序章:ペンタの冒険者時代21
序章-42 ウルディアーナとの出会い。
馬車に数匹のケットシーを残し、森に侵入する。遠目に見える巨人が1歩踏み出すたびに、地響きがおこり、森の獣たちはパニックになり、右往左往する。
普段は、人間を見ると襲い掛かってくる獣たちも、混乱しているのか、こちらに注目することもなく、巨人から逃げ出すように動いていた。
そうして、森の中に分け入ってしばし、木々の上に上り、巨人に向かって攻撃を仕掛ける、エルフたちの一団がいた。
近づく俺たちを見て、エルフの青年が、戸惑ったように声をかけてくる。
「人間の男女に、ケットシー……冒険者か? 今は見ての通り、危険な状況だ。ここから離れた方が良いぞ」
「危険な状況なのは知ってるよ。まあ、俺の知っている状況とは大きくかけ離れているんだが……ともかく、あの巨人の正体と、倒し方を知っている。そちらの自警団の責任者と、話をしたいんだが」
「それは………本当か? よし、ついてこい」
エルフの青年はそういうと、木々の枝を飛び、森の奥に向かう。俺たちはそのあとを小走りに追った。
「まったく、的は大きいのに、魔法も弓も聞かないなんて……いったい、どんな怪物なのよ」
「ウルディアーナ隊長! 人間の冒険者が来ています! あの巨人の情報を持っているとのことですが……」
「なんですって?」
ついていった先には、一人のエルフの少女がいた。キリリと吊り上がった勝気な目元。スレンダーな身体をした美少女で、彼女がベルティアーナの姉のウルディアーナのようである。
「貴方たち、その話は本当なの?」
「ああ。俺の名はカーペンタ・パウロニアだ。ペンタって呼んでくれ」
「ウルディアーナよ。それで、ペンタ。あの巨人はいったい何なの?」
俺はウルディアーナに、四天王のパルペッティが彼女の命と身体を狙っている事。あの巨人は、そのために作られた死体人形であり、弓も魔法にも耐性がある、エルフたちにとっての天敵だということを伝えた。
「その、パル何とかの狙いは私なの?」
「まあ、それはそうだが、あんたが犠牲になっても、巨人が止まる保証はないぞ。ことのついでに、エルフの里も壊滅させられるかもしれない。あの巨人を倒すのが、一番良い方法だろう」
「それはそうだけど、弓も魔法も聞かないっていうし……」
「それは、俺に考えがある。あの死体人形の弱点は、頭部の兜のような装置だ。あれを壊せば、機能が停止するはずだ」
もっとも、大木に匹敵する背丈の巨人である。エルフなら木々を渡ってその頭部に飛び乗ることもできるだろうが、正直、俺にはそんな軽業師みたいな身のこなしはできなかったので、別の策を講じることにした。
序章-43 巨人の頭部を破壊せよ!
「ひとまず、ウルディアーナはしばらく逃げ回って、巨人の注意を引き付けてほしい」
「それは良いけど、逃げ回るだけでも木々に被害が出ているのよ。あまり時間はかけてほしくないわ」
「大丈夫だ。一晩でやる……とはいわず、数時間あれば罠ができるさ。俺と、ケットシーたちでやる」
「「「お任せくださいニャ!」」」
俺の言葉に、ビシッと並んで敬礼するケットシーたち。
「本当に大丈夫よね……?」
と、半信半疑ではあるが、巨人相手に、時間稼ぎに行くウルディアーナ。その現場から少し離れた場所に、俺たちは移動する。
「それで、どうするんですニャ?」
「古来からの、獣をとらえる罠で、もっとも単純で、大がかりに作れるものにする」
「それは?」
「ーーーー落とし穴だ」
「ウルディアーナ、こっちだ! 巨人をこっちに誘導してくれ!」
「ようやく準備ができたのね! ほら、こっちに来なさい!」
俺が声をかけると、ウルディアーナは巨人に弓を射かけて、身をひるがえす。巨人は、ウルディアーナを狙うように指示されているのか、地響きをたてて、彼女の後を追った。
そうして、彼女の後を追って歩き……わずかに違和感の感じる地面を踏んだ瞬間、その周囲の地面が一気に陥没した!
「よっし! 大成功だニャ!!」
戸惑うような巨人の咆哮と、ケットシーたちの歓声が聞こえる中、俺は落とし穴に腰より上、胸まで漬かることになった巨人に向けて走り出す!
近寄るにつれて、顔を覆う兜のような装置が眼前に迫り、手を伸ばしたら届く範囲に来たところで、俺はアイテムボックスから、一つの武器を取り出した。
「これで、吹き飛ばす!!」
腕に装着したのは、魔力をまとった杭を、対象に打ち付ける、いわゆるパイルバンカーと呼ばれる武器だ。
装置内部で魔力によって推進力を得た杭は、硬い鋼すらも粉砕する威力なのは、実験で確認済みである。
「これでも、喰らえ!!」
ドゥン!!! という振動とともに、巨人の頭部に、杭打ちが炸裂する。
手応えあった………と思った瞬間、俺は横合いから飛んできた、巨大な手にはじき飛ばされたのであった。
「がっ!?」
大きく弾き飛ばされ、木の幹に激突する俺。見ると、巨人の頭部についた装置には、大きくへこみのようなものがあるが、まだ壊れもせずに健在である。
「もう何度か、撃ち込まないといけないか……!」
そう言って立ち上がるものの、それが困難なことは、なんとなく感じた。今まで、ウルディアーナを緩慢な動作で追うだけであった巨人が、俺に対して明確な敵意を向けてこちらを見ていた。
幸いにも、まだ落とし穴から抜け出てはいないものの、こちらを警戒していることは、ありありと感じ取れた。
「ペンタ! 大丈夫なの!?」
「ああ。だけど、これは少し、てこずるかもしれないな」
駆けつけたウルディアーナに、一言二言伝えた後、俺はパイルバンカーをアイテムボックスに収容し、巨人の上半身に向けて、駆け出したのであった。




