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序章:ペンタの冒険者時代58

序章-85 公爵領への帰郷


馬車を駆りてのひと月ほどの旅程を経て、ラザウェル公爵領の本拠地である、都市、タルカンに戻ってきた。

盛大に見送られたのに、数か月で戻ることになったのは何となく気まずくも感じるが、今回の件について、公爵様に報告するということとなれば、仕方ないのだろう。

帰りの旅路では、パーティメンバーにジャネットが加わったこともあり、モンスターや野盗の襲撃にも、余裕を持って対処できた。

そうして、旅の疲れを癒すために、タルカンではお世話になっていた、ギルフォード子爵家へまずは向かうことにした。


「おお、良く戻られたな、ペンタ殿!」


タルカンに入るなり、都市の門にて待ち伏せていた、騎士団長のおっさんに連れられて、子爵邸に向かう。

都市の中心部にある、貴族たちの邸宅の中で、立派な部類に属する子爵邸。その庭に馬車を止めると、屋敷の中から一人の少女が出てきた。


「ふん、ようやく来たのか」


ツンっ、とした表情で俺を見るのは、騎士団長の娘である、セレスティアだ。灰色の髪を三つ編みにし、サイドで垂らした髪形の、ツンケンした少女である。


「ただいま、っていうべきかな。マリー嬢やエルディアーナは?」

「マリー様たちは、公爵邸にてお待ちしている。まずは、ゆっくりと旅の汚れを落としてからくるようにと、公爵様からの下知だ」

「そうか。旅をしていて、随分汚れているからな。まずは水浴びからかな」

「ふん、そういうと思って用意してある………こら、微笑ましそうに頭を撫でるな!!」


どうだ、偉いだろう? というように、ふんぞり返るセレスティア。ツンケンした態度をとるが、それが彼女の地と知っているので、その態度は微笑ましくもある。

5歳差ということもあり、年の離れた生意気な妹のように感じているセレスティアの頭を撫でていると、子爵邸の扉を開けて、一人の少女が出てきた。


動きやすそうな長ズボンとシャツ姿。金髪でポニーテールの見知らぬ少女が、俺を見て駆け寄ってくる。

近くに駆け寄ってきた彼女は、俺の姿をまじまじと見ながら、


「うわー、本当にペンタ先生だ! おひさしぶりです!」


と、そんなことを言ってきたのである。はて、こんなかわいい娘の知り合いがいた記憶はないんだが。


「ええと、お久しぶり………? どこかであったかな」

「あー、ひどい! 忘れちゃったんですか? リディですよ、ほら、孤児院の学校の!」

「リディ………リディ……? 確か、孤児院から貴族の屋敷に引き取られていった、男の子の名前だったような……?」

「えぇ!? ボクはずっと、女の子ですよ!?」


心外だなあ、と怒る少女。よくよく見ると、確かにそこには、孤児院で相手したことのある子どもの面影があった。

そのやり取りが面白かったのか、隣で見ていたセレスティアが鼻で笑って、リディをからかった。


「ふっ、男に見られていたとは……日ごろから、淑女としての教育が足りていないと注意されているのも当然だな」

「注意されているのは、セレスちゃんもじゃない! だいいち、胸ならボクの方があるし、男っぽく見えるのはセレスちゃんもでしょう?」

「胸のことは言うなぁ! だいたい、そんなに差はないだろう!」


だが、リディアに反撃されて憤慨した様子を見せる。それから、リディとセレスティアでワイワイと言い合っていると、


「うむ、元気にやりあっているな! 友好を深めているようで何よりだ!」


少しその場を離れていた、騎士団長がもどってきて、やりあう二人を見て楽しそうに頷いた。


「ええと、なんでリディ………彼女がここに?」

「なんと、聞いていませんでしたかな? マリー様より、手紙で連絡がいっていると聞いていましたが」


俺と騎士団長のやり取りが聞こえたのか、ポニーテールを揺らしながら、リディアが俺に向き直る。


「ボクが、魔神討伐をするメンバーの一人として、選ばれたってことで、そのために男爵家からは離れて、ここに住まわせてもらっています。なんでも、聖剣? の使い手だとか」

「ええー!? じゃあ、リディの引き取られた家って」

「アーストン男爵家ですね」

「………リディは愛称で、本名は違った?」

「本名は、リディアです! あ、でもペンタ先生には、リディって呼んでもらいたいです」


えへへ、とそんなことを言いながら、照れたように笑う、リディア………もとい、リディ。


「わかった。それじゃあ俺はリディって呼ばせてもらうよ」

「はい!」

「ふん、デレデレして、まったくお前というやつは」

「セレスちゃん、お前じゃなくて、ペンタ先生だよ」


何が気に入らないのか、むすっとしたセレスティアに、リディがそう訂正する。それを聞いて、騎士団長のおっさんが肩をすくめた。


「娘よ、いい加減ペンタ殿を、おい、とか、お前とか、そういう風に呼ぶのはどうかと父は思うぞ。そろそろ、関係を深めるためにも、もう少し違う呼び名をしたらどうかな?」

「べ、別に私は、こいつと仲を深めたりとか、そういう気はないのですが、父上がいうのなら……」


と、ごにょごにょと言いつつ、俺をじっと見てから、セレスティアはぽつりと、


「………カープ」

「は? なんで、カープ??」

「だから、カーペンタだからカープだっ! 他の皆が使っていない呼び名を考えたが……なんだ、その不満そうな顔は!?」

「いや、カープって………広島か?」

「ヒロシマってなんだ!?」


俺の脳内に、赤いヘルメットをかぶったイワトビペンギンが浮かんだんだが………カープ呼びはないなぁ。


「変に奇をてらわなくても、ペンタって呼び捨てにすればいいじゃないか。そのくらいが、ちょうどいい」

「ぬっ、そ、そうか………あー、ペンタ?」

「おう」


返事をすると、まんざらでもないという風にセレスティアは笑みを浮かべた。

その後、子爵邸に逗留し、旅の疲れを癒しながらリディや、セレスティアと交流を深めた。

新しくメンバーに加わったジャネットについても、腕っぷしが立つのが良かったのか、リディとセレスティアとも仲良くなり、他のみんなと仲良くやっているのを見かけることがあった。


そうして、数日後、疲れの取れた俺たちは、公爵邸へ向かうことになったのであった。

呼び方メモ

【デネヴァ】【ウルディアーナ】……ペンタ(呼び捨て)

【ジャネット】……ペンタ殿

【マリー】……ペン様

【セレスティア】……ペンタ(呼び捨て)←New

【ベルディアーナ】……ペンタ兄さま

【リディア】……ペンタ先生

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