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序章:ペンタの冒険者時代52

序章-81 魔神の迷宮【土塊の階層】2


それからも、先行する俺やケットシー達が敵や罠を排除し、デネヴァ達があとから続くという流れで、ダンジョンの探索は滞りなく進む。

魔神の迷宮でも浅い階層のため、普通の冒険者たちも素材集めにきている者たちもいて、複数の冒険者パーティと出会ったり、すれ違ったりした。

冒険者というのは、基本的にガラの悪いものもいて、デネヴァやウルディアーナにぶしつけな目を向けるやつもいたわけだが、完全武装のジャネットをみて、ちょっかいをかけることなく去っていった。

その他にも、モンスターに苦戦しているパーティを救援して感謝されたり、宝箱を発見し、中にはちょっとしたアイテムが入っていたりと、色々な出来事がありつつ、ダンジョン探索は進んだ。


そうして進んでいくと、ダンスホールくらいの広さの、開けた場所に出た。ちょっとした休憩ポイントのようで、ここならモンスターの襲撃もすぐに察知でき、奇襲を防げそうだ。

あちこちに複数の焚火のあとがあり、離れた場所では他のパーティが焚火を囲んで休息をとっている。


「それじゃあ、ここで食事にしようか」


キャンプ地のような場所についた俺たちは、焚火をおこし、食事の準備をする。

食材に水、包丁とまな板、椅子にテーブルなど、アイテムボックスから取り出していく俺を見て、ジャネットは驚いた様子である。


「ずいぶんと、食事に大掛かりに取り組むのですね。ダンジョンでの食事と言えば、干し肉をかじったり、パンやチーズを焚火であぶったりするくらいだと思っていたのですが」

「食事は大事だからな。幸い、俺は色々と持ち運べる能力持ちだから、こういったこともできるわけだ」


料理上手な黒色ケットシー、タンポポと協力して、調理をしていく。ほどなく、大きな寸胴鍋に食材をふんだんに使ったスープが出来上がった。

その他にも、ドレッシングを使ったサラダや、複数の果物を使ったデザートなど、調理された食べ物がテーブルに並べられる。

気分は、キャンプ地での食事会といったところか。


「それじゃあ、いただきましょうか」

「「「いただきますニャ!」」」


デネヴァが号令し、ケットシー達や皆がワイワイと食事を始める。俺も食事をしながら、傍らのジャネットを見た。

完全防御で、顔を隠していた彼女であるが、さすがに食事をとるときは兜を脱ぎ、仮面を外していた。


鍛え上げられた身体を持つ騎士。ジャネットの素顔はキリリとした顔つきの女性受けしそうな美人である。

シルバーブロンドに、アメジストの瞳。髪形は、肩まで伸ばしたショートヘアだ。

いわゆる、イケメンフェイスと言えばいいか、男性とも女性ともとれる中性的な美貌であるが、他者を寄せ付けぬような鋭い目線が特に印象的である。

黙々と、食事をとっているジャネットを見つめていると、視線を感じたのか、俺をまっすぐに見つめてきた。


「………何か?」

「いや、何でもないんだ」


ジャネットから目線をそらし、近くでキャンプをしていた他パーティを見ると、羨ましそうに、こちらを見ているのがうかがえた。

せっかくだから、情報収集もしてみるか、と、俺は寸胴鍋を両手に持ち、他パーティの囲んでいる焚火に近寄った。


「あのー、スープを作りすぎちゃったんですけど、いります?」

「よそわせていただきますニャ!」


俺と一緒についてきたタンポポが、元気よく、お玉を振り上げて言うと、男女混合のパーティの彼らは一度顔を見合わせると、もらえるなら、と返答を返してきた。

予備の木の器と、スプーンを取り出し、人数分のスープを渡すと、彼らはうまいうまいと食べだした。

中には、さっそくお代わり! という者もいる。


「こら! あつかましいぞ! すいません、食い意地が張っていて」

「いえ、こちらから言い出したわけですし」


パーティのリーダーである、ひょろ長の顔の青年が、俺に申し訳なさそうに頭を下げてくるので、俺は鷹揚に返事を返した。


彼らに食事を振る舞いつつ、このあたりのことについて尋ねる。


この辺りは、日帰りで行動する者たちの行動範囲の限界点で、ここで食事休憩を取り、入口まで引き返すのが基本のようだ。

ひょろ長の戦士、ヒューロ一行も、素材集めに日帰りで魔神の迷宮に来たわけで、ここで休憩を取り、入口まで引き返し、ロバルティアに帰るそうだ。


「本格的にダンジョンに潜るなら、ここからは慎重に準備をする必要がありますからね。私たちは、このあたりで素材集めをするのがせいぜいですよ。魔神の迷宮で、奥に進んだ先には、広大な大森林があるとか、噂には聞いたことがありますが」

