序章:ペンタの子供時代2
序章-6:年齢不詳のデネヴァさんじゅうごさい?と出会う
冒険者ギルドで、冒険者登録をしたら、何やら珍しいステータスということで
ギルド内の個室に引っ張り込まれた俺。
出されたお茶とお菓子に舌鼓を打っていると、しばらくして
二人の人間が部屋に入ってきた。
「ふむ、君が報告にあった新人くんかね。私はこのギルドを任されている、
ドーガというものだ」
入ってきた一人目は、ドーガさんという中年の男性で、このギルドの責任者
ということらしい。
そしてもう一人は、三角帽子をかぶり、焦げ茶色をした髪を無造作に肩まで垂らした
15歳くらいの美少女で、
「あたしはデネヴァよ。あなたが空間からものを取り出す魔法を使ったって聞いて
かけつけたのよ。ほら、さっさとやってみなさい!」
と10歳の俺に凄んでくるデネヴァさん。見た目は15歳の女の子だが、その迫力は
並の大人顔負けのすごみがある。
実は、このデネヴァさん、今から10年後の主人公たちが生活する学園にも
魔術の教師として今の姿で登場している。
その時も、レディに年齢を聞くものじゃないわ、と言っていたが……
たしか、小説には数百年を生きている魔女と書いていたような気がする。
「まあ、落ち着き給えデネヴァ君。まずは座って話そうじゃないか」
思わぬ人物とエンカウントして驚いた俺を、詰め寄られて驚いたと勘違いしたのか、
興奮するデネヴァをなだめるように、ドーガさんが間に入ってくれた。
まずは軽い自己紹介と、俺のステータス確認、そして、実際にアイテムボックスの魔法を
使ってみると、デネヴァは目を輝かせて、俺に色々と質問をあびせかけてきた。
「あたしもね、空間魔法の可能性について、日々検証していたの。空間に干渉する魔法は
聖魔法と並んで、神秘の領域に属するもので、空間を操るとはどんなことか、
空間の先に何があるのか、空間魔法として実際に使えそうな現象と、それを生み出す魔術公式は……」
立て板に水というように、ぺらぺらとしゃべりつつ、質問を投げかけてくるその勢いに、
いくつかの空間魔法を見せることになり、デネヴァはとても満足そうにしていた。
序章-7:年齢不詳のデネヴァさんじゅうごさい?とパーティを組む
「おほん……あ~、デネヴァ君。そろそろこちらとしても、本題に入りたいのでね。
そういった魔法談義は、一度やめてくれないかな?」
30分ほど、デネヴァの色々な質問タイムに付き合っていると、ドーガさんが
一つ咳払いをして、そう切り出してきた。
「むぅ………しかたないわね」
デネヴァは不満そうな顔を見せたが、ギルドの責任者って人だし、いろいろ忙しいのだろう。
デネヴァの暴走をある程度待っていただけでも、度量があるのではないかと思う。
「さて、カーペンタ君。君のステータスは、かなりの稀有なものだ。その貴重さは
公表されれば、多くのパーティから勧誘がかかるだろうが、中には君の力を利用しようと
すり寄ってくるものもいるだろう」
「まあ、アイテムボックスが使えるだけで、荷物持ちいらずですもんね」
「それ以外にも、複数の魔法適性があり、万能感のある能力なのだから、成長すれば
君は英雄級になれるだろうと思っている」
だが、とドーガさんは一つ前置きし、
「将来性はさておき、今の君はまだ駆け出しのルーキーだ。いろいろな世間の悪どさもしらなければ
何のことはないモンスターとの戦いで、不覚を取るかもしれない。
将来の英雄候補が、早いうちから脱落するのは、ギルドとしても困るのだよ。それでだが」
ドーガさんは、目線でデネヴァを指し示すと、
「このデネヴァとパーティを組んで行動してもらいたい。彼女はこう見えて、特別級の冒険者で
数多くの功績と悪名……異名を立てている逸材だ。彼女と一緒なら、余計なちょっかいをだしてくる
者たちもいないだろう」
………そういえば、物語では彼女の異名として『盗賊狩りの美少女』『ドラゴンを椅子にした女』
『ねこねこ大行進』『クンッ、としたら相手が死んだ』などがあげられていたが、どうやらずいぶんと
やんちゃな暴れん坊らしい。
「当面は、デネヴァとともに行動して、活躍をしてほしい。まあ、本当はデネヴァが気に入ったら
この話をするということだったが」
「ペンタは面白いし、あたしも組んであげていいわよ」
と、デネヴァは笑いながら、肩をそびやかす。先ほどまでのやり取りで、俺に対しては
仲良くできると思ったのだろう。
「俺としても、当面の間というのなら構いません。まあ、どれだけ長続きしても、10年後には
解散することになるでしょうけど」
「あら、1年~2年後じゃなくて、10年後? 10年後に何があるのかしら」
ドーガさんにいう俺の言葉を聞いて、デネヴァは怪訝そうに首をかしげる。
10年後に、デネヴァは王立聖ロバルテ女学園につとめることになるんだが……予言めいたことを
いうのも、どうかと思ったので、
「いや、俺は10年たったら、立聖ロバルテ女学園の教職に就きたいと思ってるんだ。まあ、
上手く高名な冒険者になって、学園から呼ばれるなり、自分でアピールして叶ったりしたらってことだけど」
と、自分の願望をおりまぜて、そんなことを言ってごまかした。
「ふーん、まだ小さいのに、将来のことを考えてえらいのね」
えらいえらい、と俺の頭をなでるデネヴァ。そうして、彼女は満足そうに
「それじゃあ、お姉さんがペンタを立派な男性に育ててあげよう! あんしんして、お姉さんに任せるといいわ」
………というわけで、年齢不詳の少女デネヴァと俺ペンタは、パーティを組んで行動することにした。
ギルドの待合室から出ると、いくつかの好奇の視線が俺に向けられたが、隣にデネヴァがいるのを見ると、そっ、と視線をそらされた。
………どうやら、彼女が防波堤の役割になるのは、間違いないようであった。




