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序章:ペンタの冒険者時代83


序章ー112 ヒムカの里にて(12)(※3人称視点)



巨大な池と見まごうような大きさの温泉に、竹で作ったししおどし(・・・・・)が鳴る。かこーんという風情のある音と、湯気にたなびく夜景が風情のある光景を生み出していた。

夕食前、まずは風呂に入って疲れをとってから、とケモミミ女将に勧められた一行は、皆で温泉に入りに来ていた。

なお、当然のごとく男女別である。一部の面子は渋ったが、おもに筆頭侍女、フランチェスカなどの苦言も入り、男女別の入浴と相成ったのである。


そうして、浴場につながる木の扉がガラッと開き、



「おー絶景かな絶景かな」


出てきたのは、カーペンタ男爵こと、ペンタである。腰にタオルを巻き、整えられた庭園のような温泉場に、感嘆の声を上げる。

18歳という年齢の大人一歩前の少年は、冒険者として活動しているうちに程よい筋肉がついており、そこそこ見ごたえのある位には鍛えられていた。

なお、湿気のある温泉であるが、ペンギンヘアは健在である。

そうして、興味深そうに周囲を見渡した後、ペンタは背後を振り向いて、


「で、なんでいるの?」

「お背中をお流ししようと思いまして」


ペンタに遅れて、浴場に入ってきたのは筆頭侍女であるフランチェスカである。こちらは裸ではなく、侍女服を着たままである。浴場に入るなり、眼鏡が曇り、それを布で拭いたが、どうにもまた曇ってきたので、眼鏡をポケットに入れると、切れ長の目でペンタを見つめた。


「それと、隣はマリー様たちが同時刻にお入りになる女湯でございます。ありえないとは思いますが、不埒な行動をとられるようでしたら、ころしてでもおとめする。というつもりで控えておりますので」


