序章:ペンタの冒険者時代22
序章-44 巨大な死体人形との闘い。
一つ目巨人の死体人形に向かって駆ける。下半身を落とし穴に埋まらせ、上半身だけを露出している巨人は、その長大な腕を振り回して攻撃してくる。
鈍重かと思えたその攻撃は、予想以上に速度があり、とっさに前転し、その攻撃を避ける。
巨人を落とし穴に嵌めるために、木々の少ない、広場のような場所を選んだので、巨人の腕を妨げるような障害物はなく、左右から、あるいは上方から襲い掛かってくる巨人の腕をしのぎつつ、頭部へと近づく。
隙を見つけ、アイテムボックスからパイルバンカーを取り出し、巨人の頭部に一撃を加える。
「おっと! あぶなっ」
直後に襲い掛かってきた、巨人の掌。おそらくは俺をつかんで握りつぶそうというそれを間一髪で避けると、腕の連撃を回避して、巨人の射程外に退避して一息ついた。
2回目のパイルバンカーの打撃でも、巨人の頭部を覆う、兜のような装置を破壊することはできなかった。
「これは、長期戦になるか……?」
息を整えたところで、俺は再び巨人に向かう。その後も2度3度、巨人の頭部に一撃をたたきつけてから、射程外に回避をする。
数回、攻撃を繰り返したところ、巨人の死体を操っていた装置にヒビらしきものができ始めた。
「これは、いけるか……って、なに!?」
射程外で息を整えていると、巨人がその両腕を地面に添えて、力をこめ始めた!
単純な命令で動く人形かと思ってたが、落とし穴から抜け出る気か!? 俺は慌てて、巨人に詰め寄ると、パイルバンカーをふるう。
「くっ……!」
だが、杭が頭部に当たろうとするとき、巨人の頭部が上に動いた。両腕を突っ張らせて、落とし穴から巨人が抜け出てきたのである。
立ち上がった巨人の頭部は、大木の頂点に匹敵するくらいの高さまで上がってしまった。
どうする!? また、落とし穴を作って………そう考えていると、巨人が動いた。
大木の幹のような、巨大な足が振るわれ、こちらを蹴り飛ばそうと向かってくる!
「うぉっ!?」
慌てて避けるものの、心理的にはダンプカーのような巨大な物質が、顔面すれすれを通っていくような感覚だ。
これはまずい! どうする!? と思っていた矢先である。
「ご主人様! やっちゃってニャ!」
ケットシーたちの声が聞こえる。そっちを見ると、一本の木を巨大な丸太にし、先端をとがらせたものをケットシーたちが作ったようだ。
「飛びなさい……! ウィンドシュート!!」
デネヴァがその丸太を、風の魔法で浮かせると、巨人の頭部に放つ! 丸太は破城槌のように、巨大な音とともに、巨人の頭部に命中する! さらに大きくなる亀裂……だが、それでもまだ一押し足りなかったようだ。
「あっ、やば……!」
「これはいけないニャ!! ご主人様を担いで、退避ニャ!!!」
その攻撃が、巨人の注意をデネヴァ達に向けたようだ。巨大な歩幅で、デネヴァ達のもとに向かい、手を伸ばす巨人。
ケットシーたちが、デネヴァを担いで逃げ回るが、つかまりそうな彼女たちを助けるため、俺は飛び出していた。
「やめろっ!! はぁっ!!」
愛刀の虎徹を取り出して、巨人の手に斬りつけようとするその瞬間、巨人の手の動きが変化し、こっちに向かってきた!
「なっ!?」
巨人の狙いは、最初から俺をおびき寄せる気だったのか!?
巨人の手にとらえられた俺は、そのまま握られた状態で宙に浮く。そうして、死体人形の眼前に持っていかれた。
兜のような装置に覆われた、巨人の頭が揺れる。それは、罠にかかった俺をあざ笑っているかのようであった。
序章-45 巨大な死体人形との闘い。
巨人につかまれ、宙に浮いた俺。巨人の眼前まで持っていかれると、そのこぶしに力がこもる。
「ぐぅっ!?」
俺を握りつぶす気か!? 何とか懸命に耐えようとするが、握りこまれる圧力に、身体が悲鳴を上げる。
俺の苦しむさまを見て、手ごたえを感じたのか、巨人は片手の上にもう片方も添え、さらに両手で握りこんでくる。
「ペンタっ!」
「ああああ、なんてことニャ!? どうにかしないと、どうにかしないと……!」
下方では、デネヴァとケットシーたちの叫び声が聞こえる中、巨人の握りしめる力に、身体が悲鳴を上げる。
何とかくいしばって耐えていると、ふわり、と羽のように、巨人の両手の上に、誰かが舞い降りた。
それは、先ほどまで俺の戦いを見守っていた、ウルディアーナである。
ウルディアーナの登場に、巨人は俺を助ける気かと、両手に力をこめて、彼女がどんな攻撃をしようと、手が外れないようにしたようだ。
だが、それは俺たちにとって、チャンスとなる一瞬であった。
「………見て、大体わかったわ。出しなさい」
「………ああ。あとは頼んだ!」
その言葉とともに、俺はアイテムボックス内に避難させていた、パイルバンカーを彼女の手に出現させる。
巨人に攻撃を加える直前、ウルディアーナには、一言二言で、こう伝えた。
今から、見せる武器の使い方を覚えてくれ。巨人が隙を見せたら、それで倒すんだ。と。
巨人は、虚を突かれたかのように立ち尽くす。その一瞬を逃さず、エルフの少女は、巨人の方に飛び移ると……
「これで、終わりよ!!」
ひび割れた、装置の破損部に、パイルバンカーによる、最後の一撃をたたきこんだ!
破砕音とともに、装置が粉々に砕ける……巨人の死体は、その動きを止め、たちつくす。
そうしてすぐに、その末端から、粒子のように崩れて崩壊が始まった。
死体を動かす代償か、死体人形を倒しても、その死体は残らない。物語では、騎士団長やウルディアーナを倒しても、その死体も残らずに消え、使われた死体の関係者は嘆きの声を上げることとなるのである。
巨人の両手にとらわれていた俺も、その手が消えて、宙に浮く………というか、ここは巨人の肩くらいの高さ……かなりの高さから落下する!?
「どわあああ!?」
「まったく、しまらないわね!」
じたばたと両手両足を動かして落下する俺を、間一髪救ったのは、巨人の肩から飛んだウルディアーナである。
彼女は、落下する俺の身体を導いて、近くの木の枝に着陸したのであった。
「あ、ありがとう……やれやれ、かっこ悪いな、俺」
「そうね……冗談よ。充分、恰好よかったと思うわ」
遠目からでも、巨人が倒されたのは分かったのだろう。森のあちこちから、エルフたちの歓声が聞こえる。
そうして、エルフの里を襲った死体人形を、俺たちはどうにか倒すことが出来たのであった。




