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序章:ペンタの冒険者時代38

序章-67 決闘騒ぎと賭け事と


王都から出立しようとした矢先、変な自称”栄光の騎士”、グレート・ティーポール男爵令息に絡まれた俺達。

エルフのウルディアーナを見初めて、バラの花束を手にアプローチしてきたものの、ウルディアーナには袖にされ、俺に敵意をもって、決闘宣言をして今に至る。


決闘騒ぎは、面白そうな野次馬の中から、取り仕切りたいという男が出てきて、王都の城下町にいくつかある、広場の一つに移動することになった。

決闘が始まると聞きつけて、各所から多くのやじ馬が集まってきていた。


「さあさあ、男爵家同士の決闘だ! 美しき、エルフの娘をかけての、二人の男の一騎打ちだ! 片方は、栄光の騎士、グレート! もう片方は、魔神の迷宮を目指す冒険者カーペンタ! どちらも男爵家の男子! 賭けは今のところ、騎士が2、冒険者が5の配当だ!」

「王都名物、モル豚焼きはいらんかね~」

「俺は騎士にかけるぞ!」「俺もだ!」「ここは大穴で、冒険者の兄ちゃんかなぁ」「騎士に一口!」「……ペンタに全額」


広場には、仮設の決闘場が作られ、かけ事に興じるものや、集まった観客相手に商売する者、ただ騒ぎたいものなどで、わいのわいのと騒がしい。


「ペンタ、頑張ってねー」


エルフのウルディアーナはというと、目立つ台座の上に椅子が置かれ、そこに景品よろしく座っている。自分が景品となっていることも、楽しそうにしていて、こちらに手を振っていたりした。

決闘騒ぎの熱気の中心、リングの上で、俺はグレートという騎士の青年と対峙をしている。

彼は、腰に履いた剣を抜き放つと、天高く掲げて声高に宣言した。


「私は、この戦いに勝って、エルフの君の心をつかみ取って見せよう!」


おおー! と芝居がかった青年の言葉に、観客は沸くが、当のウルディアーナは、特に反応はない。

言わせてばかりというのもなんなので、俺も剣を抜き放つと、騎士グレートに切っ先を向けて口を開いた。


「彼女は大事な仲間だし、渡すわけにはいかないな!」

「ならば、私に勝っててみせるのだな!」


と、強者ムーブをする騎士グレート。ゴング代わりか、フライパンをハンマーでたたく音がし、相手が踏み込んでくる!


「はああっ!」

「!」


思ったよりも、鋭い斬撃が、俺に迫ってくる。とっさに剣で受け止めるが、勢いに押されてたたらを踏んだ。

後ろに下がる俺に対して、グレートの剣閃がきらめき、襲い掛かってくるのを、防ぎ、しのぎ、避ける。

相手のラッシュをしのぎ切ると、俺と騎士グレートは、少し間合いを離して息を整えた。


「驚いたな……まさか、色物だと思ったのに、普通に強いだなんてな!」

「ふっ、知っているかな? 白鳥は、優雅に見えて水の中では必死に足を漕いでいることを。優美な私もそれに習い、日々の鍛錬は欠かしていないのだよ!」

「そうか。侮って悪かったな。こんどは、こちらから行くぞっ!」

「ぬおっ!」


宣言し、今度は俺から攻撃を仕掛ける。騎士グレートは、確かに並の騎士よりは強かったが、こちとら、論外レベルの強さの騎士団長のおっさんに、散々絞られた経験がある。

形勢逆転とばかりに、今度は俺からの攻撃に、観客たちからは、悲鳴や怒号も聞こえるようになった。

騎士グレートにかけた人たちの声だろうが、あいにく、ウルディアーナの身がかかっているので、こちらも手加減をする気はない。

十合ほどの刃の激突ののち、俺の一撃が、騎士グレートを弾き飛ばす!!


「ぐぅぁぁーーーー!!」


と、某ボクシングの漫画や、小宇宙戦士のやられやくのような吹っ飛び方をし、倒れこむ騎士グレート。


「ふっ、なかなかやるな……」


だが、根性はあるのか、フラフラしながらも、立ち上がってくる。これは、長引きそうだな……



その予想にたがわず、負傷しながらも果敢に反撃をしてくるグレートに手こずりながら、再び一撃を決め、


「ぬぅぁぁーーーー!!」


と、派手に吹き飛びながらも、再び立ち上がること数回。その間に、鋭い一撃をもらいそうになることもあり、決して油断ならない、戦いを繰り広げた結果……



「ふふふ……素晴らしい。今回は、私の負けのようだな……ぐふっ」


と、騎士グレートがようやく地に伏せることとなったのであった。




「ペンタ! かっこよかったわよ!」


と、決着がつくや否や、俺に向かって駆けよってきて、抱き着いてくるウルディアーナ。カンカンカン!と、ゴングが鳴り、勝負は俺の勝利となった。


「よくやったなあんちゃん!」「おかげで大儲けだぜ、ありがとよ!」


と、少数だが、俺に賭けていた人々からも祝福の言葉をもらう。

反面、負けた騎士グレートは、賭けに負けた人々に取り囲まれていた。


「何が栄光の騎士だ!」「かけて損したわ!」「損した分を払え! ひん剥いちまえ!」

「ぬおおっ!? 何をするか君たち、やめないか! あっー!」


幸い、こちらに文句を言ってくる人もいなかったので、俺たちはさっさと、その場を退散することにした。



それから、手早く準備を整えると、俺たちは早々に王都から旅立った。


「決闘騒ぎって、楽しいものだったわね」


御者席に座る俺の隣には、今回商品になった、ウルディアーナが座って、ニコニコと楽しそうにしている。


「勝てば楽しいだろうけど、負けたら悲惨なんだから、もう俺はごめんだよ」

「それもそうか……じゃあ、今回限りにしましょう。ところで、私は勝ったペンタのものになったことになるけど、何かしてほしいこととかない?」


そういって、身を寄せてくるウルディアーナ。からかうような表情の彼女に、俺はため息一つすると、


「じゃあ、今度、疲れた時にでも膝枕でもしてくれ」

「膝枕ね。わかったわ。それにしても、デネヴァが静かだけど、どうしたのかしら」


と、馬車の中に目を向ける、ウルディアーナ。彼女の問いに、俺は肩をすくめて答える。


「今回、こっそり俺に賭けてたから、大儲けして欲しかった本を買ったんだよ。すっかり夢中で読みふけっているみたいだな」


決闘騒ぎの時、デネヴァは手持ちを俺に全プッシュし、見事に大儲けしたようだ。

その報酬で、色々と欲しかったものを買い集め、ご機嫌なようであった。


「ペンタのおかげで儲かったわ。あとでサービスするわね」


と、そんな言葉をいただいているが、どんなサービスなのやら。



ともあれ、ひと騒動を終えて、俺たちは馬車を進める。王都から出て都市・ロバルティアにつくまでは、もう少し旅をすることになるのであった。

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