序章:ペンタの冒険者時代12
序章-28 ヒロインの御父様、つまり公爵様とご対面です。
マリー嬢の護衛とともに、都市・タルカンに戻ってきてから一週間ほどが経過した。
聖女である彼女が、魔人の手先に襲われたものの、無事にそれを撃退したという噂で、公爵領内は聖女であるマリーを称える声があちこちから聞こえていた。
実際のところ、護衛の騎士にも多数の犠牲者がおり、勝ったというのも微妙なところだろうが、貴族や聖女としての面子というものがあるのか、意図的にそういう噂を流しているようである。
そうしたことをしつつ、ひとまずの事後処理が終わったのか、公爵家の使いの人が、俺とデネヴァたちの住む家に訪れたのは、都市・タルカンに戻ってきてから1週間後のことであった。
今回のことで礼を言いたいから、是非とも我が家にきてくれ。服装は気にしないでいいよ。と、迂遠そうな言い回しの手紙を読んだうえで押し付けてきた使者の人。
彼が帰った後で、俺はデネヴァに、どうしたものかと相談してみた。
「行けばいいんじゃない? 悪いことをしたわけでもないのに、気負いすぎよ」
「そういうものかなぁ……正直、気が進まないんだけど」
政治家とか権力者とか、偉い立場の人たちからの呼び出しって、どうしてこうも行く気にならないのだろうか。とはいえ、断ったら実家のロウ男爵家にも迷惑がかかるだろうし、行かねばならないんだけど。
手持ちの服の中から、精一杯良いものを見繕って、呼び出しに応じることにする。
「「「行ってらっしゃいですニャ~」」」
なお、ケットシーたちは、別に手紙にも書かれていないので、お留守番であり、行くのは俺とデネヴァの2名である。
なんだったら、ついてきていいんだぞ?と聞いてみたんだが、
「またまた御冗談をニャ」
と、全員いい笑顔で断ってきたのであった。帰ったら、全員くすぐり倒してやろうか。
都市・タルカンの中央部。普段は足を運ばない、貴族の館が立ち並ぶ邸宅街。
その中でも、ひときわ大きくて目を引くのが、この都市、ひいては公爵領を統べる、ラザウェル公爵の邸宅であった。
屋敷に近づくと、待ち構えていたのか、一人の侍女が門の前に立ち、俺たちに向かって一礼してきた。
「お待ちしておりました。カーペンタ様、デネヴァ様でございますね。公爵様がお待ちになっております。こちらへ」
その侍女のあとについて、屋敷の中に通される。公爵家の屋敷内は、豪華な調度品が嫌味でないバランスで飾られており、財力とセンスを併せ持っているのがうかがえる。
まるで博物館だな。とそんなことを考えながら歩いていくと、応接間のような場所に通された。
どうやら、そこで公爵様を待てということらしい。ソファに座り、出された紅茶を菓子に手を付けつつ時間を過ごしていると、扉が開き、何名かの男女が部屋に入ってきた。
一人は、マリー嬢。水色の髪に豪奢なドレス姿。一目でお偉いさまのお嬢様とわかる格好である。彼女は俺とデネヴァに柔らかい笑みを向けてきた。
次は、俺の知っている、公爵家の近衛隊長、ギルフォードさん。相変わらず、完全装備ないでたちで、背中には魔法の剣”ドラゴンテイル”を背負っている。
あとの二人は知らない男性。一人は、書類の束を手に持ち、眼鏡をくいっ、とした、いかにも仕事のできそうな男性。
そして最後の一人、顔立ちの整った、水色の髪をした30代なかばといった男性であり、彼が現ラザウェル公爵であろう。
「うむ、よく来てくれた。ああ、立ち上がらなくていい。座って座って」
と、公爵たちを前に、慌てて立ち上がろうとした俺に対し、ラザウェル公爵は、鷹揚に手をあげて言う。
俺が腰を下ろしなおすと、机をはさんで対面のソファに、マリー嬢、眼鏡の人、公爵様と座り、騎士隊長は立ったまま、護衛として控えているようだ。
そうして、話を切り出したのは、公爵様からである。
「ジェフ・ラザウェルだ。この度は、わが娘と、友である騎士隊長、そしてその部下達を助けてくれたことに礼を言おう」
「いえ、もったいなき御言葉です」
公爵様の言葉に、俺は頭を下げる。相手は、国王様と並んで、国のトップに位置する公爵様である。
礼儀がなっていないとかで、無礼討ちされたりしないかと、内心ひやひやものである。
「はは、そう畏まらなんでよいのだがな。礼節が必要な場というわけでもないのだし、もっと気楽にしてほしいものだが」
「いやぁ、公爵様の前で、そこまではできんと思いますよ」
と、公爵様の後ろに立っていた、騎士隊長さんがそんな風に助け船を出してくれる。
「ふむ、まあそうだな。その辺はおいおいというところか。それはさておき、ここに呼び出したのは、礼を言うためであるが、いくつか聞いておきたいことがあったからである」
「すいません出来心でした。俺一人の責任ですので、どうか一族郎党というのはおやめください」
と、公爵様の言葉に全力で土下座をする俺。
「………何に対して謝罪をしておるのだ?」
「はぁ、え? その、マリー嬢にしでかした、あれのことでは?」
マリー嬢の頬、なめなめ治療の一件について、問われていると思ったんだが、そうじゃなかったのか?
