序章:ペンタの冒険者時代51
序章-81 魔神の迷宮【土塊の階層】
魔神の迷宮は複数の階層に分かれている。その最序盤は【土塊の階層】という名で、オーソドックスなタイプのダンジョンである。岩や土によって形成されたダンジョン内は、光る苔のようなものが各所に生えており、完全な暗闇ではない。
とはいえ、充分に薄暗く---部屋の明かりで言えば、豆電球がついている程度。うっすらと近くの何かが輪郭でわかる程度のもの---ダンジョン内を行動するのには、明かりは必須である。
ジャネットがたいまつを持ち、そのあとにデネヴァとウルディアーナが続く。明かりをともしているのは、彼女たちの周辺だけである。
先行する俺とケットシー達は、夜目が効くので明かりもなしにダンジョン内を闊歩していた。
「あ、あそこに岩コウモリが止まってますニャ」
同行して周囲を見ながら先行するサスケの言葉に天井を見ると、数匹のコウモリが、天井に張り付いているのが見えた。
「よし、退治しておこう」
「先手はお任せくださいニャ!」
先行組のケットシーの中でグレーの毛色のケットシー、ヨイチが意気揚々と弓を構え、引き絞って矢を放つ。放たれた矢は、見事に岩コウモリの一匹を射抜き、地面に落とす。
だが、仲間を射抜かれたのを察知し、残りの岩コウモリが襲い掛かってきた。
岩コウモリは、頭部が岩のような形であり、他の部分よりも防御力も高い。また、身体の色は周囲の岩と同じ色をしており、天井に吊り下がっていると、つららのような岩に見間違えることもある。
飛びかかってきたコウモリの攻撃は、体当たりと噛みつきであり、集団で獲物に襲い掛かり、体液を吸い尽くすこともあるとか。
羽音と、コウモリ特有の「キィキィ」という声を耳にしつつ、俺は虎徹を抜き放つ。
闇夜に近い暗闇の中、虎徹の斬閃が煌めきとなって流れ、襲い掛かってきた岩コウモリを固い頭部ごと真っ二つに縦割りにした。
「お見事ですニャ! この、このっ!」
俺に賞賛の言葉を浴びせつつ、他の岩コウモリたちと戦っているケットシー達。噛みつかれないようにと、それぞれ一生懸命に、武器を振って岩コウモリを遠ざけている。
その様子は、コミカルではあるが、双方、必死に戦っていた。
俺は、膠着していたケットシー達と複数の岩コウモリの戦いに、横合いから割り込んで武器をふるう。
ケットシー達に気を取られていた岩コウモリたちは、バラバラになって地面に落下した。
小声で歓声を上げると、ケットシー達は落とした岩コウモリに群がり、解体を始める。岩コウモリは、頭部の固い部分、牙や爪、羽の部分などが素材として使える。
あと、岩コウモリの肉も、食用として使えるらしいのでアイテムボックスに放り込んでおく。
ダンジョンに長期にこもるときは、生息するモンスターも、いざとなったら食料にするらしい。
幸いというか、俺が使えるアイテムボックスは、今のところ容量に限界が来たことはない。今回も、試しにひと月分の食材を入れたが、容量的にはまだまだ入りそうだ。
コウモリとか、ヘビの肉を食べることは回避できるかな? と、襲い掛かってきたヘビ型のモンスターを3枚におろしつつ、俺はそんなことを考える。
岩コウモリや、大ヘビのほかにも、先行する俺達の前には、モンスターがうろついており、それを駆除しつつ、先に進む。
順調かと思っていた矢先、後方から一匹のケットシーが、こちらに向かって走ってきた。
「一大事ですニャ! 後方から、オークの群れが接近してきましたニャ! デネヴァ様達は、既に迎撃している最中ですニャ!」
走ってきたのは、こげ茶色のケットシー。ヨシオである。
