序章:ペンタの冒険者時代53
序章-81 魔神の迷宮【土塊の階層】3 と ギルド内でのもめ事
翌日からも、俺たちは魔神の迷宮に潜り、転移ポータルを活用して攻略にあたった。土塊の階層では、転移ポータルを境にモンスターの強さや迷宮の難度に変更があるようだ。
そのため、まずは転移ポータルを中心に活動し、数日間は慎重に難易度を確認することにとどめ、安定して進めるようならば進み、次の転移ポータルを探すという方法で、先に進む。
数週間後には、いくつかの転移ポータルを見つけ、さらに奥まで進むことができていた。
敵の強さが、手ごたえのあるものに変わったところで、俺たちは無理をせずに進行を止めると、最前線となる転移ポータル中心に、モンスター討伐をして実力を上げていくことにした。
土塊の階層の相応に奥まで来たこともあり、他の冒険者パーティとは出会うこともなく、付近での素材回収やモンスターとの戦いは、邪魔も入らずに集中することができた。
そうこうして、日々を過ごしていたある日のことである。
その日は、黒猫ケットシーのサスケとともに、冒険者ギルドに足を向けていた。ジャネットの保護者ともいえる、ギルドマスターのロビンソンさんに、現在の攻略状況を伝えるためである。
ジャネットの親代わりを自負しているギルドマスターに、事の次第を説明するわけだが、ジャネットはというと、同行するかと聞いてみたら、
「お任せします」
というだけの、そっけなさである。それでいいのかとも思ったが、
「まあ、ジャネットにもいろいろあるのよ」
と、デネヴァが口をはさむ。俺とはともかく、ジャネットと女性陣との仲は良好であり、俺が分からない、ジャネットの本音も知っているのかもしれない。
そんなわけで、ジャネットと、デネヴァ、ウルディアーナ達を置いて、俺は冒険者ギルドに来たわけである。
「ん………?」
ギルド内に入ると、あちこちから視線が飛んでくるのが分かる。それも、どちらかというと、好意というよりも敵意に近い視線である。
そんな視線を向けられる心当たりは無いので、奇妙に思いつつも、受付に向かった。ギルドマスターとの面会を求め、奥に通される。
「お前さん達、なにかやったのか?」
ギルドマスターの部屋にて、俺に会うなり開口一番、ロビンソンさんは俺に向かって聞いてきた。
「なにかやったかというか、俺の方が聞きたいんですけど。ギルドに入るなり、なんかすごい目で見られたんで」
「ああ、この数日だが、お前さん達の悪いうわさが街に広まっているらしい」
なんでも、あちらで暴れたとか、こちらでケンカしたとか、店の商品を脅し取ったとか、そういった類のものである。
噂の出どころは不明であり、発生源も特定できないが、そのせいで、俺たちの評判が落ちているとか。
「街のあちこちで、っていっても、俺たちは宿とダンジョンの往復しかしてませんよ? うちの女性陣も、宿にこもりっきりで、出かけることなんてなかったし」
「そういえば、ジャネットもお前さんとこに合流しているんだったな。じゃあ、アリバイはあって、根も葉もないうわさということになるが……なんでこんなことになっているんだ?」
「ひょっとしたら、あれかもしれませんね」
あれ? と聞いてくるロビンソンさんに肩をすくめ、
「例の、オルグってやつが、俺たちの評判を落として、街から追い出そうとしてるんじゃないですかね? 評判を下げて、館を放棄せざるを得ないようにするとか」
「………ありそうなことだな。このまま評判が悪くなれば、街で買い物するのも難しくなるかもしれん」
「まあ、必要なアイテムは買い込んでありますし、食料だって自給自足できますから、そのくらいはどうとでもなりますけどね」
「たくましいな」
基本的に、こういったことは過剰に反応した方が負けである。俺たちは悠々と、ダンジョン攻略を続け、館が完成したら移り住むつもりであった。
現状の攻略具合をロビンソンさんに報告し、ギルドマスターの部屋から退出する。
そのまま、ギルドの受付まで戻ってきた俺とサスケだったが、そこでひと悶着が起こることとなった。
