序章:ペンタの冒険者時代66
序章-96 火竜退治の登山と、思わぬ再会
ドワーフの集落から出立し、近隣の山に登る。木々が少なく、岩肌が多く露出している山は、常時なら山で取れる鉱物目当てに山肌を上ったり、中腹にある坑道で鉱石を掘ったりと、そこそこに活気があるらしい。
ただ、現在は山に火竜が出るということもあり、人の気配はなかった。
「あ、あれ見て!」
山に登り始めてすぐに、ウルディアーナが山の頂点方向を指さす。
視線を向けると、一匹の火竜が山の上を飛んでおり、時々下降しては上昇するといった行動をしていた。
「あれが火竜ね……わりと、大きいわね」
「「「近くで見たら、もっと大きそうですニャ」」」
空を悠々と飛ぶ火竜をみて、デネヴァがつぶやくと、ケットシー達も賛同するように頷いた。
遠目に火竜を見ながら、山を登っていく。すると、登っていく道の途中に、へたり込んでいる数人の男女がいた。
「まったく、冗談じゃねえ! だから俺は無理だって言ったんだ!」
「それは分かってるけど、リーダー、あの人、おいてきてよかったの?」
「おいてきたんじゃねえ、あいつが勝手に残ったんだ!」
「私たちが逃げて、助けを呼んでくるようにって言ったんだし、このままじゃ、あの人死んじゃうよ」
「知るか! だいたい、急いで山を下りたって、都合よく火竜退治をしてくれる奴なんているわけねえ!」
数人の男女は、武装した冒険者であり、何やらもめているようである。
「あのー、どうかしたんですか?」
「ん? ああ、ちょっとな………お前さん達、ひょっとして、火竜退治に来たのか」
「ええまあ」
リーダー、と呼ばれていた男に頷くと、彼と言い争っていた、女性の方が、慌てたように口をはさんできた。
「本当かい! それなら頼みがある! 騎士さんが一人、火竜を前に戦っているんだ、あの下で!」
そういって指さすのは、先ほどから空を舞ったり、地面に向かって下降や上昇をしている火竜である。
「俺たちは、その騎士の口車に乗って、火竜退治に来たんだ。だが、実際はどうにもならずに、逃げてきちまった。そいつは、自分が時間を稼ぐから、援軍を呼びに行ってくれといって、火竜を引き付けるために、そこに残ったんだ」
リーダーの男はそういうと、俺たちに向かって頭を下げる。
「あんたら、わざわざこんなところまで来るんだ、腕が立つんだろ? 力を貸してくれないか? このままじゃ寝覚めが悪い。何とか、火竜をやり過ごして、あの騎士を助けてやりてえ」
「リーダー!」
冒険者達はパーティ名”灰色の狼”。中堅どころのパーティで、火竜退治には当初は参加するつもりはなかった。
だが、彼らの前に一人の騎士が現れ、ともに火竜を倒し、英雄になろうではないか! などと言われ、ついその気になってしまったとか。
斧使いのリーダー、ガルサス。魔法使いのジュネ、剣士コンラッド、猟師のスパタス。
男女混合パーティである彼らに、事情を聴きながら山を登る。しばらく上っていくと、宙を舞う火竜の姿が鮮明に見えた。
赤い鱗を身に纏った火竜は、遠目に見えてきた人影相手に、下降して襲い掛かっては、上昇するということを繰り返している。
「あのドラゴン野郎、あそんでやがる……!」
少し離れた岩陰から様子を見ている俺達。ガルサスが宙を舞う火竜を見て、忌々しそうに顔をゆがめた。
「それで、どうやって助けようか……?」
先程、リーダーであるガルサスと口論をしていた、ジュネという女性は、皆を見渡して聞く。
その問いに、俺は少し考えると、口を開いた。
「今のところ、あのドラゴンはこっちに気づいていない。ここは弓と魔法で奇襲を仕掛けてみるのはどうだろう?」
「なるほど、そうして、注意をそらしてあの人が逃げる隙を作るのね?」
「いや、ドラゴンの翼を攻撃して、飛べなくするんだ。地面に落ちないと、戦いにすらならないからな」
「え?」
「俺たちは、その騎士とやらを助けに来たわけじゃないぞ。目的は火竜の討伐だ。まあ、火竜を倒せば、結果的にその騎士も助かるけどな」
そういうと、俺はアイテムボックスから、先端がとがった丸太を取り出した。これは、かつて巨人の死体人形に攻撃をする際に使ったものである。
「俺たちは、この丸太と、弓で攻撃する。デネヴァ、いけるよな?」
「うーん……飛ばすだけならできるけど、命中させられるかしら?」
「ああ、的の大きさはともかく、けっこう動くからな……」
「そういうことなら、私も協力するわ。飛んだあとのコントロールは任せなさい」
と、ジュネが協力を申し込んでくれたこともあり、丸太をデネヴァが発射し、細かいコントロールはジュネが行い、火竜の翼を狙うということになった。
それと同時に、ウルディアーナとケットシーのヨイチ、猟師のスパタスが弓で攻撃を仕掛ける手はずとなった。
「よし、それじゃあタイミングを合わせるぞ」
作戦を決めた俺たちは、配置につく。狙うは、火竜が上昇する時、地上から目線が離れる瞬間を見て、
「いまだ!」
「飛びなさい……! ウィンドシュート!!」
俺の合図で、デネヴァが丸太を風の魔法で飛ばす。それと同時に、
「風の精霊よ……!」
精霊弓を構えたウルディアーナが、魔法で出来た6本の矢を放ち、他の2名も矢を放つ。
「グルァァァァア!?」
飛来してきた丸太と矢に、火竜はワンテンポ遅れて気づき、避けようと身をひるがえす。
だが、ジュネのコントロールする丸太と、ウルディアーナの放った魔法の矢は、まるで追尾するような動きを見せ、火竜の両方の翼にそれぞれ突きささる。
悲鳴を上げて、火竜が落下し、地面に激突する。
「おおっ! やりやがった!」
ガルサスをはじめ、歓声を上げる俺達。と、
「はっはっは! 意外に速かったな、ガルサス。もう少し遅くても、私は一向にかまわなかったんだがね!」
「え、お前は………」
「ほう、意外なところで出会うものだな、我が宿命のライバル、ペンタ! そして、麗しのきみよ!」
「………だれだっけ」
「グレートだっ! グぅレートティーポール! 君の永遠のライバルだよっ!」
火竜を引き付けて残っていた騎士というのは、少し前、王都でウルディアーナをかけて決闘した、残念イケメン騎士、グレート・ティ-ポールだったのであった。




