序章:ペンタの冒険者時代54
序章-82 もめごとの翌日 と 魔神の迷宮【土塊の階層】4
ごろつき紛れのパーティ、黒い牙とやらに言いがかりをつけられて絡まれた一件の翌日。
午前中を宿で過ごし、昼に冒険者ギルドにて今回の裁定を行うということで宿を出ると、
「よう、みんな揃っているな」
「ロビンソンさん、なんでここに?」
宿を出るなり、そこには中年カウボーイのギルドマスターこと、ロビンソンさんが待ち受けていた。
「今回の一件、ひょっとしたら黒い牙の連中が、お前さんたちを襲って事実をうやむやにするんじゃないかと思ってな。まあ、お前さんたちにとっちゃ、あの程度の相手は敵にもならんだろうが、念のためな」
「ああ、なるほど」
「あと、ジャネットの様子を見にきたのもある。おう、元気でやっているか?」
「はい、皆さまに、良くしてもらっています」
ジャネットの短めの返答に、そうか、と嬉しそうに頷くロビンソンさん。彼と一緒に、冒険者ギルドにつくと、俺たちはギルドマスターの部屋に入り、黒い牙の到着を待つことにした。
「まあ、来るか来ないかは半々といったところだろう。飯でも食って待っていようぜ」
「その言いぶりだと、多分来ないだろうと思っているでしょう?」
そんなやり取りをしつつ、ギルドマスターの部屋で昼食をいただいた。昼食を食べていると、ギルドの事務員に一人のシスターの来訪を告げられる。
「お待たせいたしました、ロビンソン様」
「よく来てくれた、シスター・メル。どうぞ、こちらに座ってくれ。昼食を用意させよう」
ありがとうございます、とほほ笑むのは中年のシスター。メルと言う名前の彼女が、真実寒波のスキル持ちの女性だそうだ。
会食に参加した、シスター・メル。ロビンソンさんとの関係を聞くと、何でも昔、一緒にパーティを組んで活動したことがあるとか。
「ロビンソン様は、今ではおとなしくなったものの、当時はやんちゃで、私どもも手を焼かされましたのよ」
「おいおい、若気の至りのことを、掘り返さないでくれ」
困ったように言いつつも、本気で嫌がることもなく、苦笑するにとどめるあたり、ロビンソンさん達にとって、過去の冒険者としての思い出は、良いものであったのだろう。
そうして、会食を終えた後……時刻が夕方になるまで念のために待ち、黒い牙が来ないことを確認して、ロビンソンさんは裁定を下した。
「黒い牙が、お前さんたちと会って被害を受けたという件は、向こうの虚偽ということで間違いないだろう。念のため、シスター・メルの看破を受けてくれ」
「では……あなた方は黒い牙という方々の言っていたような、罪を犯しましたか」
「いいえ」
「………うそを言ってはいませんね。このことは、教会から証明書を発行します」
裁きの場に姿を現さなかったことと、俺たちの証言に偽りがなかったことが決め手となり、俺たちは無罪放免となった。
黒い牙の面々は、虚偽の報告をし、俺たちを陥れようとしたこと、また、審議の沙汰の場に出席せずに逃げたこともあり、冒険者資格はく奪に加え、各所に指名手配の通達が行くことになった。
つかまった場合は、詐欺師として裁かれるとのことである。
無罪の結果に満足した俺たちは、その日は宿に帰ると、ささやかながら宴を開いた。
今回の一件で、俺たちを貶めようとするやつらへの、牽制となればいいんだが……
翌日から、俺たちは魔神の迷宮の攻略を再開する。3日進んで1日休むペースを繰り返し、さらに奥へと進んでいた。
土塊の階層の深部に到達しつつある状況、地表近くにくらべると、襲い掛かってくる敵も一段と強くなってきていた。
出没する敵の中では、オークシャーマンが一番の強敵であり、炎を飛ばして攻撃してくる。
………オークなのにシャーマン? と思ったわけであるが、デネヴァに聞いたところ、オークも賢いやつはいるとのこと。
そういえば、豚は犬と同様に芸をしたり、実は賢いって前世で聞いたことがあるような気がする。あとは紅のぶーーーと、それは関係ないか。
「ぐっ……!?」
「ジャネット、大丈夫か?」
「はい、ですが、盾が壊れました」
オークシャーマンの炎攻撃を、ジャネットが盾で受けて耐えながら進んでいたが、度重なる炎熱攻撃を受け、ジャネットの盾が、とうとうお亡くなりになってしまった。
「このまま、進むのは危険ね」
「デネヴァの言うとおりね。ひとまず、戻りましょうか」
装備の不備のまま突き進んで、メンバーを危険にさらすのも良くないと考え、俺たちは迷宮から退去することにした。
帰りの道を乗合馬車に乗りながら、ジャネットの姿を見る。もっとも、敵の攻撃を受けている彼女の鎧は、盾以外も損耗しており、修繕が必要そうだ。
「街に帰ったら、盾の代わりや、武具の修繕をしないといけないな」
「そうですね……ですが」
「悪い噂がねー。いつまで続くのかしら」
魔神の迷宮を攻略し始めて一か月ほど。街に広まりつつある俺たちの悪い噂は、尾びれ背びれをつけて広まりつつあった。
パーティの女性陣は、宿にこもっているので実際に被害にあうことはないが、買い物に出る俺としては、肩身の狭いことこのうえない。
この状況で、武具を売ってくれたり、修繕してくれる店があるかは疑問なところであった。
「一度、本格的に武器を強化する必要があるな……ドワーフの集落まで行きたいところだけど」
「ドワーフの集落ね……エルフは良い顔をされない気がするわ」
「まあ、都市・タルカンの近くでもあるし、その時はウルディアーナは留守番で、ベルディアーナと会えばいいと思う」
ただ、都市・タルカンまでは王都を経由しての長旅になる。できることなら、いま起こっている悪い噂やいやがらせなどのちょっかいを、何とかしてから出発したいところであった。
そんなことを考えながら、拠点としている宿に戻ると、エビース商会から連絡が……
修繕し終わった館に、俺たちが権利を持っているという男たちが押し寄せて、占拠をしてしまったらしい。
今度は、館の占拠か……そんなことを考えながら、俺はエビースさんに会いに、商会に向かうことにしたのだった。




