表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/92

序章:ペンタの冒険者時代76


序章ー105 ヒムカの里にて(5)



マリー嬢の歓迎の宴があった翌日、俺は単身で里長の家を訪れていた。

手土産に、自らの作った将棋やリバーシ、その他の木工品を持ち込んでのことである。


「ふむ、なるほど………これは面白いものですな」


要件を前に、里長であるジュウベエさんと、将棋を一局さしてみる。将棋のルールは先程教えたばかりであるが、もともとの頭の回転が速いのか、どう見ても俺が劣勢である。

………単純に、俺が弱いだけなのかもしれないが。


「まいりました」

「ありがとうございました。………して、本日お越しになられた要件は何でございましょうか」


そう切り出すジュウベエさんに、俺は訪れた要件を話すことにした。


「俺の作った、この工芸品を里の品物として、売りに出すのはいかがでしょうか。それと、工芸品だけでなく、料理のレシピも提供できます」

「ほう、この将棋やそのほかの品物を我々で取り扱ってよいと。それに、先日の宴の唐揚げや白米の飯はうまかったですからな。料理の情報もありがたいですな。それで、見返りは何ですかな?」

「工芸品や料理を使って、里をもっと繁栄させてください。そうして、人員が増えれば作物も多く取れますよね」

「人が多ければ、必然的にそうなりますな」

「俺は、ヒムカの里の作物……特に米が気に入ったんです。ですから、人を増やして、田んぼも増やしてもらって、米をたくさん確保したいんです。今だと、そんなに多くは購入できませんよね」


俺の言葉に、ふむ、とジュウベエさんは考え込むようにする。


「あ、それと、手つかずの荒れ地とかありますか? 里にいる間に、新しい田んぼを開墾してみたいんですが」

「荒地はありますが………いささか、我々に都合が良すぎる気もします。なにか、他の頼みでもあるのですかな?」

「? いえ、米が欲しいから動いているだけですけど」


即答した俺をじっと見てから、ジュウベエさんは、ほっほっと笑うと、手をパンパンと叩いた。


「承知いたしました。工芸品と料理については、里の職人のもとに案内させましょう。これ、セツナや」

「ここに、じじ(・・)さま」


スッ、とふすまが開き、いつから控えていたのか、セツナという名の少女が、正座で頭を下げてきた。


「孫娘のセツナに、里の案内を任せましょう。セツナや、職人衆と、里の料理屋にペンタ殿をお連れするように」

「はい。ペンタ様。よろしくお願いいたします」


………と、そんなわけで、俺は里長の孫娘、セツナとともに、里を回って木工品や料理の知識を伝えることとなった。



里長の家を出て、セツナの案内で道を歩く。

無表情の釣り目の美少女であるセツナだが、無口というわけでもなく、会話をしながらの移動である。


「そうですか。ペンタ様は里の米を好ましく思っておられるのですね。私も、米は好きです」

「ああ。パンも悪くはないけど、やはりご飯がないとな。あ、そういえば聞きたいんだけど、里には蕎麦もあるかな?」

「蕎麦……ですか。ありますけど、あまり美味しいとは思えません。粉にして捏ねたものを茹でただけのものですし」


と、無表情でいうセツナ。並んで歩く彼女の髪形は、肩先でそろえたおかっぱ頭。それが歩くたびにふわふわと揺れる。

無表情な、座敷童みたいだな。と、そんなことを考えながら、俺は会話を続けた。


「ああ、俺の食べ方はそれとは違うな。小麦粉をつなぎにして、蕎麦を打ってから棒で引き延ばしてから切って、麺状にしたものを食べるんだよ」

「麺、ですか?」

「そうだよ。蕎麦を使ってだけじゃなくて、小麦粉を使っても麺は作れるよ。うどんやラーメンとか。どれも触感が違って美味しく食べられると思う」

「………美味しいのは、興味があります」


無表情ながら、そんなことを言うセツナ。感情表現に乏しいけど、どうやら興味を持ってくれたようだ。


「それじゃあ、あとで作ってみようか。方法を知っているなら、割と簡単にできるし………里の料理屋で話すときに、ついでに作ってみようか」

「そうですか。それは楽しみです。では、まずは職人衆のもとに向かいましょう」

「了解。お楽しみは、後にとっておくってことかな?」

「いえ、職人衆の住んでいる場所の方が、近いので」


そんなやり取りをしながら、俺はセツナと一緒に里を回ることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