序章:ペンタの冒険者時代79
序章ー108 ヒムカの里にて(8)
クオンさんとセツナとともに、屋敷に戻ることにする。
クオンさんはニンジャスタイルであったが、近くの茂みに入って数分もすると、普通の和装に着替えて出てきた。
「お待たせしました。それじゃあ行きましょうか」
「なんという素早い着替え……それも忍術ですかね?」
「ふふふ、どうでしょうか」
そういって、微笑むクオンさんは、穏やかな美人であり、ついさっきまでニンジャ装束に身をつつんで、クールにしていたようには見えない。
帰り道ではクオンさんから、今度、差し入れを持っていきます。とか、もうしばらくしたら、祭があるんですよ、など、そんな話をしながら屋敷に戻る。
そうして、畳敷きの和室に、俺、セツナ、クオンさんと三角に座して座り、ニンジャ姿についての説明を受けることとなった。
「もともと、このヒムカの里は公爵家に仕える、影の養成場所でもあったのです」
ヒムカの里では、狩りをしつつ、それぞれの実力を試し、強いものは忍びとしての訓練を受け、適正にないものは、農家をはじめ、諸々の職業に就くらしい。
それで、クオンさんの家、クスノキ家は、多くの忍びを輩出している家だそうだ。
「私の妹、リンネも忍術を習得したことで、マリーお嬢様のお傍に仕えることができたのです」
そういわれ、マリー嬢の傍に控える、黒髪メイドを思い出して、なるほどと内心で頷く。
言っては何だが、マリー嬢は公爵令嬢であり、彼女の傍仕えは、ほどんどが貴族出身者で固められているのが現状だ。
そんな中で、リンネが当然のようにマリー嬢の傍に侍らっているのは、護衛という役割があるからであろう。
「さて、それでは私がどうしてペンタ君のことをつけていたかというと……里長から監視するように依頼があったからですね」
「随分と、あっさりといいますね」
「まあ、隠しても意味のないことですし、問題はないと判定いたしましたので」
里長のジュウベエさんは、ラザウェル公爵に仕える影をまとめる頭領のような立場であり、俺の活躍も配下から報告は受けているものの、武勲はともかく、人間性については分からない。
そんな中で、ヒムカの里に来るということもあり、俺がどのような人間か、推し量るために監視をつけたということだ。
マリー嬢に気に入られている俺は、ともすればヒムカの里のニンジャ達とも関わることになるかもしれず、自分たちが仕えるかもしれない相手を、調べたいと思ったことは当然であろう。
「マリー様と離して、一人にさせたらどのような行動をとるのか探っていましたが、ヒムカの屋敷や文化に目を輝かせ、多くのものを作り出し、里に多くの水田を作り出し……これで評価が上がらないのはおかしいというものです。それに、セツナさんの色仕掛けにも反応しなかったのは、個人的に好印象ですね」
なお、うっかりセツナに襲い掛かっていたら、天井裏に潜んでいたクオンさんが、ひそかに強襲し、俺は昏倒させられる予定だったとか。
「なるほどなぁ。とはいえ、セツナだから良かったかもしれませんね。相手がクオンさんだったら、正直危なかったですよ」
ははは。と、俺が笑うと、
「ええっ!? い、いやだわ。こんな行き遅れのおばさんに、お世辞を言って」
クオンさんは、まんざらでもない風に、頬に手を当てて照れたように小首をかしげた。
いや、でも実際、13歳のセツナよりも、20代後半のクオンさんの方が俺にとってはありだったりする。前世の記憶を思い出したからか、精神年齢が上がったこともあり、ぶっちゃけ15歳以下の女性に対しては、娘のような感覚であり、添い寝とかされても、その気にはなれなかったりする。
なお、年齢不詳のデネヴァやウルディアーナは、どちらも見た目が育ってないので対象外だったりする。
「いや、お世辞じゃないですよ。クオンさんなら誘われたら即OKなくらいです。セツナはまだ小さいというか、将来にきたいっ……!?」
どすっ、と、いつの間にか近寄ってきていたセツナに、脇腹にチョップをかまされた。
「なんだか、腹が立った気がする」
「あらあら、ダメよ、セツナちゃん」
「………つーん」
その後、セツナをなだめるために、ひそかに作っておいた大判焼き(タイ焼きは専用の鉄板が作れていないから無理だった)を与えて機嫌を取りつつ、ヒムカの里のニンジャについて、クオンさんから色々聞くことになった。
翌日には、クオンさんの案内で、里の奥にあるニンジャの修練所を見に行ったり、茶屋でお茶をしたりした。
それから数日後、ヒムカの里の祭りが行われることとなり、マリー嬢をはじめ、全員が参加することとなった。




