序章:ペンタの冒険者時代62
序章-88 今後の予定とお出かけと
公爵家にお呼ばれしたその日の夜。
「なるほど、そのような事があったわけですか。マリー様が喜ばれたのは良いことですな!」
これからしばらく、逗留することになった子爵家で、子爵家当主である騎士団長のおっさんは、夕食の席で満足げに頷いた。
夕食の席には、子爵夫妻に、娘のセレスティア、同居しているリディ、俺、デネヴァ、ウルディアーナ、ジャネットが席について歓談していた。
なお、ケットシー達は別室にて、猫だけの夕食会をしているらしい。
今日、公爵邸で起こった話のほか、これからの俺たちの予定なども夕食の話題に上った。
①ジャネットの装備を修繕、また、強い武器を探しにドワーフの里へ。
②ウルディアーナとベルディアーナの故郷である、エルフの集落へ里帰り。
③ヒムカの里に行ってみる。
大まかにはこの3つであるが、そこにいくつかの予定が加わった。
一つは、セレスティアやリディに、魔神のダンジョン探索について詳しく話していた時のことである。
「へー、転移ポータル………そんな便利なものがあるんですね!」
「ああ、ダンジョンの奥に行くほどに、時間がかかるからな。それを短縮できるのは、正直ありがたいよ」
中間点である転移ポータルがなければ、俺たちの迷宮探索は、もっと過酷なものになっていたはずである。
地上と迷宮内を行き来できるポータルのおかげで、随分と助かったわけであるが。
「じゃあ、その転移ポータルがあれば、どこでも行き来できますよね。たとえば、ここから王都にビューンって」
「それは無理だろう。ダンジョンに作られたものを、そう簡単に再現できるはずがないからな」
「えー、そうかな」
リディアとセレスティアが、そんな風にやり取りとしていると、それを聞いていたデネヴァがガタっと音を立てて立ち上がった。
「………それ、できるかも」
「出来るって、転移ポータルが?」
俺に質問に、ええ、そうよ。とデネヴァが首肯する。
「あの転移ポータルを見たとき、なんだか引っかかることがあったけど、多分あれを作ったのは………」
と、そこまで言って、デネヴァは言葉を止めて、席に座りなおした。
「デネヴァ?」
「少し、やることが出来たわ。しばらくは、部屋にこもるから」
「あー、うん」
④デネヴァは、ひきこもりになるようだ。
なにやら、転移ポータルについて、少し研究のようなことをするらしい。
そんなわけで、デネヴァを置いて①~③の場所に向かうと決めた俺達だったが、
⑤みんなとお出かけする
「そういえば、リディアのことなんだが」
夕食も終わって、お茶で一服していると、セレスティアが俺を見て口を開いた。
「リディが何か?」
「私たちは贈り物を受け取ったが、リディアだけがもらっていない。そのことをマリー様が気に病まれてな。出かける前に、彼女に付き合って街に出たらどうかと言われている」
「せ、セレスちゃん! ボクはいいって……ペンタ先生にも都合があるわけだし」
「………と、いっているが、どうなんだ?」
と、じろりとこちらを睨むように聞いてくるセレスティア。確かに彼女の言う通り、リディにはタイミングが悪かったとはいえ、他の3人のように贈り物をしたこともなかったからな。
「そうだな。俺は構わないぞ。リディが良ければ、明日にでも街に出てみるか!」
「い、いいんですかっ!? それじゃあ、よろしくおねがいしますっ」
俺の返答に、喜色満面になるリディ。そんなわけで、翌日はリディとお出かけをすることになった。
「ペンタ先生! いきましょうっ」
ワンピース姿で、金髪のポニーテールをぴょこぴょこと躍らせて、リディは歩く。
今日の予定は、俺たちの出会った孤児院を訪問したり、街の市場を探索したりした。
市場にて、彼女にもプレゼントを贈ったが、
「ボクは、これがいいです!」
と、魔よけのおまじないをかけた指輪を購入することになった。なお、売っていたのは露店で、正直お安い部類の商品だったのだが、
「なんだか、びびっときちゃいましたから」
リディは中指に嵌めた指輪を満足そうに見ては微笑んでいるので、良しとした。
なお、市場でもう一つ、紺色のリボンが売られていたので、それも買ってリディに渡した。ちなみに、二つ合わせても、マリー嬢や他の皆のそれぞれのプレゼント代より安かったりする。
「今日はありがとうございます!」
指輪をつけて、新しいリボンを髪に結んだリディは、満面の笑顔で俺を見るのであった。
めでたしめでたしーーーーというには続きがあり、
「リディアとは出かけて、まさかマリー様と出かけないわけではないよな?」
子爵邸に戻るなり、待ち構えていたセレスティアから、今度はマリー嬢を連れて出かけろと言われたわけである。
最初から、リディのことをきっかけに、お出かけをするように言う予定だったようだ。
公爵様の娘におことわりしますは出来ないので、翌日、俺とマリー嬢、セレスティアは馬車に乗って出かけることになった。
「本日は、のんびりと出来るところに、ご案内いたしますね」