戦闘要員としては、いまいちなヨシオは、先行する俺たちと、後に続くデネヴァ達の伝令役となっていた。
ケットシーのリーダー、ゲンノスケの命令で、俺たちに危機を知らせてきたのである。
「よし、戻るぞ」
「「「了解しましたニャ!」」」
俺の言葉に、元気よく返事をするケットシー達。俺もケットシー達も夜目が効くので、真っ暗な道を苦も無く駆け戻った。
「あああ~……おいてかないでほしいニャ~!」
危機を知らせに来たヨシオは疲れていたので、俺たちについてこれずにヨテヨテと小走りで、ついてくるようであった。
「ぶひぃぃ!」
「はぁっ!」
豚のような鳴き声と、うち交わされる武器。オークの群れに襲われたと聞いて、駆け付ける俺たちが見たのは、複数のオークを相手取り、一人で食い止めているジャネットの姿であった。
明かりが少なく、暗かった通路は、天井に煌々とした光があり、戦う様子を照らしている。
光る物体は、ウルディアーナの呼び出した、ウィル・オー・ウィスプであり、戦闘中のみ、戦いやすくするために呼び出すことになっていた。
たいまつを投げ捨てたジャネットは、左腕には装着した盾で、右手には小回りの利くショートランスで、オークたちを相手取っている。
オークたちは棍棒をふるい、あるいはその腕力でジャネットに攻撃を仕掛けるが、こん棒は盾で防ぎ、あるいは胴体にあたっても、彼女はさしてダメージを感じさせない動きで戦闘を続ける。
腕力で組み伏せようとしたオークの顔面を、盾で殴りつけてひるませては弾き飛ばしたりと、八面六臂の活躍をしていた。
いままで、耐久力の高い、力任せのモンスターたちの相手は、いかにその圧力をしのぐかが、俺たちパーティの問題点であったが、ジャネットはきっちりと、オークたちの猛攻を真正面から受け止めてくれていた。
おかげで、デネヴァやウルディアーナは安心して後方からの攻撃に徹しており、また、ゲンノスケ達、後衛のケットシー達もオーク達がジャネットに躍起となっているため、横合いからの奇襲めいた攻撃ができるようになっていた。
「みんな、無事か!」
「ペンタ、戻ってきてくれたのね!」
「お帰り。ジャネットのおかげで今回は楽だったわよ」
そうして、オーク達相手に優位に戦いを進めているところに、俺達、先行組が救援にかけつける。
すでに複数のオークが、デネヴァの魔法やウルディアーナの放つ矢、あるいはケットシー達の攻撃により倒されているようだ。
駆け付けた俺に、ウルディアーナは嬉しそうに笑い、デネヴァは手に持った杖を戦い続けるジャネットの方に向けて口を開く。
切り結ぶジャネットとオーク達に向かった俺は、虎徹をふるい、オーク2匹の首をはねた。
それを見て、形勢不利を思ったのだろう。残ったオークの数匹が、背を向けて逃げ出したのである。
後方に不安要素があるのは良くないと判断し、逃げ出したオーク達を追って、俺と先行組のケットシー達は追撃を行うことにした。
「よくやった、ジャネット! あとは任せろ!」
「あ……は、はい」
驚いたように返事をするジャネットと、デネヴァ達を置いて、俺たちは逃げたオークを追撃する。
ほどなく、残りのオークをせん滅し、俺たちはデネヴァ達のもとに戻った。
「「「ジャネット様、すごいですニャ!」」」
戻ってみると、ケットシー達に褒めたたえられ、ジャネットは困惑したように立ち尽くしている。
フルフェイスの兜をかぶり、仮面をつけた彼女は、困惑した様子で、戻ってきた俺に目を向けた。
ともすれば、救いを求めているかのような視線だったが、俺はスルーし、
「それじゃあ、俺たちはまた、先を調べに行くから」
と、先行組のケットシー達と一緒に、ダンジョンの先の暗がりへと、歩くのであった。




