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序章:ペンタの冒険者時代72


序章ー102 ヒムカの里にて(1)


明け方、小鳥のさえずりに交えて、コカトリスの鳴き声のような声が響く。

ヒムカの里では、ニワトリと呼ばれる鳥を飼っており、卵も肉も食用として使えるその鳥は、明け方になると時報代わりに甲高く鳴くようだ。


紙の明り取りの付いた、障子の扉。明け方の日差しが部屋に差し込んでくる中、俺は目を覚まして布団から抜け出して大きく伸びをした。

日本に近い文化形態である、ヒムカの里に滞在し、数日が経過していた。



「おはようございますニャー」

「ああ、おはよう」


俺は今、クスノキ家にある日本屋敷にて、ケットシー達と一緒に生活している。

当初はケットシー達は、デネヴァと共に近くにある大きな屋敷に住んでいたのだが、


「こっちの方がなんだか落ち着くんですニャ!」


と一匹、また一匹と、板と畳張りの家屋に上がり込んでは、そこかしこでゴロゴロしたり、丸くなったりしていた。

そのことについては、特にクオンさんやリンネからも何も言うことはなく、ケットシー達は俺の家を住処にしつつあった。

まあ、一人で住んでいるのも味気なかったわけだし、ケットシー達は里のあちこちに足を運び、食料を見つけてきたり、その食料を農家の人から米と交換してきてくれるなど、ありがたかったので断る理由もなかった。


「今日の朝ご飯は、どうしますかニャ?」


料理上手な、黒猫ケットシーのタンポポが、そう聞いてくる。

皆の食事当番であるタンポポは、他のケットシー達と比べると、朝は早かった。


「そうだな、ご飯と山菜、それに、みそ汁と……あとは焼き魚にでもするかな」

「それはいいアイデアですニャ!」


台所での炊事をタンポポに任せ、俺は庭に出ると、ここ数日でこの日本屋敷の中で発見した、あるアイテムを取り出した。

それは、和製のコンロと鉄の網を組み合わせた、七輪とよばれるものである。

網の上に焼くものを乗せ、炭を中に入れて火をつけると、炭火で良い感じに魚が焼けてくる。


煙とともに広がる焼き魚の匂いにつられてか、一匹、また一匹とケットシー達が起きてくる。


「おはようございますニャー、おいしそうだニャー」

「おはようございますニャー、まだですかニャー」


らんらんと、獲物を狙う目のケットシー達に取り囲まれて、何とも言えない気分で七輪で魚を焼く。


「おまえたち、囲んでいないで身支度をするんだニャ!」


それを、リーダーである黒猫、ゲンノスケが一喝して、解散させるのがここ数日の風景であった。



ヒムカの里に滞在して数日。当初はすぐに里を回ってみようとした俺達だが、マリー嬢をはじめ、俺以外の面々はヒムカの里の文化になじんでおらず、そのあたりのレクチャーをすることになり、彼女たちはクオンさん、リンネを教師役に、ヒムカの里のルールを学んでいるらしい。

俺一人で勝手にあちこち見て回るのも、どうかと思ったので、ここ数日は日本屋敷にて、前世の暮らしに近い、ざ、和風な生活を満喫しているところである。


「そういうわけで、全員が作法を習い終えるのには、もうしばらくかかるわね」

「なるほど。それで、デネヴァは何でここにいるんだ?」


日本屋敷の一室、畳敷きの部屋に裸足であがりこみ、ごろごろと寛いでいるデネヴァ。


「私はもう、習い終わったからね。私だけじゃなくて、ウルディアーナや他にも何名かは大体終わってるわ。だから、ケットシー達の様子を見に来たのよ。あと、ペンタの様子もね」


デネヴァの話を聞くと、ヒムカの生活ルールの習熟度が高いのは、デネヴァやエルフであるウルディアーナとベルディアーナ。

他の女性たちは、身分が低い人ほど、抵抗なくヒムカの里独特のルールを受け入れることが出来る反面、マリー嬢や彼女に付き従う侍女たちは、物心つくころから叩き込まれた、王国ルールが浸透しているため、四苦八苦しているようだ。

なお、子爵令嬢であるはずのセレスティアは、どちらかと言えば早めに習得できているようだ。これは、本人の素養か、騎士団長のおっさんの家がおおらかなのが理由なのかは判断のつけづらいところである。


閑話休題


そんなわけで、全員が習い終わるまで、俺のところに遊びにいくことはないでしょうね? 私たち、お友達でしょう? とのマリー嬢+彼女付きの侍女たちの圧で、セレスティア、リディ、ベルディアーナ達はこちらに来れないのだとか。

なお、そんな中でしれっと、俺のところに来る当り、デネヴァはマイペースというか図太いというか。


畳敷きの部屋には、日差しが差し込んでおり、暖かくなった畳の上で、ゴロゴロとご満悦そうなデネヴァ。

しばらくして、縁側で作業をしている俺に顔を向け


「何をしているの?」


と質問をしてきた。


「ああ、リンネさんに聞いたんだが、ヒムカの里には、将棋って遊びがないらしいから、せっかくだから広めようと思って。盤と駒を作ってるところだよ」


ケットシー達に集めてきてもらった、木材の破片。それを風魔法を使って切ったり、人力で文字を書いたりして、将棋の盤と駒を作っている最中である。

日本らしいところに来たんだし、日本らしい遊びもしたくなったから、行動に移すことにした。

まあ、そういう気になったものの、風魔法を使って木を一定の大きさや形に切ることが出来て、労力をそんなに使わなくて済みそうだから実行出来たことであり、魔法はマジで便利だなと実感できた一件である。


そんなこんなで、その日は一日かけて、将棋盤と将棋の駒を3セット程つくることにした。

最初は1セットのみであったが、試しに俺とデネヴァが将棋を指していると、ケットシー達もやりたそうにしていたので、急遽、もう2セット作ることになったのである。


なお、ケットシー達も交えた総当たり戦をやってみたところ、デネヴァがトップ。俺はまあ、中盤位の順位であったことは記しておく。



そんなこんなで、デネヴァは夕飯まで食べた後で、屋敷に帰っていった。

そうして、風呂に入って就寝することになったのだが、夜目が効くせいか、夜中でもぱちぱちとケットシー達が将棋をさしては声を上げることになったので、

真夜中での将棋禁止令が早々と出されることになったのであった。

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