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序章:ペンタの冒険者時代69


序章-99 後処理とヒムカの里への出立



ドワーフの集落に入り、一度、火竜の首が置かれている広場に立ち寄ってから、俺たちは長の家に移動する。

集落の中で、ひときわ大きい家の応接間にて、テーブルを囲み、俺は騎士団長のおっさんに火竜退治の一連の流れを知らせた。


集落に立ち寄ったら、近くの山に火竜が出て、閑散としていたこと。鍛冶場に向かったら、親方に火竜を倒して素材をとってこいと言われたこと。

山を登っていたら、先に火竜に遭遇したガルサス達、灰色の狼と出会い、共闘することになったこと。


火竜を退治したときに、俺たちとガルサス達で素材は折半し、火竜退治の名声は、グレートが一番の功労者として名を広めることを約束したことを語った。



「まあ、それではペン様は、火竜退治の第一功を譲ってしまわれたのですか!? 後々のため、出世するためにも受け取ってほしいところでしたのに……」

「いや、俺は別に、出世するのが目的で火竜と戦ったわけではないし、素材が手に入ればいいと思って」

「それでは、私が困るのです……!」


ふくーっ、と、不満そうに頬を膨らませるマリー嬢。普段おおらかな雰囲気の彼女にしては、子供っぽい仕草である。


「ははは、ペンタ殿は欲がありませんな。これまでの功績と合わせれば、子爵位も考えられたでしょうし、マリー様としては不満でしょうな」

「いじわるですわ、ホープおじさま!」


騎士団長のおっさんの言葉に、マリー嬢は拗ねたように、おっさんを見る。

なんでマリー嬢がここまで憤慨しているのかわからず、傍らに座っていた、セレスティアに小声で聞いてみた。


「なあ、なんでマリー嬢は不機嫌なんだ?」

「それはペンタが、功績を得ようとしなかったからだろう。マリー様としてはお前が子爵位を賜れば、嫁入りに一歩近づけるのに、その機会を逃したことが立腹の原因だろう」

「は? 嫁入り? マリー嬢は一人娘だし、婿を取る立場だろう? なんでそんな話が?」

「………実はこれは内密だが、公爵様と奥様の間に、新しい子が出来るかもしれないらしい」


セレスティアが、父である騎士団長のおっさんに聞いたところによると、すこし前に、ラザウェル公爵夫人が身体の不調をうったえたことがあり、愛妻家の公爵は領内の名医を呼んで妻の様子を診てもらったとか。

そこで妊娠が発覚し、公爵家内部はてんやわんやになっているらしい。


産まれてくるのが男子なら、公爵家を継ぐという重責からマリー嬢は解放されるし、仮に妹だとしても、公爵夫妻はまだまだ若いので、マリー嬢が他家に嫁入りするという可能性は充分にあり、とみなされるようだ。


「というわけで、マリー様の嫁入りの可能性が出てきたわけだ。それで、他家に嫁がれるとなれば、さすがに身分のことを考える必要がある。男爵家では厳しいが、子爵家以上なら、公爵令嬢が嫁入りするラインには入る……と、父上は言っていたな」

「はい。そういうわけですので、ペン様にはぜひ、これからも頑張ってほしいのです」


セレスティアとひそひそ話をしていたら、いつの間にかマリー嬢が席を立って、俺に近寄ってきていた。


「いやー、俺はそこまで、出世に興味はないというか、あまりそのあたりは考えていないというか……」

「ペン様は、私がお嫌いですか?」


うるんだ瞳でみつめられて、俺は首を横に振る。マリー嬢は美少女だし、自分を慕ってくれるのは嬉しいところであるが、その思いに応える覚悟が今の自分にはないのが現状である。

そんな俺の態度を見て、面白そうに口をはさんできたのは、騎士団長のおっさんであった。


「まあ、公爵家という身分はやっかいですからな。その点、うちのセレスは子爵家ですし、気楽で良いですぞ。どうですかな、嫁に」

「おじさま?」


聖女が鬼になるというか、角は生えていないが、それまでうるんだ目で俺を見ていたのが一転、凍り付くような能面で、騎士団長のおっさんを見るマリー嬢。その代わり身が怖いんですけど。


「おっと、これは失礼。素直になれない娘を心配する、親心でしてな」


なお、豪胆なのか鈍いのか、騎士団長のおっさんは、マリー嬢の目線におびえる風もなく、笑顔でさらにそう返していた。



それから、なんだかんだで1週間ほど。騎士団長のおっさんに連れられ、事後処理やら表彰式やらを行うことにした。

事後処理は、今回の火竜の一件で出た損害の補填や、出て行った人々が帰還できるようにする手配。

表彰式は、火竜の首が置かれた広場の前で、今回の一件に対する褒賞を与え、火竜討伐が行われたということを大々的に広めるのが狙いのようだ。


表彰式には、一番前に出ているのはグレートであり、騎士団長のおっさんから勲章をもらっていた。

なお、勲章はもらわなかったものの、グレートの後ろに、俺たちのパーティと、灰色の狼の面々も控え、火竜退治を行ったメンバーであると発表され、それぞれに金一封を承った。


今回の一件で、グレートは実家から帰って来いと呼び出しを受け、跡継ぎに返り咲き………すると思ったら、


「まだまだ、栄光の騎士の活躍はこれからだからね!」


と、冒険者を続けていくつもりのようだ。


灰色の狼は、火竜退治の素材が高値で売れたのと、報奨金を合わせて、かなりの大金を得ることになり、冒険者としての活動を辞めて、それぞれの道を歩むらしかった。

斧使いのガルサスは、妻子の待つ故郷へ帰り、魔法使いのジュネは魔法の研究にいそしむ。剣士コンラッドは火竜を討伐したという名声を使って道場を開く予定で、猟師のスパタスは気になっていた娘にアタックするつもりらしい。


栄光の騎士のグレートは、灰色の狼と一緒に行動したかったようだが、彼らが解散すると聞き、


「この私が、仲間になりたそうに君たちを見ている!」

「おことわりだ」


俺たちの仲間になりたそうだったが、即座に返答しておいた。一応、デネヴァ、ウルディアーナ、ジャネットに後でその話をしてみたが、だれもグレートを入れようとは言わなかったので、即答した判断は問題なかったと確認した。



そんなこんなで、一通りの仕事をこなしつつ、マリー嬢やセレスティア、リディ、ベルディアーナ達ともコミュニケーションをとりつつ、時間は過ぎていった。

とはいえ、鍛冶屋が多いドワーフの集落にデートスポットとなりえる場所もなく、長の家で話をすることがもっぱらであったが。


なお、会話をする中で、俺たちが今後行く、ヒムカの里へ向かうのに、マリー嬢たちも同行することになった。


「今回のお母様の一件もあり、お父様から譲歩を引き出せましたので」


と、それなりの数の護衛はつくものの、俺たちに同行するのは許されたようだ。なお、ヒムカの里への案内は、マリー嬢のメイドである、リンネ・クスノキがすることになっている。



それから数日後、ひと段落した騎士団はタルカンに戻り、一部の護衛とマリー嬢を連れ、俺たちはヒムカの里へと向かうことになったのであった。

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