序章:ペンタの冒険者時代28
序章-55 護衛任務という名のお出かけ 2
市街地に到着した俺たちは馬車を降り、街を散策することにする。天候に恵まれたこともあり、人通りはそれなりに多い。
「マリー様、私から離れないでください!」
「あらあら、セレスは心配性ですね」
歩けば人とぶつかるとまではいかないが、人々が多く行き交う主要の道で、セレスティアは警戒するように周囲を見渡している。
そうした態度をとると、余計に目立ちそうな気もするが……行き交う人々の中には、マリー嬢の美貌に目を向ける者も多いから、
警戒した態度も、しないよりはしておいたほうが良いだろう。
「ウル姉さま、果物がありますよ!」
「そうね。あれが露店っていうものよ。通過を払って、商品を受け取るの」
物珍し気に、周囲を見渡しているのはベルディアーナとウルディアーナの姉妹。
エルフの姉妹からすると、人間の街は珍しいものが多い。
公爵邸に住み、外に出たことのないベルディアーナとは違い、俺の里帰りにつきあったり、冒険につきあったりして多少は知識のあるウルディアーナが、お姉さんとして知識を披露していたりする。
そんな少女達の微笑ましい光景を見ていると、いつの間にか買ったのか、串焼きを両手に持ったデネヴァが、横に立って俺に話しかけてきた。
「ケットシーたちからの報告。とりあえず怪しそうな人間はいないって」
「そうか。ありがとう。それにしても美味しそうだな」
「………食べる?」
片方の串焼きを受け取ってかぶりつく。香ばしい香りと、アツアツの肉が、口内に満たされて、うまい! と叫びたいところだ。
「あっ、なんだかおいしそうな食べ物ですね、ペンタ兄さま!」
「本当ね。それ、どこで手に入れてきたの?」
俺とデネヴァが、串焼きを食べている俺たちを見て、エルフの姉妹が興味を持ったようだ。
「あそこの屋台」
と、持っていた串焼きで、近くに出ていた串焼きの屋台を差すデネヴァ。
「ウル姉さま、私も食べてみたいです!」
「そうね、じゃあ、買い物をしてみましょうか」
そう言うと、屋台に近寄っていくベルディアーナとウルディアーナ。エルフは菜食だと初対面では思っていたが、普通に狩りをして獣肉も食べるとのことだ。
「ペン様、私もそれを食べてみたいので、いただけますか? 毒見もかねて、その口をつけたものを……」
「マリー様、毒見は私が致しますので! すぐに買ってきます!」
「あら……そう?」
セレスティアが、俺をにらんだ後で屋台に走っていく。やれやれ、相変わらずの献身ぶりだな。
そうして、みんなで串焼きを食べる。立った状態で食べるのは、貴族子女として体験したことはないのか、マリー嬢は楽しそうに、串焼きにかぶりついていた。
串焼きを皆が食べ終わり、ごみを片付けた後で、俺はマリー嬢の傍らにいる、セレスティアに声をかけた。
「ところで、今回の散策で目的の店とか決めているのか? 公爵様の奥方に贈り物をすることになってるらしいけど」
「ああ、それなら、もう決めている。私の行きつけの雑貨店でな。そこなら、ソフィーリア様への贈り物も用意できるだろう」
そんな事を言いつつ、連れていかれたのは、通りに面した巨大なデパートのような店である。
如何にもな高級店であるが、よくよく考えれば、セレスティアもギルフォード子爵家の令嬢である。使う店のグレードが、高くなるのは当然と言えた。
店内に入ると、先ぶれが出ていたのか、恰幅な身なりの、いかにも大商人というような風貌の男が出迎えをしてきた。
「ようこそいらっしゃいました、セレスティア様。マリー様もワッホー商会によくお越しいただきました。従業員、総力を挙げて歓迎させていただきます。ささ、お連れ様もどうぞ……」
店内に入ると、如何にもな高級品から、素朴に見えて手の込んだ物などが、そこかしこに並んでいる。
先ほどの散策では見られない物も多いことから、ベルディアーナの目がキラキラと輝いて、あれはなんだろう、これは? とウロウロしている。
ウルディアーナは微笑ましげにも、そのあとに続き、マリー嬢とセレスティアは、落ち着いた様子で店内をめぐり、公爵夫人に送る品を相談しているようだ。
俺は、そんな彼女たちの邪魔にならないように、所在無げなデネヴァとともに、店内の隅に立って護衛をしていたが……
「貴方様は、何かお買い求めになりませんかな?」
と、先ほどの出迎えた商人が声をかけてきたのである。
「いや、自分は単なる護衛なので………こういう店では、買い物する身分では」
「ほほ、謙遜をされますな。カーペンタ殿は公爵様も目を掛ける冒険者様であらせられます。こういう場所での買い物をしても、問題ない立場にあらせられますよ」
と、ニコニコと笑顔を向けてくる男。名はドルカネ・ワッホーというらしい。
「当店では、女性に喜ばれる商品も多数用意しております。せっかくなので、皆様に贈り物などをしてみてはどうでしょうか?」
喜ばれますよ? と、満面の笑みを浮かべてくる商人の言葉に、俺は少し考える。
高級品を扱うこの商会内は、外とは違い、セキュリティもしっかりしているし、ケットシーや公爵家の暗部の護衛もある。
冒険者稼業で、懐はそれなりに暖かいし、贈り物をしてみるのも良いかもと思ったのだ。
そんなわけで、俺は店内を物色し、これはと思ったものを皆にプレゼントすることにしたのであった。
デネヴァには、サファイアの指輪を。
ベルディアーナとウルディアーナには、おそろいのオパールの宝石のついた髪飾り。
セレスティアには、アクアマリンの宝石付きのイヤリング。
マリー嬢には、モルガナイトのネックレスを送ることに決めた。
それなりに金はかかったが、皆が喜んでくれたので、俺としても満足である。
「今日、出かけて本当によかったです」
そんな風に、嬉しそうに微笑むマリー嬢。そうして、護衛任務という名のお出かけは、無事に終わることができたのであった。




