序章:ペンタの冒険者時代20
序章-40 エルフの里を救おう。
17歳になったある日、ラザウェル公爵に久々に呼び出された俺は、エルフの里がこのままでは滅ぶことについて、どうすべきか決めるようにと言われた。
「そういえば、確かにこのままだと、エルフの里があぶないんだったな……」
箇条書きに色々と書き連ねた物語の内容の中で、エルフの里と、その長の娘ベルティアーナについては、悲劇的な運命が待ち受けている。
確か物語では、入学してベルティアーナと会話していると、親しくなってから、「あれは2年前……」などと前置きとともに、ベルティアーナの回想が聞かされたはずだ。
エルフの里は、里を護るために屈強な自警団が編成され、ベルティアーナの姉、ウルディアーナが自警団の長を務め、長く外敵から里を護ってきた。
そのウルディアーナを、魔神四天王のパルペッティが目を付けたのが、悲劇の始まりであった。
彼女を殺し、死体を手に入れて人形にすべく、パルペッティは一人の騎士の死体から、弓も魔法も通さぬ、凶悪な死体人形を作り上げた。ディスパーと名付けられた死体人形は、もとは公爵家につかえる騎士団の団長で……
「あれ? そういえば、ベルティアーナの姉とエルフの自警団を殺したのは、騎士団長のおっさんをもとにした、死体人形ってことになってるけど……」
俺が助けたせいで、騎士団長のおっさんは、今日も元気に生きており、先ほども訓練に付き合わされたばかりである。
ディスパーによって、戦闘能力の大半を失ったエルフの里は、ほどなくして壊滅するはずであったが……
ひょっとして、エルフの里の壊滅はない? と一瞬考えたが、ウルディアーナに対しての執着を、そのくらいで諦めるかは微妙であり、パルペッティは数多くの死体人形を所持しているはずである。
ひとまず、死体人形に対する攻略法は、物語をもとに考え付いたし、まずはドワーフの集落に行き、取り急ぎ、思いついた新武器を作ってもらうことにした。
「ん? なんだお前か。また、妙ちくりんな武器でも考え付いたのか?」
「妙ちくりんかはともかく、作ってほしいものはあるよ」
ドワーフの集落に行き、懇意の親方に頼み込んで武器を作り、エルフの里に向かうため、孤児院や、冒険者ギルド、公爵家などに挨拶をしつつ、準備を進めた。
今回、エルフの里には俺一人で向かおうと思っていた。正直なところ、何が起こるか分からないので、ケットシーたちとデネヴァを危険な目にあわせたくないと思ったからだが……
「水臭いですニャ! 危険というならなおさら、お供させていただきますニャ!」
「そういうことよ。四の五の言わずに、一緒に行くわよ」
と、ケットシーたちとデネヴァに言われ、思い直した俺は、いつものメンバーで、エルフの里に出立することにしたのであった。
なお、マリー嬢とセレスティアの二人は留守番である。セレスティアの方は、自分も連れて行けとごねたが、騎士団長のおっさんに、力不足である! と諭されて、渋々ながら、留守番をするようであった。
序章-41 エルフの里に向かおう。
準備を整え、都市・タルカンを出立した俺たち。目指すは国内にある最大の大森林。その中にあるという、エルフの里である。
なお、出立前に、公爵様からの手紙をもらっていた。エルフの長に向けての手紙であり、人間の世界の立場がどれだけ通用するかは分からないが、身分を証明するのに、無いよりはましだろうということである。
「それにしても、エルフの里が滅ぶって、その四天王はそんなに強いの?」
「四天王自体より、それが作り出した人形が強いはずだ。死体に、兜のような装置をつけて、そこから魔力を防ぐバリアを身体の表面に張る……たしか、そんなカラクリだったはず」
魔法が通じないうえに、死体が動いているため、生半可な攻撃では効果が薄い。弱点としては、人形を操っている兜のような装置を壊せばよいのだが、魔法がほぼ効かないため、斧やハンマーなどの打撃武器でどうにかするか、魔力を込めた神器などの武器で攻撃するのが攻略法であった。
「そういうわけだから、もしその死体人形と戦うことになったら、ケットシーたちはサポートに回ってくれ。小柄な分、パワー勝負の相手には相性が悪いだろうからな」
「それは残念ですニャー」
俺の言葉に、しょんぼりする、黒猫ゲンノスケを筆頭にしたケットシーたち。とはいえ、エルフの里に向かうまでには、獣や魔獣などと複数回遭遇し、その戦闘では、小柄ながらも息ぴったりなチームワークで活躍したのでケットシーたちの面目は、大いに保たれたのであった。
公爵領を出立して数週間後……俺たちは、見渡す限りの大森林に足を踏み入れようとしていた。
「この先に、エルフの里があるのか……」
「今のところ、異常なことは……………」
うっそうとした木が立ち並ぶ森。その入り口で森を見ていた俺たちだが、森の奥、木々の合間から、巨大な顔がぬっとあらわれた。
それは、巨大な木々に匹敵する身長の巨人……一つ目巨人と呼ばれる種族の姿である。さらに、その顔には……兜のような、独特の形状の装置が取り付けられていた。
横を向いているその顔目掛け、弓矢や魔法が飛ぶ。だが、巨人には効果がないかのように、ずしんずしんと、歩いているのが見えた。
「………ひょっとして、あれが死体人形ってものなのかしら?」
「………みたいだな」
大森林の奥の方で、戦いの音が聞こえる。騎士団長のおっさんの代わりが、あの巨人の死体人形とか、いろいろ変わりすぎだろう。
「あの巨人……どこかで見たような気がしますニャ。確か、前にあの巨人を倒して皮を剥ぎ取ったりしてませんでしたかニャ?」
「そういえば、そんなこともあったような……?」
たしか、一つ目巨人とか、岩石飛竜とか素材で狩ったこともあって、巨人の方は、死体を放置していったよな。サイズが大きすぎて、正直、破棄するしかなかったわけだけど。
これもまた、俺が起こした影響なのか。なんというか、いたるところで影響が出ているな……
「ともかく、あれを倒さないとまずいな……エルフの弓や魔法じゃ、倒せないだろうし、アレ一体で、本当に里が潰されかねないからな」
遠くから聞こえる、木々が倒れる音、爆音、それを耳にしながら、俺たちは遠目にも見える、巨大な死体人形を目印に、戦いの場へ向かうことにしたのであった。




