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序章:ペンタの冒険者時代64


序章-91 帰還とドワーフの集落への出立



ウルディアーナとベルディアーナ+ケットシー達とともに、ひと月と十数日の旅を終えて、俺たちは都市・タルカンに戻ってきた。

帰ってきた俺たちは、ギルフォード子爵邸に馬車を向かわせる。


一か月ほどぶりの子爵邸は、特に変わったこともなく、暑苦しい騎士団長のおっさんをはじめ、子爵夫人、セレスティア、リディが出迎えてくれた。

戻ったその日は、ふろに入って旅の疲れを癒し……翌日にはセレスティアに引っ張られるように、ラザウェル公爵邸に向かうことになった。

なお、セレスティアが同行を求めたのは、俺をベルディアーナ、それにリディであり、引っ張られる俺を見ながら、心配そうな顔で他の二人があとからついてきた。


そうして、ラザウェル公爵邸に通されると、応接室に引っ張られながら進む。


「ペン様! おかえりなさいませ。ご帰還する時を一日千秋の思いでお待ちしておりました」

「ああ、マリー嬢、お久しぶり。一日千秋っていうのは………?」

「一日千秋は、リンネの故郷、ヒムカの里の言葉です。人を待ちわびると、一日が千年の秋に感じるとのことですわ」


と、マリー嬢はそういいながら、微笑みを浮かべる。


「本日お越しいただいたのは、旅先でどのようなことがあったのか、お聞きしたいと思ったからです。ねえ、ベルディアーナさん、ペン様とどんな旅をしてきたのか、お教えくださいますよね?」

「ひゃ、ひゃいっ!」


マリー嬢の言葉に、緊張したように上ずった声をあげるベルディアーナ。

席に着いた俺たちは、ここ一月ほどの出来事を、その場に集まった面々に聞かせることになった。


馬車を駆りつつの旅は、思い返せば似たような日もあったが、襲い掛かる獣と戦ったり、すれ違う旅人と交流を持ったりと、印象に残る日々も確かにあった。

そういった日のことを口にしつつ、旅の思い出を俺とベルディアーナの口から語っていく。


「へー、それじゃあ、ベルちゃんはペンタ先生に添い寝してもらったんだ。いいなぁ」

「えへへ、ペンタ兄さまとウル姉さまが横で寝てくれて、楽しかったです」


なお、道中の出来事を語る俺とは違い、ベルディアーナは旅先での俺や、姉であるウルディアーナとの出来事を色々と話していた。

俺の手料理を食べたり、一緒に狩りをしたり、添い寝をしたりといったことを話しているのだが、


「----まあ、それはよろしゅうございましたね」


ニッコリ、と、微笑むマリー嬢の笑顔が何か怖い、ような気がする。

それに、どことなく寒気がしてきたような………? と考えていると、


「おい、ちょっとこっちにこい………!」


セレスティアに手を引かれ、部屋の外まで連れていかれた。なお、マリー嬢とリディは、ベルディアーナの話を聞いているようである。



「いったい、何をやっているんだ、お前は!」

「なにを、っていわれてもなぁ。ベルディアーナの話の内容は、特に問題はないものだっただろう?」

「年頃の男女としては、過度に親密であると思うが」


俺を責めるようにセレスティアは言うと、一つため息をついた。


「ともかく、見ては分からないだろうが、マリー様は気分を害しておられるようだ」

「ああ、微笑んでいるけど、なんか寒気みたいなのを感じたからな」

「なんだ、ペンタも分かっているではないか。だとすれば、どうすればいいのかわかるな?」

「……どうすれば?」

「マリー様も、長期の宿泊込みでの旅をして、同じようなことを体験すれば、不満もおさまるだろう。そういうわけだから、マリー様を旅に連れて行けるように手配しろ。もちろん、心配だから私もついていくぞ!」


と、そんなことを言い放つセレスティア。マリー嬢は、俺とエルフ姉妹が楽しくやっていることを聞いて羨ましがっている。だから、同じように旅に連れて行けということだろう。


「いやいや、それは難しいと思うぞ?」

「なんだと!? なぜだ!」

「なぜ、というか、公爵令嬢であるマリー嬢を、俺が勝手に連れ出すのは無理だろう。護衛付きで、かつ、まずは公爵様の許可がもらえなければな」


俺の言葉に、む、と顔をしかめてうなるセレスティア。


「確かに、公爵様の許可は必要だし、護衛も当然つくことになるな」

「だろう? で、その護衛が、俺とマリー嬢が近い距離で話したり、ましてや、並んで横になるなんて認めないと思うが」

「…………それもそうだな」

「まあ、そんなわけで、公爵様の許可と、親密な行動をスルーしてくれる護衛。この2つがそろわないと、セレスティアの言うようにマリー嬢と一緒に長期の外泊をして、仲良く過ごすというのは無理だな」




「なるほど、逆に言えば、その2つがそろえば、よろしいのですね」

「「!?」」


唐突に、横から聞こえてきた声にセレスティアと一緒に顔を向けると、そこには微笑みを浮かべた、マリー嬢の姿があった。


「ま、マリー様、いつからそこに?」

「最初からいましたよ? セレスがペン様の手を取って部屋の外に行かれたので、何をしているのか気になりましたので」

「そ、そうですか」


セレスティアに引っ張られて部屋から出るときは、マリー嬢はリディとともに、ベルディアーナの話を聞いていたように見えたんだが……

そんなことを考えていると、マリー嬢が俺を見て、微笑みながら自らの頬に手を添えつつ、口を開く。


「ペン様の言われます通り、確かに、一緒に旅をするなら、御父様に話をつけなければなりません。それに、親密になるには、話の分かる護衛が必要ですね………ペン様、私、頑張りますわ!」

「あっ、はい」


何を頑張るのか、と思ったが、聞くと後戻りが出来なくなるような気がして、俺はあいまいに頷くのであった。



その後、どうにかして長期外泊をしたいマリー嬢と、年頃の娘がいかん! ゆるしませんよ! という公爵様の間で口論が繰り広げられることとなったようだ。



なお、そういった公爵家の騒動は、子爵邸にも届いたが、俺はスルーし、まずは目的の一つである、ジャネットの武具の修繕のため、ドワーフの集落に向かうことにした。

ドワーフの集落に向かうのは、俺、ジャネット、ウルディアーナに………


「ドワーフの集落に行くのね。ちょうどいいわ、頼みたいことがあるの」


と、引きこもって調べ物をしていたデネヴァも同行することになり、ケットシー達も全員が同行する。

俺たちは馬車を駆り、タルカンから出ると、一路、ドワーフの集落に向けて進むのであった。


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