序章:ペンタの冒険者時代65
序章-95 ドワーフの集落の危機
都市・タルカンを出立した俺たちは、いくつかの平原や河川を過ぎ、山脈のふもとにある、ドワーフたちの集落に到着する。
ドワーフの集落は、多くの職人が住み、彼らの作る道具目当ての商人も集まる、活気のある集落のはずであった。
「久々に来たけど、なんだか人気が少ないな……」
「そうなのですか?」
人通りが少ない、閑散とした集落の様子に俺がつぶやくと、ジャネットが興味深げに集落を見渡した。
活気のあった集落の多くが門戸を閉ざし、人通りもまばらである。
情報を集めるために、ドワーフの集落を訪れたときに滞在していた宿へ向かうと、幸いなことに宿屋は開いていた。
宿泊することを告げ、そのついでという風に集落から人気が消えたことを聞いてみる。
「ああ、そりゃあね、近くの山に出たんだって、ドラゴンがさ!」
「ドラゴンだって!?」
「それも、火を噴く火竜だって話じゃないか。それを聞いて、みんな避難したり、家に閉じこもっちゃったりしちゃってるのさ」
丸々と太った、宿の女将は困ったものだよ。とため息をつく。
なんでも、しばらく前に、火竜を退治しようと山に入った者たちもいたが、返り討ちに会って逃げかえることも多かったとか。
一応、領主である公爵に危機を知らせる使いをだしたとかで、俺たちが集落につくのと行き違いになったようだ。
「まあ、公爵様なら強い騎士団も持っているんだし、こういう時に頑張ってもらわないとね!」
と、そんな話を聞いた後で、俺たちは宿を出て集落一番の鍛冶師のもとへ向かう。
「あん? だれだ………って、おお、ペンタ! お前か!」
「久しぶり、親方。なんだか大変なことになってるみたいだね」
「はん、たかだか竜が出たくらいで、どいつもこいつもビビってて困るぜ!」
ギムレットの工房という名の鍛冶場には、ドワーフのギムレットの親方をはじめとした、ドワーフたちが外の閑散とした空気とは対照的に、活気のある様子で働いていた。
「こちとら仕事が詰まっているんだ。竜が出たくらいで休みにはなれんよ。で、今日は何の用だ?」
「ああ、それなんだけど」
俺は、魔神の迷宮の攻略を始めている事、奥に進むにつれ、敵の攻撃も激しく、壁役のジャネットの防具をはじめ、修繕や改良が必要と思い、工房に立ち寄ったことを告げた。
「なるほど、魔神の迷宮か。なかなか骨のある場所に挑んでいるじゃねえか」
がはは! と笑いながら俺の背中をバシバシと叩く、ギムレットの親方。
「しかし、今のこの状況だと素材も満足に入ってこなくてな、そこでだ。お前たちが山に登る」
「山に登る」
「そこに火竜がいる。そいつをぶちのめして、もってこい」
「いや、さらりと簡単なことのように言うね!?」
「なに言ってやがる、魔神の迷宮に挑んでるんだ。火竜くらい簡単に退治できなくてどうする。そうだ、ちょっとまて……」
そういうと、ギムレットの親方は奥に引っ込むと、すぐに一つの大盾をもって戻ってきた。
「こいつを持っていけ。魔力を込めれば障壁を発生させる大盾だ。こいつなら、火竜の炎も防げるだろうよ。ほれ、持ってみろ」
「は、はい」
親方から大盾を受け取ると、ジャネットは構えてみる。
「魔力の障壁は、前面に傘のように発生する。それなりの広さがあるが、後ろの奴らはなるべく真後ろにいたほうが良いぞ」
「分かりました」
「じゃあ行ってこい。首尾よく火竜を倒したら、その盾はタダでくれてやる」
そんなわけで、追い出されるように工房から出された俺たち。
「…………まだ。火竜を倒すとは言ってないんだけどな」
「まあまあ、いいじゃない。火竜を倒さないとこの集落も困るみたいだから、倒しに行きましょうよ」
俺のつぶやきに、ウルディアーナが明るい声で言うと、デネヴァは肩をすくめ、ジャネットはうなづく。
ケットシー達も、頑張りますニャ! と言っているが、何匹かは足を震わせていた。
戦い慣れているゲンノスケ、サスケ、ヨイチなどを厳選して連れていき、何匹かは宿で留守番させることに決めた。
そうして、俺たちはドワーフの集落の近くに出現した、火竜の討伐に向かうのであった。




