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序章:ペンタの冒険者時代43

序章-72 物語の舞台、都市・ロバルティア


王都から出発して数週間。馬車での旅は順調といえるものであったが、それでもモンスターや盗賊などとの小競り合いなど、トラブルは両手の指の数よりは多く遭遇し、それらを解決しつつ、俺たちは馬車での旅をつづけた。

そうして、いよいよ目的地である、ロバルティアの近くまで到達していた。ロバルティアまで目と鼻の距離となると、多くの馬車も行き交い、これならばモンスターなどの襲撃もないだろうと、俺たちは気を抜く。

同じように、ロバルティアに向かう馬車の列に紛れ、進むうちに目的地である都市の外壁が見えてきた。



「見えてきたな。あれが都市・ロバルティアか……」


『魔神の迷宮と乙女たち』の物語の舞台であり、魔神を討伐する4人の少女が通う、王立聖ロバルテ女学園がある。

ロバルティア近隣には魔神のダンジョンのほかにも、森林や鉱山、馬車で行ける大きな湖などがあり、そこから採れる素材や、住み着いている生き物などが取引され、王都ほどではないが、ほどほどに活気に満ちた都市となっている。


ロバルティアの外壁には、身分証明のための兵士が待機しており、チェックをして、都市内にはいることとなった。


「ようこそ、ロバルティアへ。どうぞお入りください」


当然といえば当然だが、検問では王都ほどの厳しいチェックは行われておらず、担当する兵士もどこかのんびりした様子で任務にあたっている。

門でのチェックを抜けた俺たちは、都市内へ馬車を乗り入れた。

街の通りには活気が満ちており、近くにある町や村からも、商売のために訪れるものも多いらしい。


「それで……まずは、どこにいくんだっけ?」


ロバルティアの街並みに興味を示してか、御者席に座り、デネヴァがあたりを興味深げに見渡しながら、俺にそう聞いてくる。

俺は、その言葉に、アイテムボックスから1枚の紙を引っ張り出すと、デネヴァに手渡した。


「まずは、公爵家の御用商人である、エビースって商人が経営する店に行く。それで、ロバルティアにある、公爵家が購入した屋敷に向かって、そこで一休みだな」


マリー嬢たちが学園に通う際、寮に入らずに、その屋敷から通うことになるので、俺たちが先行して、住み心地を確かめ、不備がないか調べることになっている。

当然ながら、屋敷には鍵がかかっているわけで、その鍵を受け取るために、俺たちはまず、エビース商会に向かうことになるのであった。


「そういうわけだから、道案内よろしく。物を見ながらの馬車の操縦は危ないからな」

「了解。ひとまず、このまままっすぐね」


デネヴァのナビゲーションにより、馬車は迷わずに進み、エビース商会に到着する。受付嬢に、身分と来訪した件の内容を告げると、早々に商会内にある、豪華な部屋に通された。そこには、えびす顔の中年の男性がおり、要件を話して、屋敷のカギをもらおうとしたのだが……




「ほんとうに、申し訳ございませんっ!!」

「ええ………」


エビース商会の会長である、エビース・シブレアムさんが、目の前で土下座している。にこにことした笑顔の、感じの良い中年の証人といった風貌の男性であったが、俺が話を終えるなり、全力での土下座をしたのである。

同席していた、ウルディアーナは驚いた顔で、デネヴァは、特に驚かずにその光景を見ていたりする。


「あのー、いきなり謝られても、何が何やら……」

「は、そ、そうでしたな……実はですね」


とりあえず、土下座を止めてもらって話を聞いてみると……



1年ほど前から、ラザウェル公爵の命令を受けて、エビースさんは、学園に近く、広い物件を探し回っていたそうだ。マリー嬢が住むにふさわしい物件を見繕えとの命令に、彼も懸命に良い物件がないか、さがしまわったそうだ。

そうして、いくつか候補を上げている中で、それ以上に良い物件の話が転がり込んできたとか。


なんでも、その年に卒業する、ある貴族の一家が所有している物件が、格安で売り込まれてきたのだ。

実際にその物件に行ってみると、学園から徒歩で5分ほど、庭付きの豪邸で、中を見て回っても、品の良い感じの内装で、これならば満足できると、契約書にサインして、とある貴族から購入したらしい。


だが、実際に業者を中に入れて、清掃作業をさせたり、修繕を行っているうちに問題が。


なんと、そこの貴族の子女---学園の卒業生---が、大層な問題児だったらしく、侍らうメイドたちをいびってはいじめ、時には追い出すように退職させたり、自殺に追い込んだりしたそうだ。


で、よほど恨んでいたのか、卒業間近になって、自殺した少女の幽霊が出てきた。当初は大した力も持っておらず、姿を目撃するだけであったが、次第に物が壊れたり、貴族一家の首を絞めるようになったりしたそうだ。

こんな危険な物件、持っていられるか! と、早々に手放したい貴族が、ちょうど物件を探していたエビースさんに目をつけ、幽霊のことは内緒で売り飛ばしたとのことだ。



そうして、貴族一家は早々に逃げ出す。メイドの幽霊はと言えば、付け狙っていた貴族の令嬢たちがいなくなったことで、満足すると思ったら、余計に恨みがたまったらしく、凶悪な幽霊として屋敷にとどまっているとか。


「そんなわけでして……あの屋敷には、到底、人は住めません。他に良い物件を探していますが、あの屋敷を購入したことで、大丈夫と思い、一時手を引いてしまい、また探している最中でして……」


太ったえびす顔のおじさんが、あぶら汗を流しながら、そう口にする。彼としても、その貴族に一杯食わされた被害者と言えなくもないが、物件を探せと命じられた相手は公爵家であり、処罰はないかと恐々とおびえているようだ。


「なるほど、つまり、屋敷に住んでいる幽霊がいるので困っているわけですね」

「は、そ、そうです」

「じゃあ、俺たちがその幽霊を退治すれば、問題はなくなりますね。その屋敷に案内してくれませんか?」

「は、あ、あなたたちが、ですか……?」


俺とデネヴァ、ウルディアーナと見て、エビースさんは戸惑うように首をかしげる。どうやら、俺たちがその幽霊を退治できるのか、疑問に思っているのだろう。

まあ、見た目は青年と子供とエルフだからな。迫力がないのは仕方ないが、幽霊を退治して、結果を見せれば問題ないだろう。


エビースさんとともに、俺たちは商会を出て、問題の物件の幽霊屋敷に向かうのであった。


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