序章:ペンタの冒険者時代42
序章-71 4人の少女たちの日常(リディア視点)
それからは、子爵家にベルちゃんとマリーさんが来て、一緒に鍛錬やマナーの講習を受けたり、着飾って公爵邸にお邪魔して、お茶の時間を過ごしたりと、ボクたちは4人で行動することが多くなりました。
とはいえ、全てが一緒というわけでもなく、鍛錬では、ボクとセレスちゃんはランニングや柔軟体操のほかには、武器を持って打ち合ったり、ベルちゃんは、ランニングや柔軟体操のあとは、自作の弓で、的をめがけて矢を撃っています。
マリーさんは、ランニングや柔軟には付き合うけど、もっぱら鍛えているのは魔法の方で、防御や回復の魔法などを主体に鍛錬を続けています。
戦い方の役割は、子爵様が言うには、適材適所で、ボクとセレスちゃんが前で戦い、後衛にベルちゃんとマリーさんというフォーメーションが良いとか。
そんなわけで、それぞれの特技を生かすために、日々、訓練を続けています。
そのうち、子爵様率いる護衛が見守る中で、モンスターと戦い、戦闘に慣れることもする予定です。
いずれは、魔物と戦わなきゃいけないんだけど、気後れしないように戦えるか、ちょっとだけ不安だったりします。
そんな訓練の日々の合間、気晴らしもかねて、時々は街に遊びに出ることもありました。
もっとも、マリーさんやセレスちゃんの身分もあって、護衛付きのお出かけとなったわけですが。
市場をあちこち見て、買い食いをしたり、アクセサリーや洋服を見て回ったりと、4人(+たくさんの護衛)でワイワイと楽しく過ごしました。
その後、歩き回って、一休みということで、ボクたちは最寄りのカフェに立ち寄ると、お茶を片手に皆で談笑することになりました。
「ええ!? じゃあみんな、ペンタ先生からプレゼントをもらったことがあるの!?」
「うむ、まぁな……」
そこで話題になったのは、ペンタ先生がいたころのこと。なんと、セレスちゃんたちみんなと、ペンタ先生で街に遊びに来たことがあるとか。
さらに、ペンタ先生からは、みんなにそれぞれ、プレゼントがあったとか。
「いいなー。うやらましい……」
「でしたら、今度会うときに、ペン様に街に連れてってもらうように、頼んでみたらよいのではないですか? 私も、口添えいたしますわ」
ボクがしょげていたら、マリーさんからそんな提案が。
ボクたちの今後の予定は、折を見て王都に行き、王都を経由して、都市・ロバルティアに居を移していき、ロバルティアの王立学園に通うというもの。
ペンタ先生は、都市・ロバルティアにて活動するので、そこで会うことが出来るとのことです。
まあ、実際に都市・ロバルティアにいくのは、1年ほど先になるらしいけど、その時が楽しみになりました。
「よろしいのですか、マリー様」
「ええ。リディアさんだけ、プレゼントをもらっていないのも可哀そうですし、それに……」
「それに?」
「リディアさんをだしに……もとい、きっかけに、私たちもペン様とお出かけできるではないですか」
にっこりと、マリーさんがそんなことを言ってるのが聞こえるけど、気にしない気にしない……WinWinな話だからね!
とまあ、おおらかでちょっと腹黒い? 公爵令嬢のマリーさんですが、そんな彼女が怒った案件が……
「ベルディアーナさん? これは、どういうことなんでしょうかね?」
「わ、私は分かりませんよぉ! ウル姉さまとペンタ兄さまのことでしょうけど……」
ことの発端は、王都からのニュースで、なんでも、王都で二人の男爵家の男性が、一人のエルフの女性をかけて戦い、見事に勝ったほうが、エルフの女性のハートを射止めたとかなんとか。
で、その勝った男性の名前がカーペンタ・パウロニア……ペンタ先生だったりします。先生、なにしてるの!?
「これは、見過ごせない情報ですわ。今から王都に早馬を出して、向こうでの情報を集めないと……場合によっては、ロバルティア行きを早めなければいけませんね……」
などと、ぶつぶつと、微笑みを浮かべながら、目が笑っていないマリーさん。
あからさまに、不機嫌なオーラがでていて、ボクは微妙に距離をとることに。不幸だったのは、ベルちゃん。なんでも、件のエルフは、ペンタ先生と一緒に旅に出たベルちゃんのお姉さんらしく、事の次第がはっきりするまで、マリーさんから逃げることもできず、フルフルと震えていました。
それから、しばらくして……
改めて、王都からの詳しい情報が来たのは1週間ほど後のことでした。なんでも、決闘騒ぎは、ベルちゃんのお姉さんを見初めた、貴族の男性ともめたことで、解決のためにペンタ先生が戦ったわけで、それによって、ペンタ先生と、ベルちゃんのお姉さんが恋仲になったとか、そういうことはないそうです。
その情報を聞いて、不機嫌オーラがあふれていたマリーさんの機嫌も改善。
「そういうことでしたか。ベルディアーナさん、怖がらせてしまって、ごめんなさいね」
「ひゃっ、い、いいええぇ……」
いつもの、微笑み顔に戻ったマリーさんに、ベルちゃんはブンブンと首をふるって返事をしたのでありました。
それからも、ボクたちは訓練したり、お茶したり、お出かけしたり、モンスターとバトルしたりと、充実した毎日を送るのでした。
ボクたちの日常は、王立学園に通うため、都市・ロバルティアに向けて出立するその日まで、当面の間、繰り返されることになったのです。




