序章:ペンタの冒険者時代4
序章-14 フォレストウルフの集団との闘い。
フォレストウルフは、その名の通り、森に生息している狼であり、集団で行動をする。
その狩りは、集団で周りを囲み、交互に攻めかかって疲弊したところを仕留めるといった戦い方をして、場合によっては森に生息する巨熊すら狩りの対象になることがある。
単体で行動する相手には、無類の強さを発揮する、狼の集団がこちらに向かっていると知り、俺たちは迎え撃つために行動を始めた。
「よっ、ほっ……ニャ!」
「デネヴァ様、つかまってニャ!」
近接戦闘が得意でない、回復役の白猫ユキ、物を投げるのが得意な白猫コハル、弓をつかうヨイチが先に気にのぼり、デネヴァを木の上に引っ張り上げる。
その他のケットシーたちと俺が、地上で迎え撃ち、木の上から援護をするという陣形を前もって提案されていた。
「来ましたニャ! フォレストウルフたちですニャ!」
木々の合間を縫って、1匹、また1匹とフォレストウルフたちが姿をあらわす。多少の個体差はあるものの、どれもが前世でいうゴールデンレトリバーのような大型犬サイズの狼であり、その体躯は威圧感すら感じられた。
「気負う必要はないですニャ。相手は、こっちが隙を見せない限りは、なかなか攻めてこないですニャ」
こちらを包囲しようとするフォレストウルフに対抗するように、円陣を組んで対峙する俺たち。
それぞれの手に持つ武器は、片手に剣、片手に盾を持つオーソドックスなスタイルの俺。
小太刀と呼ばれる武器を持つ、黒猫リーダー、ゲンノスケ。
両手にナイフを持つ、黒猫2号サスケ。鋼鉄の小づちを持つ黒猫3号ことジンパチ。
ケットシーの身長が隠れるくらいの大きさの盾を掲げる、マダラの毛並みのテツロウ。
ショートランスを持っているのは茶色の毛並みのオス猫サイゾウ。
隙を見せまいと、囲んでいるフォレストウルフたちとにらみ合っていると、木の上にいた白猫コハルが、小さな袋を取り出すと、それを1匹のフォレストウルフに向かって投げつけた!
袋は、フォレストウルフの鼻先に当たり、ボフッと音がする。鼻先に当たった袋は、粉上のものをまき散らし、狼は悲鳴を上げる。
強烈な香りの草やキノコを粉末にしたそれらは、嗅覚の強いフォレストウルフたちにとっては、特に効果が強かったようで、飛び散る粉末に辟易するように身を離すのが見えた。
「どんどん行くニャ~」
と、楽しそうに粉末入りの袋を投げつけるコハル。また、それと連動して、隙を見せた狼に向かい、ヨイチが気の上から弓で攻撃をかけた。臭い入りの小袋と、弓での攻撃に機先を制することができたが、状況を打破しようと、何匹かの狼が地上の俺たちに向かって突っ込んできた。
「がるるる!!」
「うおっ!!」
そのうちの1匹が俺に覆いかぶさるように襲い掛かってくる。慌てて俺が盾をかざすと、その盾にガジガジとかじりついてきた。幸いにも、かじっている間に、横合いからゲンノスケが小太刀で攻撃をしてくれた。
「とうりゃニャ!」
ゲンノスケの小太刀の一撃を脇腹に受け、悲鳴を上げて狼は俺から身を離す。その間に、俺は体勢を立て直すことに成功した。乱戦は手慣れたものなのか、ケットシー達にはその後も何回か、危ない場面をフォローされ、フォレストウルフたちの攻撃をしのいでいく。
「エア・カッター!」
木の上からは、臭い袋、弓矢の攻撃に加え、時折、デネヴァが魔法によってフォレストウルフに攻撃を仕掛け、敵の被害は徐々に大きくなっていく。
そうして、何匹かの狼が地に伏すと、形成を立て直すのが困難と見て取ったのか、リーダー格の狼がひと声上げると、狼たちは包囲を解き、森の奥に走り去っていく。残されたのは4匹のフォレストウルフの亡骸。こちらは地上で戦っていた俺たちが手傷を負ったが、大きな怪我もなく、勝利することができたのだった。
「おつかれ! それにしても、今回は大きな集団だったわね」
ケットシーたちの補助を受けつつ、デネヴァが木の上から降りてきて、そんなことを言った。フォレストウルフは4~6匹の集団で行動することが多く、今回のような倍する数の群れに当たるのは珍しいことらしい。想定外ということもあり、ケットシー達も若干の手傷を負ったが、問題はないようだ。
「それじゃあ、傷を見せてほしいニャ」
パーティの一員である白猫のユキは、ケットシーの傷を舌で舐めて回復することができるようで、毛づくろいするように彼女が舐めると、受けた傷がふさがっていくのが見て取れた。
