序章:ペンタの冒険者時代18
序章-36 12歳の少女たち(聖女マリー視点)
私はマリー・ラザウェル。ラザウェル公爵家の一人娘にして、魔人討伐の神託を女神さまから告げられた者です。
聖女としての力をつけるための、巡礼の旅を終え、父様の待つ都市・タルカンに帰る最中、私たちは魔神四天王という者に襲撃を受けました。
護衛の騎士たちを吹き飛ばし、私の目の前に立った豹頭の獣人が、腕を振り下した時、ペン様一行が助けに入ってくれたのです。
危機一髪のところで助けられたこと、頬の治療をされた一件で、私の心の中はペン様で一杯になりました。
ですが、私は公爵家の一人娘……母様は病弱であり、今も床に臥せっており、私以外の弟や妹は期待できません。
父様は、私のために良き婚約者を探してくれると申しておりますし、わがままは言えません。
私は、淑女教育で習った微笑を浮かべつつ、差しさわりなくペン様に関わろうと努力しました。
ですが、どうにもうまくいかず、ペン様の前では笑顔が保てなかったり、視線を合わせるのも難しく、そっぽを向いてしまいます。
ペン様には、私は随分と、可愛げのない娘に見えているのでしょう。
彼の方への想いを封じようとしている私の願いは叶いそうですが、心の中には、黒い塊があるような気がします。
明け透けた態度でペン様に接するセレス、飄々とした態度で、ペン様の隣にいるデネヴァ様を見ていると、嫉妬で心が苦しくなります。
こんな心で、聖女としての務めを果たせるのでしょうか……
胸にそんな悩みを抱えながら、私は今日も、こっそりとペン様に視線を向けるのでありました。
序章-37 ???歳の少女?(魔女デネヴァ:3人称視点)
魔神四天王の一人に、魔女、スーメリアと呼ばれる者がいる。
傲慢を絵に描いたような魔女であり、彼女によってひどい目にあわされた者も少なくはない。
ただ、気まぐれに気に入った者には助けの手を差し伸べることもあり、わずかながら彼女を信奉する者もいた。
「お前、ひどい格好ね。助けてあげても良いのよ?」
「いらない……私は一人で生きていく」
「あら、そうなの。それじゃあ与えてあげましょう。一人で生きていける知識と、他人に頼らない永劫の若さを、ね」
スーメリアは、一人の少女……デネヴァに魔女としての知識と、老わぬ呪いを与える。
それから彼女は、冒険者として活動。時々は気まぐれに、他の冒険者とつるむこともあったが、いつまでも若い姿を保つデネヴァは、一緒に行動する時期も短く、大体は一人で活動をしていた。
およそ、一人の人間が一生を終える時間が過ぎ、デネヴァと関わる人物の多くが死に絶えたころには、彼女はケットシーを飼いはじめ、少数の理解者以外とは関わらずに生きていく。
そんなある年、一人の少年と出会うことになる。ひょんなことから同居することになった10歳前半の少年。彼と関わって過ごしたこの数年は、彼女にとって久しぶりに、多くの感情を揺り動かされた日々であった。
物語では、気まぐれに王立学園の誘いに乗り、教師として赴任するものの、四天王スーメリアとは関わらず、一人の教師としての立場をつらぬいたが、ペンタが関わることで、それがどうなのか。それはまだ、誰にも分からないのであった。
【マリー・ラザウェル】12歳にして、社交界の華と呼ばれる少女。表面上は、聖女にふさわしい笑みを携えた美少女であるが、内面ではヤンデレ化が進行中
【デネヴァ】ケットシーの飼い主であり、万年15歳の少女。
背と年齢を上回ったペンタを感慨深げに見つめている。




