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序章:ペンタの冒険者時代16


序章-34 シャルウィーダンス?


それからというもの、孤児院での教師、冒険者活動に加え、ギルフォード子爵家でのマナー講習や、騎士団長からのかわいがり(模擬戦)などが日常に追加されることとなった。

貴族としてのファッションや、姿勢、歩き方の所作に加え、最近ではダンスの練習なども行っている。


「それでは、今回はペンタ殿とセレスのペアで行いましょう」

「お母さま! 私はマリー様相手の男役がいいです!」


アンヌ夫人の言葉に、セレスティアが声を上げる。マリー大好きな彼女は、夜会のエスコートやら何やらも、全部自分が男役のパートナーで出たいと言って聞かない。

……元の物語の時、顔に傷ができ、婚約者のいないマリー嬢を、エスコートする役割だったのがセレスティアだ。

顔に傷を負ったマリーと、父親である騎士団長をなくしたセレスティア。そんな二人は、互いに支えあう関係であった。が、それは物語での話で、そういったマイナス面がないので、母親であるアンヌ夫人は、あきれたように常識的な判断をくだすのであった。


「そんな風にしていたら、お嫁の貰い手がなくなりますよ。それに、実際の夜会では貴方は男性とダンスを踊らなければいけません。今から学んでおかなければ、恥をかいてしまいますよ」

「うぬぬ……なんで私がぁぁ」


と、そんな不満そうな顔をするセレスと身を寄せ合って、ダンスに興じる。

ダンスの訓練は、音楽なしでやるものと思ったが、そこは子爵家。練習のために楽師を呼び寄せて、演奏を行わせての練習を行っていた。


「おい、もっと離れろ! 近いんだよ、お前は!」

「いや、そうはいってもな、この距離が一番踊りやすいだろ」


口ではなんだかんだ言いつつも、訓練で体幹が鍛えられていることもあり、セレスティアとのダンスが一番踊りやすく、気を使わなくてよいので楽しかったりする。

なお、次に踊りやすいのは気安さの面でデネヴァであり、マリー嬢の場合は、意地でも目線を合わせようとしないので気まずいというかなんというか。


「ふん、変なことを考えたら、足を踏みつけてやるからな!」


とまあ、憎まれ口をたたきながらも、セレスティアは実に楽しそうに、曲に合わせてターンを決めたりするのであった。



序章-35 こっそりと誘導


ギルフォード子爵家を訪れているある日、騎士団長はその日は所用で出かけており、午後の訓練は俺とセレスティアの二人で行っていた。

一通りの訓練を行った後、セレスティアから模擬戦の提案をしてきた。


「勝負だ! 今日こそは、お前から1本とってやるぞ!」

「おう、かかってこい」


気合十分のセレスティアに、俺は手招きして応じる。気合の声を上げて斬りかかってくるセレスティア。

その太刀筋は、幼いころからの鍛錬もあいまって、早く鋭い。とはいえ、素直すぎる性格もあり、フェイントなどを織り交ぜることもないため、早くても受け止めることが出来た。


「せいっ、やっ、はぁっ!!」

「おっ、今のは惜しかったな!」


基本的に、俺は打ち返さずに受けにまわる。というか、防御に集中しないと受けきれないほどには、セレスティアの攻撃は鋭い。

実戦では、攻撃の隙を見つけてカウンターを与えるところだが、この状況でそれをやると、セレスティアにけがを負わせかねないので、俺は防御に徹するしかないのである。

……なお、騎士団長だと平然とセレスティアの斬撃を素手でつかんだり、剣で巻き上げて弾き飛ばしたりと、技量的な凄さを見せつけられることがあり、つくづく規格外なおっさんだと思う。


「だあっ、くそぉ~……」

「はぁ、はぁ。よし、ここまでだな!」


結局は、攻め切れなかったセレスティアのスタミナ切れで、俺とセレスティアの模擬戦は終了となることが多い。

地面に大の字に寝ているセレスティアに手を差し出すと、むっとした顔をしながらも、俺の手をつかんで立ち上がった。


「まったく、防御ばかりして……私が女だからって、遠慮しているのか?」

「そんなわけないぞ。防御しているだけで精一杯だって」

「ふん、どうだかな」


と、ぶつぶついうセレスティアの手を引きながら、庭のかたわらでお茶をしている、デネヴァやマリー嬢、アンヌ夫人のところに連れていく。


「セレス、お疲れ様。こちらに座りなさいな」

「は、はい! マリー様!」


と、マリーの言葉を聞くや否や、俺とつないでいた手を離し、忠犬のごとくマリー嬢のもとに駆け寄るセレスティア。まったく、相変わらずのマリー嬢好きである。


「お疲れ様です。どうですか、セレスの腕前は」

「いや、ますます上達していますよ。将来が楽しみですよね」


アンヌ夫人にそう答えると、俺もお茶会の席に座る。隣からそっとティーカップを差し出してきたのは、デネヴァであった。

目線で礼を言いつつ、一息にあおる。運動のあとに飲む、お茶は身体の隅々にまでいきわたるような、染み入るうまさがある。

のどを潤した後、俺はセレスティアを横目で見つつ、口を開いた。


「俺としては、剣もそうですが、彼女は槍とかそういう武器を使っても、伸びるんじゃないかと思うんですよ。身体のキレが良い分、突きの威力が乗せられる、槍とかは、彼女に合うんじゃないかなぁと」

「む………そうなのか?」

「そうだとも。セレスティアには、槍が似合うと思うなー、うん」


怪訝そうな顔をするセレスティアに、俺はうんうんと頷いて見せる。

なお、なぜそんなことを言うのかというと、物語では、聖槍に選ばれるのが、セレスティアだからだ。物語では、父親の敵を討つため、父親から習った剣術に固執し、勇者リディアに聖剣をよこせとか言い寄ったり、槍の扱いに苦労したりするエピソードがある。

そういったこともあり、聖槍に選ばれるなら、今のうちから槍の扱いに慣れておくのが良いと思っての言葉であった。


「ふん! 似合うか似合わないかなどどうでもいい! だが、私に向いているというのなら、考えてやる」


俺の言葉に、ぶっきらぼうにそう言うと、セレスティアは紅茶を飲み干す。

どうやら、槍に興味を示してくれたようであり、俺としては万々歳な成果と言えた。


「………随分と、セレスを気にかけておられますね」

「? どうかしましたか、マリー様」

「いえ、何でもありませんよ」


それにしても、なんだかマリー嬢の視線が鋭い気がするんだが……気のせいだろう。たぶん。

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