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序章:ペンタの冒険者時代68


序章-98 山を下りよう



猛威を振るった火竜は沈黙し、その屍を地にさらしている。


「……やったか?」

「だはー、やってやったぜ、ちくしょう!」


警戒するように近づく俺。斧使いのガルサスは、力尽きた風に地面にあおむけに倒れ込んだ。

幸い、火竜は完全にこと切れているようで、呼吸もせずに大地に横たわっていた。


「さて、火竜は倒したけど、あとはこれをどうやって持っていくかだな……」

「ふむ、確かに皆で討伐したと証明するためには、火竜を持っていくのが一番だな。とはいえ、この大きさは問題であるが」


俺の言葉に、グレートが首をかしげて言う。火竜の大きさは、1戸建ての家が2つ並ぶほどの大きさであり、担いで持っていくというわけにもいかない。


「証明っていうなら、牙とか部位を切って持っていくのが良いんじゃない?」

「それも考えたけど、火竜を使った素材で武具を作ってもらう予定だし、できれば丸ごと持っていきたいんだけどな」


ウルディアーナの問いにそう答えると、俺は、そうだ。と手を叩く。


「ドワーフの集落の、ギムレットの親方なら、事情を話せば、これを運ぶ荷台の一つくらい作ってくれるかもしれない。今から言って、連れてこようか」

「それなら、連れてくるのは俺に任せてくれないか。正直、エルフのお嬢さんにくらべると、まったく活躍できていないからな。このくらいは任されたい」


と、そこで手を挙げたのは、ガルサスのパーティメンバーである、猟師のスパタスである。


「それじゃあ、頼まれてくれるか? ギムレットの工房までの案内は、ヨイチとテツロウ、二匹が一緒に行ってくれ」

「「分かりましたニャ!」」


そんなわけで、猟師とケットシーの一人と2匹は山を下りていき、俺たちは火竜の骸の前で、休憩をとることにした。



「それにしても、このような手柄を立てることができるとは……やはり私は”栄光の騎士”なのだな! 私を追放した、実家の者たちも見返せる!」

「なんだ、グレートは追放されたのか?」

「きみとの決闘に負けて、その様が王都に広まってから、実家の両親が憤慨してね。まあ、今となっては良い思い出さ! おかげで、麗しのきみにも再会できたしね!」


と、ウルディアーナに向けて、ばちーん☆ とウインクするグレート。

ウルディアーナはというと、はいはい、といって気にした様子もなかったが。



「ところでよ、火竜をぶっ倒したのは良いが、報酬はどうするんだ?」


しばらく、身を休めていると、地面に寝ころんでいたガルサスがむくりと身体を起こし、そう聞いてきた。

火竜を倒した実感が、ようやく湧いてきたのか、報酬について話したいらしい。


「報酬って言っても、火竜に賞金がかかっているわけでもないだろうし、素材を山分けするとか?」

「………なに? おい、グレート! そのあたりはどうなってやがる!」

「ガルサス、火竜におびえる集落を救ったんだ。その名声こそが報酬となるだろう!」

「おい」


火竜の素材目当ての俺たちと違い、ガルサスたちは、火竜討伐で賞金が手に入ると思っていたようだ。


「領地を荒らす、火竜を倒したのだ。この地を治める領主様に報告すれば、褒美をもらえるのではないかな?」

「どうだかな……ま、あまり期待しないほうが良いだろうなぁ。こいつが高く売れることを祈る方が現実的か」


そんな事を言い、火竜の方を見るガルサス。一応この辺りは、ラザウェル公爵の領地の一部だし、俺からも賞金が出るように、かけあってみようかな。

なんだかんだで、彼らがいたおかげで、火竜討伐はスムーズに言ったわけだし。



そんなこんなで、火竜の骸の前で、俺たちは話しながら時間をつぶす。

俺はもっぱら、ガルサスやグレート、コンラッドと話し、女性陣は女性陣で、デネヴァ、ウルディアーナ、ジャネットは、ジュネと何やら話していたりする。


そうしていると、



「おーーーい!」




声のした方を見ると、山から下りていたガルサスとケットシー2匹の後に、数十人の男たちが続いて、山を登ってきた。

多くはドワーフであり、ギムレットの親方たちもその中にいた。


「おうおう、話には聞いていたが、こりゃあ大物じゃねえか! よくやったぞ、ペンタ!」

「仲間や、協力してくれたみんなのおかげたよ。それで、これを山のふもとの集落まで運びたいんだけど」

「任せろ。話を聞いて、でっかい荷車をこしらえてきた! お前ら、さっそく運ぶぞ!」

「「「おおおーーー!!!」」」


集落を悩ませた火竜が、屍となっているのを見て、同行してきた男たちは歓声を上げる。

特大の荷車に火竜をのせ、ふもとの町まで全員で掛け声をあげてはこんだ。

というか、下りの道であり、荷車が転げ落ちないように、支えながら降りる形となったが。


「わーっしょい! わーっしょい!」


