序章:ペンタの冒険者時代35
序章-64 ギルドに向かって、その前後
王都の市街地に向けて歩を進める。人通りが少ない、閑散な貴族街から、人の多い市街地に入ると、人の密集度は大きく増加する。
石畳の道には、市民や冒険者、人間やドワーフ、リザードマンや獣人など、雑多な人々が行き交い、道端にて逞しく商売する行商人の姿も見かけられる。
王都近隣の河川でとれた、川魚を串にさして焼いている屋台に目をむけ、ケットシーのサスケがよだれをたらしていたので、1本買ってサスケに与える。
他のケットシーたちにもと、多くの串焼き魚を購入すると、それをまとめてアイテムボックスに入れた。
手品のように、手の中から消えた串焼き魚を見て、屋台の店主が驚いたように瞬きをしていたが、特にリアクションをせずに歩きだす。
冒険者ギルドは、市街地の中に目立つように立っており、多くの冒険者が出入りしているようだ。
これなら、求める人材---前線で戦いを維持できる戦士---も見つかるか……そう思ってギルド内に入ったのだが……
「申し訳ありませんが、ご期待にそえる人材は用意できないかと……」
「そうなのか?」
冒険者ギルドの受付カウンター。王都の立派なギルドということもあり、都市・タルカンの冒険者ギルドよりも内装も立派である。
こぎれいなギルド内にて、受付嬢から聞いた答えに、俺は首を傾げた。
「王都の場合、冒険者は駆け出しで、王都の内外で活動する方たちと、成長して、貴族様のお抱えになる方に大体は2分されることになるんです」
駆け出しレベルの冒険者なら、魔神の迷宮のある都市・ロバルティアまで同行すると思うが、即戦力にはならない。
逆に、ある程度以上腕利きとなると、貴族が囲い込んでしまうのだとか。
「そういうわけですので、あとは、成長途中の人材と交渉するくらいですかね。たとえば……あ」
「エルザちゃ~ん、依頼終わったよ! おや、そこの彼は?」
俺が受付嬢と話していると、冒険者の一団が、こちらに歩み寄ってきた。それぞれが、立派に見える装備を身に着けている一団だが……
「こちらは、カーペンタ様です。カーペンタ様、彼らは、最近ギルドでも評判の上がっている、”風の翼”という冒険者の一団です」
そういうと、エルザと呼ばれた受付嬢は、風の翼のリーダーらしき男に向けて、俺を紹介した。
「カーペンタ様は、魔神の迷宮を攻略するために、ロバルティアに向かい、一緒に迷宮攻略をする人材を探しているそうです。風の翼の方々は、どうでしょうか?」
「ロバルティア? ないない、そんな田舎までいくつもりはないよー。俺たちは王都で、貴族様にスカウトされて、のし上がるのが目的さ!」
そういうと、俺の姿を上から下まで眺め、ふっ、と小馬鹿にするように鼻で笑う。
「そんなしょぼくれた男に付き合うわけないよ! しょぼい男は、そこの猫と一緒に寂しく迷宮探索するといいさ!」
「……そうか、失礼したな」
リーダーの言葉に、一緒にいたメンバーも笑い声をあげる。……この態度じゃ、勧誘候補としては選外だな。
怒りの声を挙げそうなサスケを抱きかかえると、俺は受付嬢に一礼し、その場を去る。
受付嬢は、顔を真っ青にして慌てた様子であったが、構わずギルドの外に出た。
「良いんですかニャ!? あんなふうに言わせて……!」
「いいって。見かけは立派だけど、正直、あの装備は見掛け倒しだし、そんな奴らに何を言われてもなぁ」
もともと、使えそうな人材を探してきただけであり、からまれた並程度の冒険者と事を構える気はなかった。
最初に受付嬢と会話するとき、俺が貴族の男爵位であることを、エルザという受付嬢は確認している。
貴族に無礼を働いたということで、さっきの一団は、受付嬢に説教され、ギルドでの評価を落とすだろう。
サスケにそう説明して、俺は先ほどの出来事をさっさと忘れることにする。
気を取り直して、宿で待つデネヴァやウルディアーナに土産となるものはないか、王都の店を回って、探すことにした。
武器や防具、様々な道具を扱うデパートのような大型店や、個人で店を出している場所などを見て回り、目ぼしいものを見つけたら購入する。
女性メンバーのお土産として、フルーツを使った旬の焼き菓子があったので、大量に購入した。
アイテムボックスに入れておけば、腐ることもないし、多く所持しておけば、何かの時に役に立つだろう。
「あ、ペンタ。おかえりー」
「ただいまー」
「ただいま戻りましたニャ!」
宿泊している宿に近寄ると、窓辺にいたウルディアーナが、俺たちに気づいて手を振る。
王都の景色が気に入ってか、ずっと窓辺で景色を眺めていたようだ。
宿に入り、割り当てられた部屋に向かう。部屋のドアをノックして開けると、
ベッドの上では、デネヴァがくつろいだ様子で本を読み、ウルディアーナも、窓辺から離れ、部屋にある椅子に座っていた。
「おかえり。どうだった? なにか珍しい出来事でもあった?」
「まあ、色々とね」
そういうと、俺は公爵邸での出来事、街並みの混み具合、ギルドでの事は割愛し、帰りにお土産として、お菓子を買ってきたことをざっと話した。
「なるほどね。それで、王都でやることは終わったのかしら」
「ああ。俺の用事は一通り終わったけど、二人はどうするんだ? 王都でやりたいことがあるなら付き合うけど」
「私は、特にないわね」
と、デネヴァは即答する。ウルディアーナに視線を向けると、彼女は肩をすくめた。
「私も特にないわ。というか、窓から景色を見ていたら、私の姿が珍しいのか。驚いた人と良く目があったの。王都を出歩いたら、もっとじろじろ見られると思うとね……」
「そういえば、色んな種族の姿を往来で見たけど、エルフの姿は見なかったな……割と、エルフって珍しがられるのかもな」
ともあれ、二人とも、王都に滞在する理由もなさそうだし、ケットシーたちも右に倣えのようである。
そんなわけで、あとは明日の朝まで宿でゆっくりし、明日には王都から、都市・ロバルティアにむけて出立することに決めたのだった。
「さて、そういうことに決まったし、あとは夕飯とお風呂だな。この宿には、風呂があるって聞いてるし、楽しみだな」
「ああ、それならさっき、家族風呂を予約しておいたわ。もう少ししたら、入れるはずよ」
と、デネヴァが風呂の予約をしてあると言い、俺たちは女将が呼びに来るまで短い時間を過ごした。
女将に連れられてきた場所は、宿にある浴場の一つ。ここは、男湯と女湯とは別に用意された、家族で入れる風呂とのことだ。
まあ、パーティも家族のようなものだな……と思った俺であるが……
「………混浴?」
「いってなかったっけ?」
「聞いてないぞ!」
キョトンとした、デネヴァに俺は言い返す。家族風呂は、脱衣所と浴場のあるシンプルなものであり、男女混浴であるとのことだった……。




