序章:ペンタの冒険者時代77
序章ー106 ヒムカの里にて(6)
セツナに連れられて、ヒムカの里の職人衆と会うことになった俺。
職人衆は、中年から老年の男たちで構成されており、大工仕事から細かい細工仕事まで、色々なことを細々とやっているようだ。
そんな彼らに、将棋やリバーシ、竹と木のリールで出来た釣り竿、せんばこき等を見せてみることになったのだが、
「ふむふむ、ほうほう、なんともまあ………!」
「なるほど、こうして糸を巻くわけか。これを応用すれば、別のものにも使えそうじゃな」
「まだ他にも、作ったものがあるのではないか? ほれ、もったいぶらずに見せんかい!」
職人の男たちは、全員が職人気質というか、ものづくり大好きなようで、俺がアイテムボックスから出した、木工品の数々に子供のように目をキラキラさせて見入っている。
ジンゴロウというおっさんは、将棋の駒を手に持ってしげしげと見入っては鼻息荒くしているし、タロウという老人は、釣り竿に興味津々、職人衆の頭領であるゲンナイというオヤジは、俺の首根っこをつかんでゆさぶってきていた。
「ちょっ、苦しいって……俺の頭を振ったって、何も出てこないよ!」
揺さぶられて苦しい思いをする俺。そんな状況を見かねてか、俺を案内してきたセツナが、ぼそりと呟いた。
「ペンタ様をぞんざいに扱うなら、じじ様に報告するけど、いいの?」
と、その言葉に職人衆はぴたりと動きを止めると、
「そ、そんなつもりはないぞ! ほれ、ゲンナイ! 放してやらんか!」
「客としてもてなさんと、ジュウベエ殿に睨まれるのは勘弁じゃ! 茶は、茶はどこじゃったかな?」
「す、すまん! つい興奮してな……ゆるしてくれい!」
ははー! と平伏したり、茶を探したりと、慌てだす職人衆。俺はというと、解放されて大きく息をついたのであった。
「なるほど、里おこしのために、これらを作って売りさばけばよいのじゃな。そうして、売り上げの一部は里長に収めればよいと」
「ええ。俺はずっと里にいるわけでもないし、里を発展させるのは、ジュウベエさんに任せるから、そちらに資金が行くようになれば良いと思ってね」
「なるほど。わかりました。男爵様のご期待に沿えるよう、職人衆も尽力させていただきます」
そんなわけで、俺の考案したものを、職人衆が作って里の外に輸出することに決まったのであった。
「それにしても、このリバーシ?というやつ……丸く木の板を切るのは、少し大変そうじゃな。奇麗な円を同じように書くのからして」
「ああ、それでしたら、それ専用の道具がありますよ」
話がついた後、リバーシのコマを手に持って、そんなことを言う老人の言葉に、俺はアイテムボックスから、いくつかの道具を取り出す。
線を引いたり、距離を測る物差し、木製のコンパスが大小2種類、計算用のそろばんである。
なお、物差しを作る際は、風魔法で”1ミリ単位で”切れ目をつけた後、1センチごとに切れ目を入れるという作業で完成させた。
「距離を測ることが出来るだと……!?」
「コンパスとやらを使えば、奇麗な円が書けるじゃと……!?」
「木の球をはじいて、計算ができる……!?」
「「「これを売りに出した方が、儲かるのでは?」」」
などと、真顔で言われ、物差し、コンパス、そろばんも生産の候補に入ることになった。
ただ、物差しは風魔法で”1ミリ単位で”切れ目をつける……という、精密な風魔法を使える人員が見つかるまで、生産は見送られることになるようだった。
俺? そんな延々と物差しに線をつける作業をするなんてお断りである。ブラック企業じゃないんだから……うっ、前世のトラウマが……。
次に俺たちが向かったのは、里の料理屋である”サクラギ”である。
夫婦で料理屋を経営しており、里の外から来る旅人が食事をする場合、ここに立ち寄ることが多いようだ。
「誰かと思えば、唐揚げの兄さんじゃないか。あんたの教えてくれた唐揚げ、旦那も気に入ってくれているよ」
料理屋で出迎えてくれたのは、女将でウエィトレスもしている、ヨモギさん。既婚者で一児もいるらしい。
店の奥に見える厨房では、ヨモギさんの声を聴き、クマのような大男が、ムン! とポージングをしている。
彼がヨモギさんの旦那さんで、クマハチと言い、無口でシャイだが、料理の腕は確かだそうだ。
「それで、あたしたちの店で、新しい料理をふるまえばいいんだね?」
「ああ。里の新しい名物になって、定住してくれる人が増えれば良いし、そうでなくても、訪れる人が増えるきっかけになれば良いかなって思って」
「わかった。それじゃあ、その料理がどんなものかを教えてもらおうじゃないか」
そういわれ、俺は厨房に通される。自前のエプロンを取り出し、何品かの食品を作る。
小麦粉を使った手打ち面を使ったラーメン、うどん、蕎麦に小麦粉のつなぎを入れた、ざる蕎麦、それに、あんこを入れたパンを油で揚げた揚げパン。
細い串にネギと肉を刺し、たれにつけて焼いたネギま、肉を細かくミンチにし、各材料と合わせ、捏ね合わせてから焼くハンバーグ。
デザートには、さっぱりとした風味の柚子のシャーベットを用意した。
「それぞれの料理は、味付けや調理法を厳選すればどんどん美味しくなるし、レシピはおいていくから、それを参考にして作ってみてほしい」
「なるほどねえ。やりがいがありそうじゃない。ねえ、あんた!」
ヨモギさんがそう言うと、麺を美味しそうにすすりながら、旦那のクマハチさんも刻々と頷くのであった。
「おかわり」
なお、ついてきていたセツナはというと、淡々とした様子で用意されたものを次々に完食していった。
実のところ、作った料理の大半は、彼女の胃に消えていったのである。大食いキャラだったのか……。
軽く、ヒムカの里の主要人間のおさらい
クオン・クスノキ……20代後半。クスノキ家当主
リンネ・クスノキ……20代前半。マリー嬢付きのメイド
セツナ・ココノエ……13歳。里長の孫娘。大食い←New
ジュウベエ・ココノエ……里長




