序章:ペンタの冒険者時代78
序章ー107 ヒムカの里にて(7)
職人衆と、料理屋に訪れ、その日はひと段落として屋敷に帰る。
セツナも、ジュウベエさんのもとに帰るのかと思いきや、
「じじ様には、ペンタ様について働くようにと言われています」
と、そんなことを言って屋敷までついてきた。
屋敷では、ケットシー達が集まり、庭先で餅つきをしている。
粘り気のある品種のもち米があると聞いていたので、精米してケットシー達に渡しておいたのを、木の杵をつかってペタンペタンとついていた。
「おー、やっているな」
「お帰りなさいですニャ! そっちの女の子は、どなたですニャ?」
「里長の孫娘で、セツナっていうんだ。しばらくは、俺と一緒に行動することになってな」
「そうですかニャ! ようこそですニャ!」
「ねこねこ……もふもふ」
と、ケットシー達を見て、セツナが目を輝かせている。どうやら、猫好きなようで、ケットシー達に交じって餅つきをしたり、彼らを撫でまわしたりと、仲良くなるのは早かった。
ついた餅を、きなこにつけて美味しく食べたり、夕食をみんなでとったり、風呂に入ったりするうちに、寝る時間になった。
屋敷にある、自分の部屋に向かうと、何やら布団がこんもりとしている。
布団をめくってみると、和装の夜着に身を包んだセツナが、布団の中にいた。
「なにしてるんだ?」
「布団を温めていました」
「ああ、そうなんだ」
デネヴァや、ベルディアーナ、ウルディアーナもそうだけど、どうにも俺の知っている女性陣は、一緒の寝床で寝たがるのが多いような気がする。
まあ、野郎との同衾は勘弁してほしいけど、美少女と一緒なら別に不満はない。
「それじゃあ、寝ようか。おやすみ」
「はい、おやすみなさい……」
セツナと並んで、布団で眠る。早々に目を閉じた俺の隣で、セツナがポツリとつぶやいた。
「じじ様には、天井を見ていれば終わると聞かされていましたけど、これでいいのでしょうか……」
ジュウベエさん、孫娘に何を吹き込んだんですか!?
飛び起きて問い詰めたら、状況が悪化しそうなので、俺は知らぬふりでそのまま寝ることにしたのであった。
翌日、セツナの案内で、俺は里の各地を回ることになった。今日の予定は、未だ手の付けられていない荒れ地を、米が実る水田にするつもりである。
「このあたりが、誰も使っていない土地です。大きな岩が多くて、どかすのも大変なので」
最初に案内されたのは、大きな岩や小さな砂利が多数ある場所で、隣には田んぼがあるが、こちらは岩をどかすのに労力が必要で放置されているようであった。
「なるほど、このくらいの大きさなら、杭打機で砕いても良いけど……」
「!? 消えました」
「アイテムボックスに収納すればいいからね。砂利も適当に回収しておくか」
そうして、邪魔な石を一掃すると、雑草と土の地面が出てきた。
そうしてから、俺は竹竿を4本と長いなわを取り出すと、竹竿を4方の地面に刺し、長方形に囲えるように調整する。
「こういうのは、目印があった方がやりやすいからな」
その囲いを目印に、地面を長方形にアイテムボックスの中に取り込む。そうすると、掘ったりする手間も省けて、長方形の田んぼがあっという間に出来上がった。
最後に、用水路からトンネルを引いて、水を流し込むと、奇麗な長方形の水田となった。
「なんともまぁ、何かしてると思ったら、田んぼが出来ているじゃねえか。あんたが、これをつくったのか」
一通りの作業を終えて一息ついていると、麦わら帽子をかぶった、中年のおっさんが声をかけてきた。
「ええ。里長のジュウベエさんの許可をもらって、田んぼを広げているんです。とはいっても、俺自身が米を育てる余裕はないんで、田んぼを作っているだけですが」
「なんと。そんじゃあ、俺がこの田んぼを使わせてもらっていいか!?」
「そのあたりは、俺に言われても……勝手に決めるわけにもいかないんで、里長に相談すればいいと思いますよ」
「なるほどな。ありがとよ! ちょっくらいってくる!」
と、農家のおっさんは駆け出していった。