そんなマリー嬢の言葉通り、馬車がついた先には、花畑が一面に広まる、湖畔が目の前に広がっていた。
「ここは、公爵家の私有地ですから、人気もなくてのんびりできるのですよ」
そういって、微笑むマリー嬢。なお、姿は見えないが、そこかしこには護衛が潜んでいるらしく、ひとけが無いからと言って、不届きなことはできないであろう。するつもりもないが。
俺たちは、湖でボートに乗ったり、花畑に寝転がったりと、のんびりと過ごすことになる。
なお、その翌日には、ウルディアーナとベルディアーナ姉妹と、エルフの里へのお土産探しに、街に出ることになった。
「人間の街には、色々とあるけれど、どれが里の皆に喜ばれるのかは、わからないわね」
「悩みますね~、ペンタ兄さまは、どういう品物を選びますか?」
「妥当なのは美味しい食べ物で、わかっているなら、お土産を渡す人が喜びそうなものかな」
そんな感じで、お土産を買いながら、あちこちを見て回る。
ふと目を離したすきに、ガラの悪そうな男たちが、ウルディアーナとベルディアーナに声をかけることもあったが、俺とウルディアーナでさくっと鎮圧し、街を守る兵隊に突き出してスピード解決をしたりした。
そんな風に、連日でかけてから、ふと、デネヴァはどうしているかと様子を見に行くと、子爵邸の一室が本に埋もれていて、その中でデネヴァが寝ているのを発見した。
なお、後で聞いたが本の大半は、公爵家の力を使って集めたもののようだ。
どうやら、転移を出来るようになれば、俺たちのところに簡単に行き来できるようになると聞きつけ、マリー嬢が全面協力を申し出ていたらしい。
「おーい、大丈夫か?」
「んあ? ペンタかー なんのよう……?」
「最近見ていないなと思って、様子を見に来たんだよ。ほら、床に寝てたら身体を壊すぞ」
「へいきだって。冒険者生活じゃ、ごろねもいつものことでしょ」
そんなことを言うデネヴァを放っておけるはずもなく、その日は一日、デネヴァのお世話をすることにした。
お世話といっても、部屋を片付けたり、肩をもんだりする程度のことであったが。
「では、デネヴァ殿の健康には問題はないと」
「ああ。なんだかんだで、疲れていたみたいだから、今日は休めと寝かしつけてきたけどな」
デネヴァの世話をした翌日、俺はジャネットとともに、街に買い物に来ていた。
リディとセレスティアは、公爵邸に行ってマリー嬢とベルディアーナに会う予定であり、ウルディアーナもそちらに同行した。
デネヴァは、少しふらついていたので、抱き上げてベッドに横にしておいた。
そんなわけで、手が空いていたのは、庭で鍛錬をしていたジャネットだけであり、さそったら付いてきたわけである。
彼女の実家は、ジャスドー子爵家によって没落しており、それに対する復讐と、実家の復興のために剣をとっていた。
なお、先日の一件で、ジャスドー子爵家は爵位こそ子爵のままだが、実質的には没落。
ジャネットの生家、ダルクス男爵家に対しては、俺達で魔神のダンジョンの攻略を進めれば、それを功績として、立て直しを認める旨を、公爵様から書類としてもらっていた。
「それにしても、悪かったな。訓練の邪魔じゃなかったか?」
「いえっ、大恩あるペンタ殿のお誘いですから!」
「………いや、俺に恩を感じる必要はないから」
書類を俺が渡したのが悪かったのか、ジャネットはなぜか、俺がジャスドー子爵家をぶっ壊し、ダルクス男爵家の復興を働きかけてくれた恩人、と思っているようだ。
「基本的には、ラザウェル公爵家の力であって、感謝するのは公爵様達にするべきだよ」
「それはもちろん、ラザウェル公爵様にも、感謝をいたしております。ですが、ジャスドー子爵家の断罪には、ペンタ殿が一枚絡んでいると」
「あー………まあ、それはそうだけど」
「それに、男爵家の復興も、ペンタ殿が口添えなさったからと聞いております! ならば、やはりペンタ殿には大きな恩があります。どうぞ、私の役に立てることでしたら、何なりと申し付け下さい。荷物持ちでも、何でも!」
………イメージ的には、銀色の大型犬が、しっぽを振ってなついてくるような感じだ。
ここ最近の、ジャネットの様子はこんな感じである。意気込む彼女を見て、俺は一つため息をつく。
直情的でまじめな女性だが、この調子だと、恩を返すとか言って、夜に裸でベッドにもぐりこむくらいしてきそうである。
と思ったら、数日後にはもぐりこんできた。服を着せて部屋から追い出そうとしたが、しゅんとした様子でしょげていたため、服を着た状態で添い寝をすることで妥協した。
なお、翌日にそれを知ることになったセレスティアが怒ったりと、ひと悶着あったが割愛。
そんなこんなで、あわただしく一週間ほどを過ごした後、俺とウルディアーナ、ベルディアーナとケットシーたちの一部は馬車に乗りエルフの里へ、向かうのであった。
【ジャネット・ダルクス】実家の男爵家の復興条件を知り、鍛錬に身が入る。
ペンタに恩義を感じ、内心で忠義を誓う。




