序章:ペンタの冒険者時代24
序章-48 やまもおちもない帰り道
それから数日間、エルフの里にて歓待を受けたのち、ウルディアーナ、ベルディアーナを連れた俺たちは、エルフたちに見送られ、都市・タルカンに向けて馬車を出発させた。
エルフ達から、お土産としての品、ウルディアーナとベルディアーナの荷物なども、まとめてアイテムボックスに放り込んでいたので、馬車の中は多少はスペースに余力ができた。
今回の旅で、エルフの姉妹を連れ帰ることが出来たのが一番の収穫であるが、それ以外にも、エルフの里で取れる様々な特産品を、お土産として手に入れることが出来たのも、幸運あった。
特に、エルフの粉薬と呼ばれる、複数の乾燥させた葉やら、木の皮やらを混ぜた粉は、後々、王立学園に魔女がもたらす病気に対しての特効薬の材料となるので、このタイミングで手に入れられたのは、手間が減ってありがたかった。
「本当に、それがいいの? ただ、苦いだけだけど……」
などと、ウルディアーナは言っていたが、これとポーションを混ぜて数日寝かせることで、エルフの霊薬として完成するのだ。
エルフの霊薬は、魔女の病気以外にも、複数の難病にも効果があり、それで助かった人も多い。………そういえば、公爵の奥さん。マリー嬢の母親も、この薬によって病を治したはずだ。物語では、学園の2年生の時、はびこる病魔を治すための一件のあとで、母親を治すイベントがあるが……病気が治るのは早い方が良いだろうし、前倒しにしてもかまわないだろう。
そんなこんなで、今は帰り道である。2頭立ての馬車はのんびりと進み、俺はデネヴァとともに、御者席に座っていた。
馬車の中には、エルフ姉妹とケットシーたちがおり、何やら楽しそうな声が、時々聞こえてくる。
「良い天気ねー」
「ああ、そうだな」
特に、障害となるモンスターや野盗などにも会うことなく、馬車はのんびりと進む。かたわらのデネヴァを見ると、のんびりと、一つあくびをしていた。
視線を向けていると、俺が見ているのに気が付いたのか、目線でなに? と聞いてくる。
「その、すまなかったな。相談なしに、ウルディアーナをパーティに入れることになって」
「ん、ああ……別にいいよ。必要なことだっただろうし」
「でも、今までは他の冒険者からの誘いは、断ってたじゃないか。俺とケットシーだけで問題ないって」
冒険者活動も、10歳から17歳。もう7年も続けているが、それだけ続けている間に、新規のメンバーの話は何度も出ていた。だが、デネヴァはいらないと断り続けていた。
そんなわけで、エルフの長に言った時もデネヴァが何か、反論するかと思ったが、特に何も言わずに、そのままウルディアーナが加入することになったのである。
「………ウルディアーナはエルフだし、私が成長しないことにも、とやかく言いそうにないと思うから」
「あー、なるほど」
「それに、長寿の秘訣を知ろうとか、そういう下心も絶対持たないだろうからね」
出会った時から、ずっと15歳くらいの姿のデネヴァ。見た目が変わらない彼女を見て、その若さを保つ秘訣を教えろと、貴族が怒鳴り込んできたこともあった。まあ、その貴族は、公爵様に連絡して、対処済みであるが。
ともあれ、そういうトラブルとは無縁なウルディアーナなら、確かに彼女のお眼鏡にはかなったのだろう。
「デネヴァが良いなら、よかったよ。勝手に決めて、怒ってるんじゃないかと思ったからな」
「………勝手に決めたのが、不満でないとは言っていないよ。今度、買い物に付き合いなさい」
「荷物持ちとしてか……わかったよ」
そんなことを時折話しながら、馬車は進む。しばらくは無言の時間を過ごした後、デネヴァがポツリと、口を開いた。
「ペンタの知る物語には、私も出ているのよね」
「ああ。年齢不詳の魔法教師としてな。とはいえ、物語の主軸に絡まないちょい役だから、詳しいことはしらないぞ」
「………そう」
じっ、と俺の目をしばらく見て、嘘はついていないと判断したのか、目線を外すデネヴァ。
実際、なんで彼女が見た目が変わらないのかは、さっぱりわからない。とはいえ、それを聞くつもりはなかった。彼女とは長年パーティをやってきた絆のようなものもあるし、もし話すなら、彼女の方から話してくるだろうから、俺は何も聞かないと決めていたのである。
そうして、それ以降はのんびりと、馬車の旅を楽しんでいったのであった。
序章-49 聖女と聖槍使いと聖弓使い
特に問題なく、都市・タルカンに戻ってきたのは、それから数週間後のことである。短い旅路は、それから数回、モンスターに出会ったものの、野盗などには会わずに終わった。
