序章:ペンタの冒険者時代15
序章-32 カーペンタ・パウロニア男爵となり、騎士団長家族に色々と学ぶ。3
貴族としての知識、マナーなどを学びつつ時間が流れて昼食時。
騎士団長の奥さん、アンヌ夫人の手料理をいただくことになった。テーブルに料理が並べられ、さあ、いただきますというところで、意外な難題が。
「貴族の家では、食事にもマナーがあります。軽い障りの部分ですが、本日はそのあたりを学びながらいただきましょう」
ということで、食事をしながらも、作法やマナーについてあれこれといわれ、とても料理の味を楽しむ余裕なんてなかった。
元実家のロウ家は貧乏男爵であり、食事時にも、あまりマナーなどにはこだわらない家風であった。
「やれやれ、勉強はともかく、こっちでは全然だなー!」
と、5歳年下のセレスティアに馬鹿にされるくらいに、テーブルマナーというものは俺には向いていないようだ。
「セレス、貴方もひとのことを言えるほどではないわよ。マリー様を見習いなさい」
「マリー様は素晴らしい方なので!」
セレスティアの言葉の通り、公爵令嬢であるマリー嬢は、優美な所作で昼食を口に入れている。ふと、目が合ったが、ふいとそらされてしまった。
「まあなんだ、男だし多少はな!」
なお、騎士団長も俺と同様に、テーブルマナーは苦手のようであった。その言葉に、アンヌ夫人はため息を一つつくだけであり、騎士団長のマナーには、さじを投げているのかもしれない。
なお、デネヴァは普段はテーブルマナーなど興味なしという風にしているが、こうした場ではしっかりできるのか、マリー嬢の次にしっかりとした所作をしていたのである。
ケットシー達? 好きに食べているよ。
テーブルマナーについては、その後も俺を悩ませることとなった。日本式のいただきます的な作法は自信があるが、欧米式のマナーとは関係ない生活を送っていたので、この点は前世の知識もあてにならないのであった。
序章-33 騎士団長との模擬戦をおこなう。
食事のあとの午後の時間は、庭に出て騎士団長の訓練を受けることとなった。
走り込みや柔軟、剣の素振りなどを一通りこなしていく。
「うう……なんでそう平然としていられるんだっ……」
なお、俺と一緒にセレスティアも訓練を行っており、へとへとになりながら剣を振っている。
デネヴァ達と、マリー嬢、アンヌ夫人は庭先にあるテーブル席で、優雅に午後のティータイムをしていた。
「冒険者として鍛えているからな。年齢差もあるし……」
「そんなことは関係ないっ! お前には負けないからな!」
と、ムキになって模擬剣をブンブンと振るセレスティア。そうやってむきになると、余計疲れると思うんだが……俺が言うと余計にむきになりそうなので、黙っておく。
「うむうむ、セレスの気合が入るようになって良いことだ!」
そうして、騎士団長の指示に従って、トレーニングをこなしていく。
俺は無難にこなし、セレスティアもへとへとになりながら、トレーニングを完走した。
「うむ、ペンタ殿はまだ余裕があるようだな。けっこうけっこう! それでは、これから模擬戦をしようではないか!」
「えっ、模擬戦……ですか?」
「そうだとも。ペンタ殿がどれほどの力を持っているか、是非とも剣を交えて知りたいのだ!」
そういって、自らの手に模擬剣を持つ騎士団長。やる気満々なのか、その目はらんらんと輝いていたりする。
「………ちなみに、魔法とかを使ったりは?」
「なしだ! 純粋に剣の勝負というやつだな! ……家族にいいところを見せたいしな(小声)」
「あっ、きたねえ!」
正直、何でもありというのなら、勝機はあるかもと思える。だが、剣だけとなると、目の前にいる筋骨隆々の騎士団長に勝てる気は全くしなかった。
「さあさあ、尋常に勝負だ! ペンタ殿!」
「ええいくそ、どうにでもなれ!」
断れる空気でもなかったので、やけくそ気味に模擬剣を構える俺。
その後は、騎士団長にボコボコにされましたとさ。いつかは、剣だけでも勝ってやる! と、吹き飛ばされながら誓う俺であった……。