同じように、あちこちで田んぼを作っていると、里の農家さんが興味深げに声をかけてきた。
とはいえ、俺が決めることではないので、そのあたりはジュウベエさんに丸投げすることになったのだが。
そうして、十か所ほど水田を作った後、俺たちは里の中でも人気のないところにたどり着いていた。
「ここら辺は、田んぼも畑も少ないし、大自然! というかんじだな」
「人の住処が少ないので、この辺りは獣が出ることも多いですし、安心して農作業が出来ないんだと思います」
「まあ、その分、空きスペースはそこらにあるんだし……さっそく田んぼを、って」
「これは、大所帯ですね」
先に進めば、山と森に入る場所。そのあたりでも水田を作ってみようかとした矢先、森の奥から十を超える数の狼が姿を現し、俺とセツナに向けて、剣呑なまなざしと、唸り声をあげるのであった。
旧来の日本的な考えだと、山や森が近くでも、平気で田んぼを作れたが、この世界だと人里の離れは物騒だし、農業に適してはいないのだろう。
「しかし、参ったな……」
虎徹を取り出して、抜きはらった俺は一人ごちる。狼の群れは、集団で取り囲み、相手の疲弊を誘う戦い方をする。
決してあなどることはできない相手である。俺一人なら、包囲を突破して逃げるなり、優位な場所で戦えるが、今はセツナが一緒である。
「セツナ、俺から離れるな。どうにか切り抜けて見せるから」
「いえ、私も戦います。心得はありますので」
と、セツナをかばいつつ戦おうとした俺だが、セツナは淡々と、一緒に戦うと宣言し、懐から短刀を取り出した。
「ぐるるうるぁぁぁ!」
包囲した狼たちの中から1匹が、セツナに向かって襲い掛かってくる。その突進を
「はっ!」
セツナは避けると、短刀で狼の身体を切り裂いた。切られた狼は、悲鳴を上げて包囲の輪に戻っていく。
その動きを見て、セツナはかなりの腕前であると分かる。背中を預けることが出来ると分かったので、
「セツナ、互いの背中をかばいながら戦うぞ」
「わかりました」
俺たちは、互いをカバーしつつ、狼たちの攻撃をしのいでいく。何匹かが俺に斬られて地に伏せ、優位に立てるかと思ったのだが、
じれた狼たちが一斉に襲い掛かってこようとした。
「ちっ!」
一斉攻撃ともなると、さすがに全部はさばききれない。狼たちの爪や牙は小柄なセツナには致命傷になる。俺がかばって受けるべきか!?
そう考えに至った次の瞬間、
ぼふっ!!!
「うわっぷ!? なんだ? ごほっ」
唐突に、その場に煙が広がった。独特な臭いでむせる俺だったが、嗅覚の鋭い狼たちには、効果が強いものであったようだ。
「きゃうん!?」
悲鳴をあげながら、この臭いはたまらんと倒れた狼を残し、森の奥へと逃げ去っていった。
「----大丈夫ですか?」
声を掛けられ、そちらを見ると、そこには前世の漫画で見たような、忍び装束に身を包んだ女性がいた。
覆面をつけていて、顔は分からないが。どうやら彼女が、俺たちを助けてくれたようだ。
「ああ、大丈夫。助けてくれて、ありがとう」
「いえ、里の客人となるお方ですし、ご無事でよかったです」
「ありがとう。クオンさん」
セツナも、ニンジャ装束の女性にお礼を言っている………ん?
「クオンさん?」
「そう、ペンタ様が宿泊している屋敷の持ち主の人。今朝からずっと、隠れてついてきていた」
「ちょっ、セツナちゃん! それは秘密にしてほしかったのに……!」
と、慌てたように言う、ニンジャの女性。その声は、確かに知っている、クオンさんの声であった。
「はあ、しょうがないわね」
そういうと、覆面を外し……そこには、俺の知っているクオンさんの顔があった。
事情を教えてもらうために、俺たちは、水田づくりを中止し、屋敷に戻ることにしたのであった……。
軽く、ヒムカの里の主要人間のおさらい
クオン・クスノキ……20代後半。クスノキ家当主、アラサーくのいち←New
リンネ・クスノキ……20代前半。マリー嬢付きのメイド
セツナ・ココノエ……13歳。里長の孫娘。大食い。猫好き←New