魔物とかはさておき、野盗との戦いとなると、人間相手である。エルフの姉妹が、人間に対して良くない印象を持つ可能性もあったので、野盗に遭遇しなかったのは、幸いと言えた。
「あれが都市・タルカンだ」
「ふわぁ、凄い大きな壁がありますね、ペンタ兄さま!」
交代で御者席に座ったりする旅路。食事や就寝時の見張りなどを交代で行う中で、俺はエルフ姉妹の妹、ベルディアーナとも親しくなった。
最初のころは、俺に対してビクビクして警戒心もあらわなベルディアーナであったが、仲良くなるためにと、アイテムボックスに入れてあった手製のお菓子をあげたら、ものすごく感動して、なつかれた。
「ペンタ兄さまは、お料理の達人なんですね!」
「いや、そんなに大したものじゃないんだが」
とはいえ、おびえられるよりは、なつかれたほうが嬉しいので、その後もお菓子を与えて餌付けしつつ、ベルディアーナと仲良くなることに成功した。
今ではこうして、御者席に並んで座り、会話ができるくらいには親しくなっている。
ただ、人間になれたわけではないので、都市・タルカンの門にて、軽いチェックを受けたときには、馬車の中に入ってもらい、門番には自分はカーペンタ・パウロニア男爵であり、公爵家からの密命を受けたものであり、馬車の中は詮索不要。無理に押し通る気はないので、公爵様か、騎士団長であるギルフォード子爵へ連絡を取り、確認を頼むとつたえた。
「はっ、し、しばらくお待ちください!」
俺の言葉に、門兵である兵士の一人が、慌てたように持ち場を離れて走っていく。
一度、門の検問所を離れて馬車を止めていると、しばしのあと、都市の中から、騎馬に乗った騎士の集団があらわれ、近づいてきた。
「おお、ペンタ殿! 無事に帰られたか!!」
ものすごく大きな声で、騎士団長のおっさんは笑顔で手を上げる。目立つから、やめてほしいと思ったが、いまさら遅かった。
周囲からは、騎士団だ、騎士団長様だ……などという声が漏れ聞こえ、注目されていた。
そんな耳目を集めたままで、俺たちを乗せた馬車は門をくぐり、公爵家に向かうのであった。
「ここが、ベルディアーナがお世話になる予定の、公爵家だ」
「ふぅん、なかなか広い場所ね」
公爵家の庭に馬車を止めると、御者席に乗った俺が一番に地面に降りる。続いて馬車から降りてきたのはウルディアーナ。広々とした公爵家の庭や、大きな屋敷を見て興味深そうな顔をしている。
馬車に乗って疲れた、肩や首を回していると、公爵家の玄関の扉が開き、二人の少女が出てきた。
一人は騎士団長の娘、セレスティア。動きやすいような、ズボンスタイルの少女であり、もう一人は、マリー公爵令嬢。朗らかな笑みを浮かべているが、微妙に俺から視線をそらしている。
「ようこそ、おかえりになられました。お父様も待ちわびておられますわ」
「ふん、私は心配などしていないが、お前のことをマリー様がどれだけ案じていたか……反省するんだな!」
「セレス……まったくお前は、すぐに憎まれ口を言いおって」
騎士団長のおっさんが、あきれたように言うが、まあ、セレスティアの口の悪さは、今に始まったことでもないので、俺も特に気にしていない。と、
「ねえ、ペンタ。この二人が話に聞いていた娘達なの?」
「「呼び捨て!?」」
と、ウルディアーナの言葉に、マリー嬢とセレスティアが声を上げた。なんで驚いているのか、デネヴァだっていつも俺を呼び捨ててただろうに。
「こほんっ……その、ペン様? 本日より、我が公爵家にエルフのご令嬢が逗留なさるので、仲良くせよと、御父様から言いつかっておりますが、そちらの方とペン様のご関係は?」
「まさか、マリー様というものがありながら、その女と、あれこれと……うぬぬ、許せんっ!」
「なんなの、この二人」
なぜか笑顔が怖くなったマリー嬢と、怒っているセレスティア。対して、ウルディアーナは良く分からないといった顔である。
「ええと、彼女はウルディアーナ。何を勘違いしているかは分からないけど、公爵家で生活するのは、そっち」
そういって、俺は馬車の方に指をさすと、馬車からこっそりと、顔の半分を出したベルディアーナは、おびえたような顔で様子を見ているようである。
「そ、その……ベルディアーナ、です」
そんなわけで、聖女であるマリー嬢、聖なる槍を使うことになるセレスティア子爵令嬢、聖弓に見初められる予定のエルフ、ベルディアーナの3人の少女が顔を合わせることになった。
「あ、あの、ペンタ兄さま……この人たちが」
「「お兄様呼び!?」」
「はひゃぁぁ!?」
マリー嬢、セレスティアの二人のあげた声に驚き、ウルディアーナの背中に隠れるベルディアーナ。
この調子で、仲良くやれるのか……? そんな不安を残す、少女たちの初顔合わせなのであった………。