温泉を二分するように、長大な板塀が男湯と女湯を仕切っていた。

とはいえ、冒険者として身体能力が向上しているペンタなどには障害ではなく、あっさり飛び越えることもできるくらいである。

まあ、確かにそう考えると、覗きに対する監視は必要なのだろう。


「まあ、その心配は分かるよ。ただ、俺としては5歳も年齢の離れている相手を覗く気にはならないけど」

「クオン様や、ジャネット様など、肉体的に豊満な方も入浴されますが?」

「…………いやいや、それでも覗きはしないよ?」

「いま、少し悩みましたね」


返答の遅れた、ペンタに対して、目つきを鋭くする筆頭侍女。彼女の誤解を解くために、しばしの労力を必要とするペンタであった。



さて、そんな風に筆頭侍女さんに弁解したり、背中を流されたりしていたころ、隣の女湯では……



「マリー様、お痒いところはございませんか」

「ありがとう、リンネ。とても気持ちいいわ」


複数の侍女たちによって、マリー嬢が洗われていた。

ペンタがおひとりで(フランチェスカ監視付き)男湯に入っているが、こちらは令嬢たちの身体を洗う侍女を含めて十名を超える人数での入浴である。

とはいえ、それでも手狭に感じないほどに、女湯も広々としており、各々が温泉を堪能していた。


「うにゃ~、これは気持ちいいですねぇ」

「うう、確かに~」


最初は、マリーとセレスティア。公爵令嬢、子爵令嬢の順で身体を洗い、その次はベルディアーナとリディアが、侍女たちに身体を洗われて、気持ちよさそうに声を上げていた。


なお、デネヴァやウルディアーナなど、他の面々は時間がかかりそうと、自分でさっさと身体を洗って入浴をしている。


「はふぅ~、良い気持だねぇ」


頭にタオルを乗せた、デネヴァが気持ちよさそうに温泉につかって息を吐く。

見た目は万年15歳という彼女だが、その行為は少し年寄りっぽくみえなくもない。


「一献、どうぞ」

「はっ、いただきます」


その隣では、クオンがジャネットとともに、温泉の中に桶を浮かべ、そこに用意した酒を置いて、二人で飲み交わしていた。

温泉の中で良くは見えないが、クオンは出るところは出る豊満な肉体であり、ジャネットはというと、女性ビルダーのような、筋肉のしっかりついた身体つきであった。

そんな二人が酒を飲み交わしていると、小さな人影が、すいー、と前を横切った。


「温泉、きもちいいですね。()()様も来ればよかったのに」

「セツナちゃん、温泉で泳いだら駄目ですよ」

「波が立たないように気を付けていますが」

「それでも駄目ですよ」


と、クオンにたしなめられ、そうですか。とつぶやくと、セツナはちゃぽんと頭から湯の中に入る。そうして、竹の筒が温泉から出てくると、ふーふーと、そこから息が漏れた。

どうやら、泳ぐのはあきらめて、潜って楽しむつもりらしい。

なお、実際に温泉ですいとんの術を使うと、のぼせて大変なことになるので、注意するべきところである。


そんな風に、先に楽しんでいる面々がいる温泉に、マリーはセレスティアとともに入った。


「ふぅ、少し熱いけど、気持ち良いわね、セレス」

「は、はいっ………マリー様、なんとお美しい」


後半は、小声で言うセレスティア。今年13歳となる公爵令嬢、マリー。成長期を迎えている彼女は、日に日に美しさや(つや)やかさを増している。

特に、カップの大きさ自体は、大人の女性たちにかなわないものの、スタイルであったら随一に抜けていたりする。

一方で、セレスティアは良く言えば、すらっとした体躯であり、リディアも中性めいた身体つきであった。

ベルディアーナは、エルフにしては豊満な体系ということもあり、そのあたりの身体つきというのは、年頃の少女としては、セレスティアも気にし始めている頃合いであった。


とはいえ、マリーに関しては、その身体つきの差にひがむよりも、羨望の視線とともにため息が出てくるのであったが。


「お、おまたせしました~」

「うーん、熱いっ! でも、こういうお風呂も良いものですね!」


遅れてきた、ベルディアーナとリディアもくわわり、少女たちは温泉につかりながら、日々のことや、ペンタのことで盛り上がる。

そうしていると、気になったことがあったのか、マリーが板塀の方に目をむけた。


「どうかしましたか? マリー様」

「いえ、少し気になって………ねえ、セレス。あの方は何をするつもりなのかしら」


マリーの視線の先には板塀のところに桶を積み上げ始めた、ウルディアーナが映っていた。


「あれは、ウルディアーナさん? さっきまで、そこで温泉に入っていたと思ったんだけど」

「そうですよね~……ウル姉さま、何をしていらっしゃるんですか?」


と、温泉の中からベルディアーナが声をかけると、器用にたらいを積み上げていたウルディアーナは、板塀を差して小首をかしげた。


「この板塀の向こうに、ペンタがいるんでしょ。だから、ちょっと様子を見ようと思って」


そういうなり、積み上げた、たらいにのって、板塀の向こうを覗こうとしーーーー


「あらあら、抜け駆けはいけませんわよ!」


と、マリーが手近にあった、木のたらいを放り投げた。それは、寸分たがわずに積み上げられた、たらいの真ん中に当たり、


「うわぁっ!?」


たらいの上に乗って、男湯を覗こうと、あわよくば、そのまま向こうに行こうとしていた、ウルディアーナを落下させたのであった。




「ちょっと、なにするのよ!」

「言葉ではお止まりにならないかと思いまして。駄目ですよ、私も我慢……もとい、自重をしておりますのに」



「元気だなぁ」


そんなやり取りを、男湯では温泉につかりながら、ペンタは隣の女湯のやり取りを聞いていた。

温泉という違った環境もあってか、はしゃいだ声は良く通り、ペンタにも丸聞こえであった。

声とともに、彼女たちの裸体を妄想しそうにもなったが、なんとなく、監視をしている筆頭侍女には見透かされそうだと思い、無心で温泉に入っている。


そんな彼の近くに、竹の筒がつつっーと移動してきた。


「うん? なんだこれ」


と、ペンタが怪訝そうな声をあげて視線を向けたときである。


「ふはぁっ! ………なるほど、温泉に空いた穴は、こちらにつながってましたか」


ざばっと、温泉の中から、黒髪の美少女、セツナが飛び出してきた。もちろん、身に着けているものは何もなく、全rーーー

と思った瞬間、ペンタは背後から蹴り飛ばされて、数メートルほど飛びーーーーお湯の中に沈んだ。


「セツナ様でしたか。その恰好は、少々問題がありますので、こちらをどうぞ」

「んー、はい」


ペンタを蹴り飛ばして、お湯の中に沈めた筆頭侍女が、セツナに向かってバスタオルを差し出した。

有無を言わさぬ雰囲気に、セツナは素直にバスタオルを身体に巻く。


そうして、セツナは温泉から上がると、男湯の更衣室から、女湯の更衣室を経由して、もとの温泉に戻るのであった。



「ぷはっ! いまさっき、セツナがここにいなかった!?」

「………さて、そのような事はございませんが。のぼせて幻覚でも見られたのではないですか?」


浮かんできたペンタが怪訝そうに聞くが、筆頭侍女は淡々と返答し、ペンタの首を傾げさせたのであった。



そんな感じで、あちこちでトラブルなど起こりつつ、皆で温泉に入ったのであった。

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