「ユキ殿~、ゲンノスケリーターだけでなくて、こっちも直してほしいんだニャ」
「はいはい、順番待ちだニャ」
黒猫の1匹、ジンパチは、ゲンノスケが舐めて治療を受けているのを、うらやましそうに見ていた。
ケットシー同士にも、恋愛感情的な関係が垣間見れる一幕であった。
「さて、それじゃあ、このフォレストウルフの死体だけど……これまでは牙や爪は取れても、他は捨てていたわけだけど……ペンタ、よろしくね」
「ああ。アイテムボックスに入れればいいんだな」
アイテムボックスは、生物は入れることができないが、命がなくなった動物の死体などは入れられるのは、狼たちに襲われる前のビッグブーや、ホーンラビットで試してみて、可能だということが分かっていた。
狼たちは、大型犬くらいのサイズがあり、それを異空間に収納すると、ケットシーたちから歓声が上がった。重い荷物を持たなくて済むのは、やはり嬉しいようである。
「それで、狩った獲物は持ち帰ってから解体するのか?」
「そうね………料金はかかるけど、ギルドの解体ブースに持ち込むのもよいと思うわ。有料だけど、大きな獲物を丸ごと持ち込むときは、そっちの方が割が良いこともあるのよ」
なるほど、そんなこともギルドはしてくれるのか、と感心しつつ、俺たちは撤収の準備に入った。薬草類の収集に、複数のフォレストウルフという成果もあったため、意気揚々と俺たちはギルドに戻ったのであった。
序章-15 ギルドでの清算
ギルドに戻った俺たちは、不愛想な受付美人、リーゼさんのところに行く。そうして、集めた薬草類をまず提出した。
「薬草類を承りました。精査をしてから報酬が決まりますが、受取はいかがいたしますか?」
「今のところ、資金に困っているわけでもないし、明日でいいわよ。それと、フォレストウルフを4匹、丸ごと持ち帰ったんだけど、それの解体をお願いできるかしら」
デネヴァの言葉に、無表情な顔のまま、俺に視線を向けてくるリーゼさん。
「カーペンタ様の能力ですね。使い勝手が良い能力のようですね」
「おかげで助かってるわ……あげないわよ」
「現状、デネヴァ様とのパーティで齟齬も発生してはいませんし、奪い取ったりはしませんよ」
そんなことを言いながら、リーゼさんは、あちらが解体場です、と、ギルドの奥の扉を指し示した。
解体場はギルドの裏口の先にある、大きな小屋がそうだとのことだ。実際、なまものを解体するのだし、血や臭いなどを考えると、受付スペースから遠くの場所にあるのは至極全うな理由だ。
どうやら、解体場はギルドを通らずに、直接そちらにも赴けるらしい。
「よく来たな! それで、見たところ手ぶらだが、何を解体するんだ?」
解体場の主人は、筋骨隆々で抜き身の出刃包丁を持った、大きなガタイの男である。まさか、その猫たちをばらすのか?と、冗談なのか、真面目なのかわからない調子で聞いてきた。
その言葉を聞いて、おびえた様子でケットシーたちは、俺とデネヴァの後ろにそれぞれ隠れようとした。
「それはこれから出すわ。ペンタ、お願い」
あいよ。と返事をして、アイテムボックスからフォレストウルフの亡骸を4匹出して並べる。包丁男は、フォレストウルフの死体を触って見聞すると、感心したように声を上げた。
「随分と鮮度のいい亡骸だな。普通、森から街まで持ってくるだけでも、かなり鮮度は落ちるものだが……街の近くにでもフォレストウルフが出たのか?」
「狩ったのは、森の中でよ。鮮度がいいのは、ちょっとした秘密ね」
指摘されて気付いたが、アイテムボックス内は時間の流れがないのかもしれない、今までは、便利な入れ物としか考えていなかったが、いろいろと不思議な効果があるのだろう。
デネヴァの言葉に、包丁男は、そうか。と頷くと、番号の書かれた木片を差し出してきた。
「解体したものは、こちらで清算しておく。この番号札を明日の朝、受付に出すといい」
「了解。あ、まだほかにも獲物はあるけど、追加で解体できる? ビッグブーと、ホーンラビット、デュエデュエ鳥だけど」
「……わかった。おいていけ」
その言葉に、俺は残りの獲物も出して並べる。どれも鮮度が高かったのか、包丁男は獲物の状態を確認すると、満足そうに頷いていた。
なお、包丁男の名前はピエール。美人の奥さん持ちであると知ったのは、付き合いが長くなってからのことであった。




