序章:ペンタの冒険者時代63(別視点)
序章-90 魔神四天王の会議の様子(3人称)
ペンタが、ウルディアーナ、ベルディアーナと小旅行めいたエルフの里への里帰りをしている最中。
彼らが仲良く過ごしているのを、木の上から一羽の鳥が見守っていた。その鳥には、そのサイズに合わせた兜のような装置が付けられており、彼らの様子を他の場所へ届けていたことを、ペンタたちは知らない。
「あー、もう、今がチャンスなんだし、私に出撃させてよー」
ところ変わって、ここは魔神のダンジョンの最深部。豪奢な部屋は魔神四天王筆頭、魔王ヴァランサスの住処の一部である。
そこに、魔神四天王が勢ぞろいし、ペンタたちの旅の様子を見ていた。
というよりも、四天王の一人、パルペッティが勝手に中空に、ペンタたちの旅の様子を映していたのであるが。
四天王の一人、パルペッティは全身を道化師の衣装で身を包んだ、少年とも少女とも見える姿をしている。一応は女のようだ。
そんなパルペッテイの言葉に、魔王ヴァランサスはジロリと彼女を見据えて口を開く。
「地上侵攻は、現状認めていない。この前も、貴様の死体人形を地上に出し、それについての注意を受けたばかりだと思うが」
「うっ」
魔王ヴァランサスは、黒色をベースにした鎧に身を包み、竜を模した兜をかぶった、2メートルを超す巨漢の男である。種族は不明であるが、その全身から発した圧力に、パルペッテイはひるんだ様子を見せる。
現在は会議の始まる前。双方ともに、座っているから、怯んだ様子を見せただけで済んだ。立った状態ならば、パルペッティは床にへたり込んでいただろう。
「はっははは! 良い気迫だ! どうだ、魔王? この後、戦らないか?」
その覇気に、楽しそうな様子を見せるのは、四天王の一人である、豹頭の獣人であるジャガールである。
戦闘狂である彼の言葉に、魔王は無言。興味なしといった態度であるが、ジャガールは特に気を悪くした様子はない。
興味なしといえば、四天王の最後の一人、魔女スーメリアもこの場にいたが、パルペッティが騒ごうが、魔王が覇気を出そうが、ジャガールが馬鹿笑いをしていようが、興味なさげにワインを飲んでいたりする。
「それと、人形娘。あの少年は俺の獲物だ。今ここで手を出すのは止めてもらおうか」
「私が狙ってるのは、エルフのしっかりものちゃんだけど、あのペンギンちゃんはジャガちゃんのしりあいなの?」
「お前も覚えているはずだ。数年前、聖女への攻撃を仕掛けたとき、俺に傷を負わせた子供だぞ」
「あー、あれかぁ。あの時さ、普通に戦えばジャガちゃん皆殺しに出来たじゃん? そーすれば、良い死体(手ごま)がたくさん手に入ったのに、帰っちゃうんだからなぁ」
「あの時、俺の前に出てきた少年を一目見て、思ったのだ。こいつは伸びるとな。良き宿敵になると思ったからこそ、あの場は退くことにしたのだ」
そう言って、中空を見るジャガール。宙に移った鳥潟の死体人形から送られてきた映像には、エルフの姉妹と連携し、襲い掛かってきた複数の獣を蹴散らすペンタの姿が映っていた。
「まー、そこそこに強いみたいだけど、まだまだだと私は思うけどねー」
「奴らは、魔神の迷宮に挑んでいる。俺の担当する【木輪の階層】にたどり着くまでに、どれだけ腕を上げているかが楽しみだ」
「その時にコロコロしちゃってもいいけどさー、なるべく綺麗に始末してねー。私が死体人形にしたいからさ」
「………そこまでにしておけ。会議を始めるぞ」
二人の掛け合いを黙ってみていた魔王が口を開く。これ以上の無駄話は認めない。という雰囲気の魔王に、ジャガールは口を閉ざし、パルペッティは肩をすくめ、中空の映像を消す。
そんな二人とは裏腹に、魔女スーメリアは相変わらず、のんびりとワインを傾けていたが、
「………スー」
魔王に重ねて言われ、スーメリアは手に持ったワイングラスを机の上に置き、居住まいをただした。
「それでは、会議を始める。まずは、女神による魔神封印の解除についての進展だが---」
魔神の迷宮の最奥で、魔神四天王が顔を合わせて、今後のことについて話し合う。
ペンタたちが旅をしている裏側で、魔神に仕えるものたちもまた、動きつつあるようだ。
魔神四天王についての更新
ヴァランサス……魔王。黒い鎧、竜の兜を身にまとった2メートルを超す巨漢の種別不詳の男
スーメリア……魔女。魔法使いの格好をした美女。基本的に怠惰であり、きまぐれに行動を起こすこともある。
ジャガール……獣人。【木輪の階層】にてペンタたちを待ち受けるようだ。
パルペッティ……人形娘。死体人形を量産して楽しむ、道化師姿の少女。自分のことは私という。