地面が平たんになると、荷車に紐をつけ、力自慢の男たちは集落まで火竜の乗った荷車を引いていく。

気分は祭りのおみこしのような感じであった。



その日、集落は活気にあふれ、酒と食事が振舞われ、どんちゃん騒ぎとなった。

火竜はギムレットの親方たちによって、早々に解体され、俺たちと、ガルサスたちで等分することになった。

なお、グレートであるが、彼は火竜の素材は辞退した。その代わり、


「私が、火竜討伐隊のリーダーである、グレート・ティーーーポーーーール! だ!!」


宴の席で、堂々とそう宣言するグレート。今回の一件、彼が火竜討伐の主役として世に広まるようにするということに決定した。実より、名をとったわけである。

集落の娘たちに囲まれて、まんざらでもない様子のグレート。

そんな彼の様子を遠巻きに見ながら、俺たちは俺たちで、酒や食事を楽しんだのであった。



それから数日間、ギムレットの親方と話し合い、火竜を素材にした装備の他、巨人の死体人形が頭部につけていた、硬質の物体も渡し、新しい武具を作ってくれるように依頼する。

ただ、一朝一夕にできるものではなく、少し時間がかかるようであった。


また、それと同時に、デネヴァがギムレットの親方に頼んだものがある。


「この形の台座を作ってちょうだい。材質はミスリルでお願い。数は、3個以上は欲しいわ」

「ふむ、これなら、作るのに大した手間もかからんが、すぐに必要か?」

「他の武具と一緒に渡してくれればいいわ」


横合いからデネヴァの広げた紙を見ると、そこには転送ポータルに使われていた、台座と同じものが描かれていた。




そんなこんなで、時間を過ごしていると、都市・タルカンから騎士団が到着する。俺は、集落の外に出て、騎士団を出迎えることにした。

騎士団長直々に、火竜討伐の目的で来たらしいのだが……騎士の集団の中に、豪華な馬車が一台、紛れ込んでいた。


「ペン様! ご無事ですか!?」

「マリー嬢!? それにセレスティアに、リディに、ベルディアーナも……どうしてここに」


馬車から降りてきたマリー嬢が、俺に駆け寄って抱き着いてくる。

なんでも、火竜がドワーフの集落近隣に出たと聞き、ちょうど俺たちがそこに向かっていることを知っていたので、公爵様に直談判して、討伐に向かう騎士団に同行することになったらしい。


「貴様が心配だと、マリー様が憂いていてな。様子を見に来たんだ」

「無事でよかったです、ペンタ先生!」

「ペンタ兄さまも、ウル姉さまも無事と信じてました!」


と。3者3様の言葉を聞いていると、


「うおおおおおおーーーー!」


と、叫び声が。そちらを見ると、自称栄光の騎士であるグレートが、ベルディアーナに視線を注ぎ、目をくわっ! と見開いていた。


「可憐だ! まさに妖精のようなきみよ、名を教えてくれたまえ!」

「ひぇぇぇ! ペンタ兄さま、このひと、怖いです……!」

「ぬぉぉぉぉ!?」


ベルディアーナに華麗なステップを踏みながら近づいていったグレートは、おびえたように、俺の背後に隠れるベルディアーナを見て、ショックを受けて片膝をついた。

その様子を、俺に炊きつきながら見ていたマリー嬢は、俺を見上げて小首をかしげた。


「随分と不審な方ですけど、捕らえさせたほうがよろしいでしょうか」

「いや、一応は俺の知り合いレベルの男だから、もう少しおかしなことをしないうちは、放置しても構わないと思いますよ。それはそうと、マリー嬢。そろそろ離れていただいた方がよろしいのでは」

「問題はありませんわ」


騎士団の面々が、怖い顔で見てくるのであるが、当のマリー嬢は、ニッコリと微笑んで、俺の提案を却下するのであった。



「おお、ペンタ殿、ご無事でしたか!」


マリー嬢に抱き着かれて、どうしたものかと思っていると、騎士団長のおっさんが声をかけてきた。


「どうも。火竜の件で出動してきたんですよね」

「ええ。この集落の近隣の山に、火竜が出たとのことで。我々はこれから、山に登って火竜討伐に向かうつもりですが」

「その火竜なら、退治しましたよ。首なら、集落の広場に飾ってあります」

「なんと!?」


俺の言葉に、騎士団の面々からも、驚きの声があがる。何名かの騎士が、集落の中に入っていったのは、確認のためだろう。

確認するように、俺に聞いてきたのはリディであった。


「あの、ペンタ先生。火竜を倒したって、本当ですか?」

「ああ。俺たちと……そこで悲嘆にくれてる騎士の仲間たちと一緒にな」


未だに、地面に片膝をついて絶望しているグレートを指さすと、ふむ、と騎士団長のおっさんは顎に手を当てて一瞬考えこむと、


「ともかく、詳しい話を聞かせていただけますかな?」


その言葉に俺は頷くと、集落の長の家に、騎士団長のおっさんたちと向かうのであった。



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