序章:ペンタの冒険者時代13
序章-30 いろいろとはなしました 2
「さて、彼に報いるには如何にすべきだが……バンソー」
「はっ、カーペンタ・ロウ殿に関する調査により、彼の求めるものは大体は把握できているかと」
公爵様が、横に控えていた眼鏡をした中年の男性に声をかけると、眼鏡をくいっとあげてから、そんなことを口にした。
「カーペンタ・ロウ殿は男爵家の3男に生まれ、10歳にしてタルカンに来訪。冒険者ギルドにて特異な適性が認められ、魔女デネヴァ様、ケットシー達とパーティを組んで活動。ギルドの依頼をこなし、ダンジョンの探索を行い、希少な魔獣を討伐し、また、休日には孤児院で教師をしたりと幅広く活躍しております」
すらすらと、俺の行状を語る眼鏡の人。どうやら、この1週間くらいで、俺やデネヴァの人となりを調べていたようだ。まあ、公爵様に会わせてよいかどうかの確認という意味合いもあったのだろう。
「聞くところによると、王立聖ロバルテ女学園に教師として就職するために、活動しているとのことですから、そちらに便宜を図るのがよろしいかと。それに、今回の件の報酬として、新たに男爵家を立ち上げ、カーペンタ殿を初代男爵とするように働きかけましょう」
「聖ロバルテ女学園は、マリーも通わせようと思っていた学園だな……ふむ、それで良いかな?」
と、確認するように聞いてくる公爵様。
「は、はぁ……教師になるための便宜はありがたいですけど、新しい男爵家とは?」
「言葉の通り、貴方が初代となる男爵家です。ロウ家の3男という立場は、平民に近いものであり、今後のことを考えると男爵くらいは必要になるかと」
俺の質問に、眼鏡のバンソーさんが答える。王立学園に就職する時に、身分とかが重要になるのかもしれない。
「家名について、自らが決めるのでなければ、こちらで良さそうな家名を見繕いますが」
「あ、それでおねがいします」
正直、実感がわかなかったのでお願いした。のちに、俺はパウロニアという家名の男爵家を起こすことになる。
「はっはっは、うむ、これで少しは報いることが出来ただろう」
公爵様は、一件落着とでもいうように、明るく笑い声をあげる。
ひとまずは、こうして会談は終わりになる……ようにみえた。
序章-31 いろいろとはなしました 3
「ところでだな、いくつか気になる点があってな。そのあたりを答えてほしいと思うのだが」
「は、はい」
ぴたりと笑い声を止めて、公爵様がこちらを見てくる。何を聞かれるのだろうかと、俺は身構えた。
「こたびの一件、通常の武器が効かない四天王と呼ばれる魔物が現れ、それに効く武器を持つ、きみが場に馳せ参じた。いささかタイミングが良すぎるくらいにな」
「それは、偶然その場に居合わせたとしか」
「その場にいたのは偶然であろうが、四天王とやらの攻撃が効かないからくりを知っていて、かつ、対抗している武器を持っていたのは?」
その言葉に、何と答えていいのか口を閉ざす俺。
「また、王立学園に就職する……マリーが通う学園に就職したいということ。この件も併せて考えるなり、きみは----」
そこで一息つくと、公爵様は俺を見つめ……
「聖女を守るために、女神さまから極秘の使命を与えられていたりする者なのか?」
「いや、違います」
かけられた疑問に、俺は即答した。
「なんと、違うというのか? 私はてっきり、今回の件も女神さまがマリーを助けてくれたかと……」
「まあ、色々と知らないはずのことを知っていたし、不自然でしたでしょうけど」
これは言って良いものか、と思ったが、変に黙って勘ぐられるのもあれなので、正直に話すことにした。
「実は、俺はこれから起こることを少しだけ知っています。なんというか、物語形式として頭の中に入っているというか。ご息女のマリー様は、その話では、魔神と部下の四天王を仲間たちとともに討伐し、聖女として名を馳せます」
「ほう、なんと!」
「それで、四天王のジャガールや魔神の持っている能力とか、これから数年間のことがちょっとは分かったり、していたんですが……」
「うむ? なにかあるのかな?」
怪訝そうな顔の公爵に、本来なら今回の件、騎士団長を含め、騎士たちは全滅、また、マリー嬢も顔に大きな怪我を負い、性格も一変したはずということを伝えた。
「というわけで、もうすでに俺の知っている物語との差異が出ていますね。ですから、未来予知のように、俺の知識を信じるのは危険だと思います」
「………つまり、本来はホープもマリーも、もっと悲惨なことになっていたのか」
少しばかり長い沈黙のあと、公爵様は再び、俺に対して頭を下げた。
「魔人討伐の未来を考えれば、ことはその”物語”の通りであるべきだったかもしれん。だが、私人としては、友と娘が助かったことに、感謝したい」
「いや、頭を上げてください!」
俺は慌てて、公爵様に頭を上げるように頼み込む。偉い立場の人に、頭を下げさせているのは、正直落ち着かない気持ちでいっぱいであった。
その後、俺の知ってる知識を出来るだけ、書き出して提出するように言われ、今度こそ、公爵様達との会談は、終わることになるのであった。




