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序章:ペンタの冒険者時代34

序章-63 王都の公爵家別邸にて


王都で滞在する宿からでた俺とケットシーのサスケは、王城近辺にある、貴族の館が集まる区画に足を向ける。

先だって、都市・タルカンを出立する前に、王都の公爵邸のある場所を明記した地図をもらっており、迷うことはなさそうである。


「えーと、こちらですかニャ」


ケットシーのサスケの先導で、道を進む。サスケは地図を見たり、時には屋根にひょいっと飛び乗ったりして、現在位置を確認しながら、公爵邸までの道のりを確認している。

俺は、そのあとをのんびり進む。貴族の館の区画は、通行人はまばらであり、皆、身なりの良いものが多く、俺とサスケをみて、何とも言えない表情をする人もいた。


もう少し、身なりを整えてから来た方が良かったかな? と、そんなことを考えつつ、先を進んでいく。


「もう少しで、目的地ですニャー」

「サスケナビは優秀だな。あとでご褒美に魚をあげよう」

「ありがたいですニャ!」


目的地まであと少し、既に、公爵邸の壁沿いを歩いており、次の交差点を曲がった先に、出入り口の門があるようだ。

そうして、角を曲がって門のところに行くと、何やら、公爵邸の門前に馬車が止まっており、言い争いをしているようである。


「ですので、公爵様はじめ、ご一家の皆さまは、この屋敷にはおられません。どうぞお引き取りください」

「使用人風情が! デンバー侯爵令息、デロリ様のご来訪にあらせられるぞ! いずれは、そちらのマリー嬢との婚約で、そちらの主となる予定の若様を追い返すというのか!?」

「はて、公爵閣下からは、そのような通達は受けておりません。”自称”婚約者の来訪は、珍しいことではございませんからな」


何やら、複数人の護衛の騎士をつけた馬車が、公爵邸に押し入ろうとして、執事らしい初老の人物と押し問答をしているようだ。


「公爵邸を守る我らは、公爵様ご一家の認めた方以外は、邸内に入れぬように言明されておりますので、お引き取りを」

「若様が、ふさわしくないとでもいうのか!?」

「主の留守の場に、許可もなく押し入ろうとする時点で、語るべきもないでしょう。」

「きさま! デンバー侯爵家を侮辱するのか!?」


そんな感じで、馬上の騎士と、執事の老人は押し問答をしている。どうにも、長引きそうな雰囲気であった。


「なんだか、もめてますニャ」

「そうだな。ひとまず、出直した方がいいかな?」


そんな風に、言い争いの場から視線を外し、サスケと顔を見合わせたのだが、



「カーペンタ・パウロニア男爵様でいらっしゃいますな」

「!?」


間近で声が聞こえ、顔を向けると、先ほどまで少し離れた位置にいた、初老の執事が、いつの間にか俺たちのそばまで来ていた。

瞬間移動? といえるくらいの早業に、先ほど、言い争いをしていた騎士が、執事の先程までの位置と、現在位置を見比べて、驚いた顔をしているのが見えた。


「ええと、そうですけど」

「やはり、そうでございましたか。私、公爵邸の管理を任されております、執事のカルロスと申します。どうぞお見知りおきを。ささ、どうぞ屋敷にお入りください」


と、深々と一礼する執事のカルロスさん。

その様子に、黙っていられなかったのは、デンバーという侯爵家の一行である。


「おい! そいつは男爵だと!? 男爵風情を館に招き入れて、我々、侯爵家は断るというのか!?」

「さようでございます。こちらの方は、公爵様、また、ご息女マリー様より、きちんと歓待せよと伝えられておりますので。あなた方も、歓待を受けたいのならば、手続きを踏んでいただきませんと」

「うるさい! そんな奴より、我々を優先しろ!」

「はぁ……仕方ありませんな」


喚き散らす、騎士に執事はため息ひとつ。次の瞬間、


「”お帰りくださいませ”」

「っ!?」


すさまじい威圧が、目の前に執事から放たれた。とっさに、気押されないようにする俺。威圧は侯爵一行の馬に伝播したのか、馬たちが狂乱し、走り出したのである。


「うお、な、なんだぁぁぁ! とまれええええ!!」


パニックになった馬たちが走り出し、侯爵一行は、彼方へと走り去っていった。


「………さて、静かになりましたし、どうぞお入りくださいませ」

「あ、はい。あのー、よかったんですか、あれで」

「ああ、お気になさらず。このような対応は、公爵様からのご命令でもありますので。あとで何か、他の家が申してきても、公爵様直々に反撃し、あとくされもないようにする事となっております。それにしても……」


執事のカルロスさんは、俺を見てにっこりと笑みを浮かべた。


「なかなかに、豪胆な方であらせられますな。さすがは、公爵様達がお気に召される方です」

「うにゃー、びりびりが止まらないニャ……」


俺の横では、気当りをうけ、サスケが参ったように丸まってしまっていたのだった。




「……なるほど。かしこまりました。手紙は責任をもってお送りいたします」


公爵邸に案内され、応接間に通された俺は、屋敷に仕えるメイドのいれた紅茶をいただきつつ、公爵様宛の手紙を、執事のカルロスさんに手渡した。


「それにしても、よく俺が分かりましたね」

「男爵様は、特徴的な髪形をしておりますからな。それに、お供にケットシーがいると、マリー様からの手紙にも書かれておりましたので」

「マリー嬢の手紙ですか」

「はい。つい先日、早馬にて届けられました。お世話になったパウロニア男爵との思い出もつらつらと書かれた、読み応えのある手紙でございましたとも」


カルロスさんは、ニコニコとそんなことを言う。そうしてみると、好々爺の執事長にしか見えないが、立ち振る舞いに隙は無いし、さっきの威圧といい、かなりの腕前をもっているのは分かった。


「マリー様は、小さいころから、じいやと呼んでいただいて、私も畏れながら孫娘のように可愛がっていたのです。ですので、マリー様がお認めになった、あなた様と会うことを楽しみにしておりました」

「は、はあ」

「マリー様はですね、小さい頃はやんちゃで、当時は泣きむしでありました、ギルフォード家のご令嬢と、冒険ごっこなどをして遊んでいらっしゃいました」

「ギルフォード家……セレスティア嬢ですか?」

「ええ、そうですとも。今では騎士団長に似て、立派な女傑になるべく鍛錬していると聞いておりますが、時が流れるのは、早うございますな」


そんな感じで、お茶を飲みつつ、カルロスさんとひとしきり談笑した。カルロスさんの話では、小さなマリー嬢や、セレスティアとの思い出話が多くあり、しばらくの間、楽しく話をしたのであった。



「それでは、またお越しくださいませ」


公爵邸にて時を過ごしたあと、他にも用事があるので、俺は公爵邸を辞して立ち去ることにした。

どうせなら、公爵邸に泊っていったらどうかと聞かれたが、豪華すぎる部屋にしりごみしそうだし、既に宿をとっていることもあり、丁重にお断りすることにした。


これから俺たちは、冒険者ギルドに向かい、良い人材がいないかを探すつもりだ。

いちおう、宿に戻ったら、公爵邸に泊る申し出を受けたことを話すが、デネヴァもウルディアーナも、公爵邸に泊りたいとは言わないだろう。

執事のカルロスさんの見送りのもと、屋敷の門を抜け、街並みを歩く。

冒険者ギルドは、雑多な市街地にあり、そこまでたどり着くのに、しばらく歩くこととなったのであった。

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