「あいつだ! あの野郎にやられたんだ!」
と、いきなり響き渡った声。見ると、ガラの悪そうな男たちが、俺を見て何やら叫んでいる。
「カーペンタ様、少しよろしいですか?」
俺を呼ぶ、受付嬢の顔も険しい。なにやら、不穏な空気を感じたが、スルーするには、周囲の目線が厳しいところであった。
やれやれ、と思いつつ、サスケを連れて、俺はその場に近づく。
「どうかしたんですか? 俺に何か用らしいですけど」
「どうかしたじゃねえ、お前、俺たちにダンジョンで襲い掛かってきただろう!」
「仲間が怪我させられて、持ってたものも奪われたんだ!」
「こいつらのパーティがやったんだ! 猫や、なんか全身鎧を着ていたやつもいた!」
と、口々にわめく男たち。その様子に、受付嬢も厳しい表情で俺を見る。
「先日、ダンジョンにてこちらのパーティ”黒い牙”の方々が、同じ冒険者パーティに襲撃され、被害をだしたそうです。同じ冒険者に、危害を与えるのはギルドの規則で禁止されている行為ですが、それが貴方たちであると申されています」
「申されていますって言っても、おれはそもそも、そこの黒い豚とやらのメンツと顔を合わせたこともないんですが」
「何が豚だ! 俺たちは黒い牙だ!」
「誤魔化すな! 弁償しろ!」
「謝れ!」「謝れ!」
と、口々に言うゴロツキ紛れの冒険者の一団。とはいえ、困ったところだ。
現状、ダンジョン内での詳しい行動を証明するのは難しい。やっていないといっても、やっていないという証拠を出すのは困難である。
黒い牙とやらの大声に、周囲の俺たちに向ける視線も厳しい。どうしたものかと思っていると、
「おうおう、ずいぶんと騒がしいじゃねえか」
と、先ほど話していた、ロビンソンさんが姿を現した。
「どうした? なんかもめ事か?」
「あ、ギルドマスター、こちらの」
「俺たちは黒い牙だ! ここにいるペンギン頭の一団に、攻撃されて被害を受けたんだ! 目立つ猫の集団や、全身鎧にも攻撃された!」
「………ほう、全身鎧の、それは、ほんとうか?」
ロビンソンさんの質問に、黒い牙の男たちは、そうだ! まちがいない!と騒ぎ立てる。
「お前さんはどうだい? 向こうはこう言っているが」
「事実無根ですよ。今日初めて会いましたし」
俺の言葉に、なんだと! うそをいうな! とがなり立てる男たち。だが、
「まあ、真実を確認する方法はある!」
と、ロビンソンさんの声に、ぴたりと言葉を止めた。
「荒事が多い冒険者稼業ともなると、こういったトラブルも多い。お互いの言い分が正しいかを判断するため、教会から【真実看破】を行える人物を呼び寄せるつてがある」
「真実看破……要するに、噓発見器みたいなものですか」
「ああ。そういうことだ」
静まり返ったなか、俺の質問に、ロビンソンさんは肯定する。黒い牙たちは、視線が怪しくなり、お互いを見ていた。
「今回の件、どちらの言い分が正しいか、はっきりしようじゃないか。悪いのは、そこのペンタくん達か、あるいは……」
「ま、まってくれ!」
「待たないね。なぜかわかるかい? お前さんたちの言っている全身鎧は、俺の子供”のようなもの”だからさ」
ロビンソンさんの言葉に、黒の牙の面々は、愕然とした顔をした。
「俺の子供が悪事を行っているのなら、親として責任をとらにゃいかん。だが、親としては子供の無実を信じたいのでね。真実をはっきりさせたいのさ」
「あ、ああいや、勘違い……」
「いまさら、吐いた唾は飲まさねえよ。明日、この件の関係者は昼までにギルドに来るように。来ない時点で、相応のペナルティを負わせる。まあ、来たとしても、他のパーティを陥れようとしたのなら、冒険者資格のはく奪は免れんがな」
ロビンソンさんの言葉に、そんな! と悲鳴を上げる黒い牙たち。その時点で、どちらに非があるのかは、ほぼ丸わかりのようなものである。
ギルドにいた他の冒険者たちも、非難の視線の方向が、いつの間にか俺から黒い牙に変わっていたのであった。




