれどころではなく、
「だからなー、聞いているのか、ペンタっ!!」
「はいはい、聞いているよ」
誰が飲ませたのか、酔っぱらったセレスティアに絡まれている最中である。
「お前というやつはなー、まりーさまというものがありながらなー、たらしすぎだとおもわなりのかっ!?」
「はいはい」
「わらしのきもちもしらないでぇ………おい、ちゃっとわあってるんだろー?」
「まあ、楽しそうですね」
絡んでくるセレスティアを引きはがそうと悪戦苦闘していると、マリー嬢がそんな様子を見て、楽しそうに微笑んでいた。
いや、止めてくれよ。
それから、夕食の時間が終わり、グロッキーになったセレスティアは一足先に布団に。
その他の面々で、リバーシをしたり、歓談をしたりしつつ、夜は更けていったのであった。
そのご、数日間、近隣の山を散策したり、近くの川で釣りをしたり、温泉に入ったり、温泉後にはマッサージを受けたりと、のんびりと休日を過ごしていく。
そんなある時、俺の部屋にマリー嬢たちがやってきた。
「近くに、神様を祀る神殿があるそうです」
「はあ、神殿ですか」
「はい。この宿の女将にきいたのですけど、その神殿では恋愛成就のお守りが手に入るそうです」
「そうなんですかー」
「ペン様、一緒に行きましょう!」
と、そんなことを言うマリー嬢。なお、彼女の後ろでは、筆頭侍女さんが、
(お嬢様の誘いを断るなんてありませんよね?)
などと、鋭い目でこちらを見ているので、ことわることは出来そうになかった。
そんなわけで、みんなで温泉宿を出て移動する。山間の道は、途中から石段になり、登っていくのは結構きつそうであった。
「ううー、もうあるけませぇん、ウル姉さま~」
「はいはい、仕方ないわね」
なお、エルフ姉妹の妹、ベルディアーナの方は早々に根を上げて、ウルディアーナがおんぶをして上っている。
「マリー様、大丈夫ですか?」
「ええ、私は、大丈夫ですよ……」
セレスティアと並んで、石段を上るマリー嬢だが、さすがに深窓の令嬢には少しきついのか、息が上がってきている。
それを見ていると、セレスティアがもの言いたげに俺を見てきた。
俺に何とかしろということなんだろうと、足を止めたマリー嬢に声をかけた。
「マリー嬢、僭越ながら、俺に石段の上まで運ばせていただけませんか」
「はい、お願いします!」
少しはためらうかと思ったら、即座に了承の返答がきた。ひょっとしたら、登るのもつらかったかもしれないなと、マリー嬢の前でかがむ。
「それでは、背中にどうぞ」
「………背中に、ですか」
マリー嬢の声は聞こえてくるが、背中におぶさってくることがない。どうしたものかと思っていると、咳払いが一つ。
マリー嬢に従っている、筆頭侍女のフランチェスカさんの咳払いであった。彼女はもう一つ咳ばらいをすると、
「カーペンタ様。そういうときは、紳士は女性を横抱きにして登るものでありますわ」
「横抱き………そうなのか?」
俺の言葉に、マリー嬢は我が意を得たり、と、こくこくと首を縦に動かす。
まあ、両手がふさがるけど、みんなで登っているわけだし、問題ないか。と、俺はマリー嬢をお姫様抱っこして、階段を上るのであった。
「ようこそ、イナリ大明神へ! わたし、ここの巫女をしております、モミジと申します」
階段を上った先には、趣ある木造の神社が建っていた。神社を訪れた俺を出迎えたのは、巫女装束に身を包んだ、けもの耳の少女。
温泉宿の女将、クレハと名乗る少女はキツネ色の髪をした少女で、モミジは名の通りのモミジ色の髪色の少女である。
「ここでは、イナリ様に参拝するほかに、おみくじやお守りの販売を行っております」
「それじゃあ、まずは参拝をしようか」
俺たちは、賽銭箱の前に移動すると、賽銭を入れてから二礼二拍手一礼を行う。
「おお、きちんと作法を知っておられるんですね!」
どうやら、前世の記憶と同様に、神社での作法は同じなのか、モミジという巫女さんが感心したように声をかけてきた。
「たまたま、知っていただけですよ。ああそうだ、神様にお供え物があるんですが、これを………」
「こ、これは………てんぷらーというやつでしょうか」
「いや、油揚げっていう料理です。豆腐を油で揚げたものですよ」
ヒムカの里では、豆腐も作られていたので、こっそりと作っておいたものである。
キツネ色の油揚げをモミジに手渡すと………じっとモミジはそれを見て………
「これは、おいしそ………いえ、神様が喜びそうなものだと思います!」
たぶん、お供えしたものは、神社関係者がちゃんといただきました。とするのだろう。けもの耳をピコピコ、しっぽをブンブンさせて喜んでいるのが微笑ましかった。
その後、皆でおみくじを引いたり、ご利益があるというお守りを購入したりして、イナリ大明神の参拝を終えたのであった。
その翌日、俺たちは宿から出て、クオンさんの屋敷に戻ることになった。
「なかなかに、楽しい日々でしたね」
「そうですね、また来たいものです」
「あの神社にも、また寄りたいですよね!」
「でも、あの石段は、こりごりですー」
マリー嬢、セレスティア、リディ、ベルディアーナと名残惜しそうにする年少組。
「温泉に入って、マッサージして……身体が軽いわぁ」
「また、暇なときに入りに来ましょうね」
「良い休暇になりました」
ダンジョンの疲れがとれた、デネヴァ、ウルディアーナ、ジャネットのダンジョン攻略組。
「料金は、里長に請求してくださいね」
「じじさまに、まかせる」
支払いを済ませていた?、ヒムカの里のクオンさんとセツナと、出発前の様子はこんな感じである。
「また、おこしくださいませー」
と、間延びした様子で頭を下げる、温泉宿の女将、クレハとキツネ面の従業員一同の見送りを受けながら、俺たちは宿をあとにするのであった。




