序章:ペンタの冒険者時代73
序章ー103 ヒムカの里にて(2)
そんなこんなで、悠々と過ごしていたある日、マリー嬢やみんなが、俺の住む屋敷を訪問することになった。
ヒムカの里独自のマナーを一通り学んだわけだが、実際にそれが身についているかの確認のため、和風の屋敷を使って、おさらいをするということである。
問題がないと確認したら、ヒムカの里長のもとに挨拶に行くことになるそうだ。
玄関で靴を脱ぐ等、食事には箸を使うなど、独自のルールを一通り体験した後は、その日は俺の屋敷で各々が、くつろぐようであった。
「ええーーーーい」
カコンっ。と硬いものを木の板で打ち返す音が聞こえる。屋敷の庭先では、ベルディアーナとウルディアーナが、木の板と羽をつけた小石を打ち合う、羽子板を行っていた。
ベルディアーナが声をあげて打つが、頑張る声とは裏腹に、羽つきの球は、へろへろとあっちに飛んだり、こっちにとんだりと落ち着かない。
「ふっ!」
姉のウルディアーナは、鋭い身のこなしで遠くに飛んだり、地面すれすれにとんだ球を、ベルディアーナの胸元に、打ち返しやすいように戻していた。
一歩も動かないで、ヘロヘロとあちこちに飛ばすベルディアーナと、それを正確に彼女のもとに返すウルディアーナ。
気分は千本ノックというか、〇〇ゾーンというか……羽つきってそういうものじゃなかったような気がする。
「じゃあ、ここにおいてー、一気にひっくり返すよっ。これでボクの勝ちだね、セレスちゃん」
「うぬぬ………もう1回だ!」
屋内では、先日作った将棋のほかに、丸く切った木材の反面に色を塗った、リバーシをつかってリディとセレスティアが遊んでいる。
最初は、将棋を使って遊ぼうと思ったが、駒の動く種類が多いので、覚えきれないとセレスティアに難色を示されたので、さくっとリバースを作ったのである。
「うむむ………」ぱちっ
「王手」ぱちっ
「お、お待ちになってください!」
なお、その隣では、デネヴァがジャネット相手に将棋を楽しんでいた。といっても、実力差があり、デネヴァにジャネットが何度もまったを頼んでいるようであったが。
「平和だなぁ」
そんな少女たちの様子を見ながら、縁側にて、ナイフを使って木片を削っていると、マリー嬢がお供の侍女とともに俺に近づいてきた。
「ペン様、何をしておられるのですか?」
「ああ、せっかく時間があるし、釣りの道具でも作ってみようと思ってね」
「はあ、釣りですか?」
「そう。近くに川があるらしいし、釣りをやるなら釣り竿が必要になると思ってね」
なお、釣り竿に使う竿の部分は、ケットシー達に頼み、山にある竹を持ってきてもらっている。
いま作っているのは、竿に着けるリールの部分であり、くるくる回して糸を手繰り寄せるあれである。
前世は少々ブラックな企業で働いていたこともあり、現実逃避して無人島生活でもしたいなー。サバイバルとなると、自作の釣り竿とかいいよね……などと益体もない考えをしつつ、ネットなどでリールの構造を調べていた。
その知識がこうして役立つのだから、何でも知っておくものである。
まあ、木製ということもあり、仕組みはかなり簡単なもので、手繰り寄せる力もそれほど無いのだろうけど、こういうのは気分の問題でもある。
本格的なガチの釣り竿とかリールを作るなら、ドワーフの親方に相談するのも良いかもしれない。そんなことを思いながら作業をしていると、マリー嬢が俺の隣に座って、まじまじと俺の作業を見続けてきた。
「ペン様は素晴らしいですね! ただの木から、見たことのないものを作り出しています」
「見たこともないって言っても、俺の記憶だと知っていたってものばかりだし……まあ、褒めていただいたのは、ありがとうございます」
前世の発明家たちのおかげで、マリー嬢からお褒めの言葉をいただくことになった。
その後も、木でできた、回して遊ぶコマだったり、凧だったり、テーブルや椅子、餅つき用の木づちや臼、米の収穫時に使えるせんばこきなど、思いつく限りの木製品DIYをしながら、まったり1日を過ごしたのであった。
………のちに、ヒムカの里の特産となる工芸品のもととなる物を、この時いくつか作っていたのだが、それを知ることになるのは、しばらく後のことである。




