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序章:ペンタの冒険者時代33

序章-62 大人たちの会話(3人称視点)


都市・タルカンにある公爵邸。その一室で、今日も政務に励んでいるラザウェル公爵は、政務の合間、ふと思いついたように、護衛の騎士団長に視線を向けて口を開いた。


「そういえば、聖剣の遣い手となる娘……リディアといったか。しばらくは子爵家にて様子を見るといっていたが、どうなっている?」


ペンタに渡された資料を基に、魔神討伐のメンバーの4人目、最後の一人となるリディア・アーストン男爵令嬢を、公爵家の名で呼び、配下の騎士団長、ギルフォード子爵の家で育成することになってから、数週間が経過していた。

公爵は実際に顔を合わせていないが、騎士団長の言によると、いたって普通の娘である、との報告は受けていた。

礼儀作法や立ち振る舞いなど、公爵令嬢である、マリーに合わせるには足りないものが多いかと、まずは色々な訓練をしつつ、その人柄を見ることも同時にしていた。


「そうですな。家に来た当初はおとなしくしておりましたが、だんだんと慣れてきて、楽しそうに生活をしております。明るく社交的でもありますし、悪い印象を持つものは少ないでしょう」

「剣の腕前や貴族の作法はどうなっている?」

「身体能力についてですが、もともとが、孤児院に預けられていたということもあり、普通の貴族の子女よりは逞しいですな。それでも、娘のセレスとはまだ差があるでしょう。ですが、厳しい訓練にも嫌な顔一つせず向き合っていますし、今後が楽しみといったところです」


そういうと、騎士団長は、苦笑いをしつつ頭をかいた。


「礼儀作法という点では……正直なところ、うちのセレスの方がよろしくないです。むしろ、孤児院育ちという割には、リディア嬢はマナーについての基礎はしっかりしていて、妻も驚いているようです」

「ふむ……それで、お前の娘とそのリディアという娘は、仲良くやれるのか? いずれは肩を並べて戦うのであれば、関係は良好でなくてはまずいのだが」

「ああ、その点は大丈夫です。最初は、セレスが突っかかっていましたが、訓練に真剣に打ち込むリディア嬢を見て、娘も認めたのか、今では仲良く話し込んでいる姿をよく見ますから」


騎士団長の言葉に、公爵は、そうか。と一つ頷く。


「となれば、茶席を設けて、娘たちを引き合わせたほうが良いか。予定を組むことにしよう」

「ええ。そうしていただければ、よろしいかと」


と、そこまで言うと、騎士団長は何とも言えない笑顔を浮かべた。


「………どうした?」

「いえ、セレスがリディア嬢と仲良くなった最初のきっかけですが、妻が礼儀作法の授業中に、リディア嬢に尋ねたようです。どうして、そんなによくマナーが学べているのか、と。それに対して、リディア嬢は『孤児院で、ペンタ先生に習いました!』と答えたそうですよ」

「………また、ペンタ殿か」

「ええ。娘もそれから、リディア嬢にそのことを詳しく聞いて、それが仲良くなる足掛かりになったようで」


ペンタという少年は、そこまで読んで行動していたのか……と、大人たちは、今も魔神のダンジョンに向けて、旅をしている少年のことを考え、感嘆とも呼べる感情をもつ。

とはいえ、孤児院で勉強を教えた中に、たまたまリディアがいて、今回のことはまったくの偶然であるが……そのあたりは、言わなければわからないことである。


「どこまで先が見えているのだろうな、彼は」

「さて、我々では見えないところまで、見据えてはいるでしょう。さすがですな!」

「……随分と嬉しそうだな」

「それは、いずれはセレスの婿にと考えておりますからな! ペンタ殿の活躍は喜ばしいことですよ」


と、そんな風に喜ぶ騎士団長とは裏腹に、公爵は渋い顔。

自身の娘、マリーがペンタという少年のことを恋煩っているとの報告は、妻や配下の者から彼の耳にも届いていた。

とはいえ、彼は責任のある公爵であり、その一人娘ともなれば、婚姻する相手にも立場やらしがらみは逃れられないのだ。


いずれ、娘を悲しませる縁談を受けねばならぬか……いやいや、まだマリーには婚姻は時期尚早である。などと考えつつ、公爵は窓の外を見て、ぽつりとつぶやいた。


「そろそろ、彼の一行は、王都くらいには辿り着いているころかな」



公爵の言葉通り、ペンタはそのころ、王都にある公爵家の別邸に、足を向けているところであった。



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