「なるほど、そのあたりが今のところの到達限界点なのかな?」

「ひょっとして、貴方たちは奥に進む気なのですか? ここから奥は、モンスターも強くなっているようですし、気を付けてください」


聞くところによると、一度は数日間の宿泊準備をして、奥に進もうとしたが、なかなかに大変であり、結局は日帰り生活に戻ったとか。


「まあ、今日はほどほどにしておく予定ですけど。あ、そういえば少し奥に進んだって言いましたけど、ダンジョンの入口にあったような、祭壇っぽい台を見ませんでした?」

「祭壇っぽい台ですか……? うーん、見たかなぁ」

「そりゃああれだろう、入口にあった、なんか立派な台と、地面に書かれた丸い絵みたいなあれだろ! 覚えているぞ!」


と、俺とヒューロさんが話していると、スープをお代わりしていた中年の男が、声を上げた。


「覚えているのか、ライド?」

「おう、ここから進んだ通路で、分かれ道を右に進んだところにあったじゃねえか」

「あ、あー……そうだった、祭壇から少し進んだ先で、モンスターと出くわして逃げた場所だね……」


当時を思い出したのか、苦い顔で頷くヒューロさん。


「おう、それからは引き返して、左の道を進んだが、結局あきらめてもどったわけだな」


重要な情報をくれたライドさんに、スープのお代わりを注いだ。その後、食事を終えた俺たちは、ヒューロさん一行を別れて先に進んだ。

言われたとおりに、通路の分かれ道を右に行くと、入口でも見た転移ポータルがそこにあった。


「あったあった。それじゃあ、転移する前に近くの素材を集めよう」


ここを往復するのであれば、ここに転移する用の素材が必要なため、周囲を警戒するグループと、素材集めグルーフに分かれ、手分けして俺たちは小石などを集めていく。


「それにしても、ここから入口に戻れるなら、さっきの人たちもつれてきても良かったんじゃない?」


弓を持ちながら、周辺に異常がないか見渡しつつ、ウルディアーナがそんなことをいう。


「まあ、それも少しは考えたけど、実際、この転移ポータルが使えるかわからないのが一つ」

「試してないから、当然ね」


俺の言葉に、デネヴァが頷きを返す。なお、彼女は素材集め組で、地面に落ちている小石を拾っている。


「それともう一つ、転移ポータルの情報は、なるべく秘匿したい。この位置だと、入口からこの近辺の素材集めをするのに便利だろう。聞きつけたパーティが、こぞって利用する、そうすると、行列ができる。となると、俺たちが困る」


転移ポータル一つを利用するのに、行列で待つとなると困るからな。

そういう俺の言葉に、ウルディアーナも納得したように、なるほど、と頷いた。



そんなこんなで、素材を集めた後は、転移ポータルを使ってみることにした。

転移ポータルの祭壇に、入口付近で取得した小石を乗せ、全員で魔法陣の上に立つ。

転移ポータルは、物をささげる祭壇と、半径3メートル程の魔法陣でできており、魔法陣の上に乗ったものを転移させるとのことだ。


「それじゃあ、魔力をこめるぞ。全員、魔法陣の中に入っているな?」


俺、デネヴァ、ウルディアーナ、ジャネットとケットシー達。ケットシー達がある程度小柄なこともあり、全員が魔法陣に入っていることを確認し、俺は祭壇に魔力をこめる。

魔力のこもった祭壇。上に乗った小石に反応してか、魔法陣が光りだすとーーーー



次の瞬間、俺たちは地上に出ていた。出現した場所は、転移ポータルから、ある程度離れた場所である。

転移ポータル上から転移ポータル上にの移動でないのは、双方が同時に使用しても、問題ないようにするためだろうか。



「おー、本当に帰ってこれたわね」

「外の空気ですニャー」


興味深げに、周囲を見渡しているデネヴァに、ケットシーのサスケが応じる。


「あとは、元の場所にここから行けるかよね?」

「そうだな、試してみよう」


そんなわけで、入口→休憩地点→入口と往復でワープした後、俺たちはひとまず探索を繰り上げ、ロバルティアに戻ることにした。

時間的には昼と夕方の中間点といったところだが、ジャネットを加えた初パーティの編成で無理をするよりは、程よいところで引き返すことにしたのである。

帰りの乗合馬車では、今日の成果や反省点などを話し合って過ごしていた。そんなやり取りの中、ウルディアーナがジャネットに


「ねえ、ジャネットは泊る所はどうしているの?」


と質問をした。


「泊る場所ですか? 宿を借りて宿泊していますが」

「じゃあ、それを引き払って、こっちに泊りに来なさいよ。私たち、皆で同じ宿に泊まっているから」

「……それは、ご迷惑ではありませんか?」


ウルディアーナの申し出に、ジャネットは戸惑うように言う。そんな彼女を見て、


「迷惑じゃないから来なさい」


と、デネヴァがそういいつつ、サスケを抱え、ケットシーの肉球付きの手を、ジャネットの顔あてにぺたりと押し付けた。


「……はい」


デネヴァの言葉か、ケットシーの肉球力か、ジャネットは少しの沈黙のあと、頷きを返す。

こうして、俺たちが泊まる宿に、ジャネットも一緒に宿泊することになったのであった。


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