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序章:ペンタの冒険者時代57

序章-85 ジャスドー子爵家の始末(3人称視点)



「この馬鹿者が!」

「ぐはっ………! も、申し訳ありません、父上っ……!」


したたかに頬を打ち据えられ、オルグは床に倒れ伏す。オルグの頬を殴ったのは、父親であるロースト・ジャスドー子爵。

母に似た美形に産まれたオルグは、成長するにつれ父に命じられ、悪事の片棒を担ぐこともあった。

だが、それは父親に言われるままにしてきたことで、彼自身の頭は、それほど良いものではなかった。

父ほどの切れ者でない彼は、家の者たちに出来の悪い息子、不詳の二代目といわれているのを知っていた。


憂さ晴らしに女に手を出したりしても、心が晴れるわけでもなく、いつかは自分も父に認めてもらいたいと、常から思っていたのである。

そんな彼にとって、幽霊により手放した館を取り返すことは、父はもとより、母や妹に良いところを見せるためにちょうど良い目標だったのである。


父がやることを模倣し、遠回しに相手を追い詰めてから手を差し伸べる。やり方は悪くはなかった。

子爵家という立場を利用して、途中の経緯がどうであろうと、最終的には、こちらの思う通りになると思っていた。


それがまさか、公爵、さらに聖女が関わる一大事になってしまったとは。


「お前には常々言っていたはずだ。相手に挑む前に、まずは情報をそろえろと。けして、自らより上の身分の者に、喧嘩を売るなかれと」

「そ、それは……知らなかったのです! あいつらのバックに、公爵家がいたことなど!」

「詳しく調べれば、分かることだったのだ。そういう私も、お前が言うならと、成果を見守るためについていっただけであったがな。我が子かわいさとは言え、私も耄碌したか」


ため息をつきつつ、肩を落とすジャスドー子爵。そんな彼に、恐る恐る、オルグは口を開いた。


「父上、これからどうすれば……そうだ、デンバー侯爵家を頼りましょう! 普段、金を出しているんです。こういう時にこそ、役に立ってもらいましょうよ!」

「まあ、それしかあるまいな。王都に行き、侯爵様から、ラザウェル公爵家へのとりなしを頼もう」


もっとも、それが叶うかは分からぬがな……と、どこか達観した様子でつぶやく子爵。

怪訝そうな顔をする、自らの子、オルグを冷たく見下ろし、口内でつぶやく。


「もしもの時は、こいつを切り捨てることも考えねばならぬか」


そうして、ジャスドー子爵は、息子とともに馬車に乗り、王都へ向かった。なんとしても、侯爵に会って、今回の一件を解決しなければならなかった。



「よくも、顔を出せたな! この馬鹿どもが!」


王都につき、デンバー侯爵家へ使いを出して訪れると、通された応接間にて、侯爵家当主は怒りの表情でジャスドー子爵家の親子を出迎えた。

相手が怒り狂っているのを見て、子爵家の親子は深々と頭を下げる。だが、オルグの方は不満そうに、頭を下げるのがわずかに遅れた。


「なんだ、その顔は!!」

「ぐうっ!?」


それを見逃さなかった侯爵に、持っていた杖でしたたかに顔面を殴られ、オルグは床に倒れ伏す。そんな彼を一瞥した後、ジャスドー子爵は侯爵に深々と頭を下げた。


「この度は、バカ息子がしでかしたことが、すでに侯爵様の耳にも届いているようで……どうか、侯爵様のお力で事態を解決できるように取り計らいを……」

「取り計らいか……生憎だがな、お前の思っているよりも、さらに事態は大きくなっているぞ」

「………はっ?」


顔を上げる子爵に、舌打ちしそうな顔で、ソファに座るように指示するデンバー侯爵。いわれるままに席に座ると、侯爵も席に座った。なお、オルグは床に倒れたままである。


「貴様の息子……いや、そこの馬鹿のしでかしたことで、ラザウェル公爵から通達があった。我が家が公爵の愛娘であり、聖女のマリー嬢に婚約の打診をしていたが、それを断り、我が侯爵家とは付き合いを控えさせていただくとな」

「それは」

「聖女が住むはずの家に、押し入るような部下を持つ家とは、お付き合いを控えさせていただくとな! そうして、我が家だけではない! 我が侯爵家が後押ししている第3王子をはじめ、多くの家が聖女への婚約の打診を却下された挙句、付き合いを断られたのだ、この一件を機にな!」


苦々しい口調でいうデンバー侯爵の言葉に、ジャスドー子爵は言葉もなく沈黙する。

自らの息子の行いが、侯爵家や、王家にまで迷惑をかけていたとなると、息子の首一つでおさまるものか……


「ラザウェル公爵としても、今回の一件は数多くの婚約の打診をふるいにかけるのに、ちょうどよかったのだろう。だが、婚約の打診を断られ、疎遠となる理由に貴様の家が起こしたことが原因となれば、憎むのは公爵ではなく、ジャスドー子爵、貴様の家が責められるこことなるだろう」


それだけ、貴様の息子がしたことは重いのだ。といわれ、ジャスドー子爵は沈黙する。そうして、数分の沈黙の後、苦しそうに口を開いた。


「…………最悪、子爵家だけでも残すには、どのような条件が?」

「貴様は、子爵の座を降りてもらう。関係の薄い遠縁の者が、子爵家を継続させる。だが、今回の件で他家からの付き合いを切られることは間違いないだろう」


デンバー侯爵は、憎々しげに、床に座っていたオルグに目を向ける。剣呑な目を受けて、オルグは震えあがった。


「そこの馬鹿は、こちらで預かる。うちの息子や、第3王子、その他にも今回のことで怒る者たちはいるのでな。怒りの矛先を用意せねばならぬ」

「………妻と娘は、これから財産を集めて国外に逃がします。私は、残りましょう」


矛先は、多いほうが良いでしょうからな。そういうジャスドー子爵に、デンバー侯爵は残念だよ。と一つ言うと、それを合図に部屋に完全武装の兵士たちが流れ込んできた。

兵士たちは、あらかじめ命じられていたのか、オルグだけを拘束する。


「な、は、放せ! ち、父上!!」

「妻と子供を逃がす用意が必要だろう。ジャスドー子爵には、今しばしの猶予を与える」


デンバー侯爵の言葉に静かにうなづくと、兵士に拘束されまいと、もがく自らの息子に、子爵は静かな目を向けていった。


「もはやもがいても無駄だ。すぐに私もそちらに行くから、おとなしく待っているとよい」



それからしばらくして、ジャスドー子爵家は当主と子息が急死となり、妻と娘は国外へと逃れた。

ジャスドー子爵家は、遠縁の者に家督は受け継がれたが、前子爵が悪事に手を染め、多くの家から敵視されていることと、今回の公爵家への一件もあり、社交界ではつまはじきにされることは、間違いなく、没落は免れそうになかった。



なお、ペンタがそれを知るのは、旅を終えて、都市・タルカンを訪れてからの事であった。

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