「その件は聞いておるが、治療行為というのであろう? 実際に傷跡も残さぬ出来であったし、治療について、罪に問うこともないだろう。ただ、出来心といっていたわけだし、やましい気持でもあったのかな」
「いえ、滅相もございません!!」
しまった、やぶ蛇だったか、と、再び頭を下げて土下座する俺。
そんな様子を、デネヴァが呆れたように見てため息をついたようだ。
「ともかく、座りたまえ。聞きたいのはそういうことではない」
「は、はい」
土下座をやめて、ソファに座りなおす俺。公爵様は、面白そうにしているが、マリー嬢の視線がなぜか鋭い気がした。
あとで、機会があったら、謝っておくべきかもしれない……
序章-29 いろいろと話しました 1
「さて、まず聞きたいのは、娘を襲った魔神四天王ジャガールについてだ。彼の者は、騎士たちの剣を容易く弾き、傷一つ負うことはなかったという。騎士団長の剣でも駄目であったと聞いた。これはどういうことなのか」
「あー、それは、魔神や四天王には魔力の膜のようなもので身体を覆っていて、普通の武器だと傷がつけられないんですよね」
「うむ、そう聞いている。そして、きみの持つ武器が、その防御をやぶったと……その武器はここに?」
「ありますけど……出していいんですか?」
公爵様と会うにあたって、俺もデネヴァも武器は持ってきていない。一応、アイテムボックス内にあるので、出すことはできるが……そんな俺の問いに、公爵様の背後に控えていた騎士団長が前に出ると、
「ほら、ここに出せ」
と、手のひらを上に向けて、差し出してきた。公爵様に視線を向けると頷いたので、俺はアイテムボックスから、虎徹を騎士隊長の掌の上に出した。
「虎徹という武器です。魔力を纏うことで、魔法の膜を切り裂けます」
騎士隊長が虎徹を鞘から抜くと、美しい刀身が姿を見せた。見事な出来栄えの刀に、公爵様も感心した目を向ける。
「ふむ、なるほど……他にはあるのかな?」
「一つは、そこの騎士団長にとられ……ゆずった”ドラゴンテイル”と、あとは鎧と指輪ですね」
そういうと、鎧と指輪をとりだして、机の上に置く。
「”巨人の鎧”は魔力を流している間だけ、筋力が強くなります。俺が”ドラゴンテイル”を扱うときは、この鎧を使って筋力増加して振り回す予定でしたけど」
「あー、それは、悪かったな」
「いや、いいですよ。両方を使ったら魔力消費は2倍だし、どうにも使い勝手が悪かったから、この鎧はお蔵入りにする予定でしたから」
実際、魔力を込めるとパワーアップとなるが、パワーアップ時と、そうでないときの落差が激しいので、どうにもいまいちな出来栄えであったのだ。
「それで、もう一つの指輪は?」
「こちらは”命の指輪”という名前で、通常は周囲の微々たる生命力を集めるものです」
「通常は、というと?」
「指輪を身につけている者が瀕死になると、集めた生命力を使って治療をする……らしいですね。性能が性能なので、実際に試したことはありませんが」
いわゆる、回復機能がストックできる指輪、とのことだ。とはいえ、実際に性能を確認するために瀕死になるのはちょっと……ということで、ひとまずはお蔵入りにしていた。
「それなら、マリーに欲しいところだ。今後も、今回のような困難に見舞われることもあるだろうからね」
「……はい、どうぞ」
と、俺が指輪を差し出すと、公爵様は首を振る。
「そこはあれだ、そなたがマリーに着けてあげてくれ」
「は、はあ。わかりました」
公爵様にそう言われ、俺は席を立つと、マリー嬢のそばに膝まづく。
彼女の左手、中指に指輪をはめると、マリー嬢はなんだかうれしそうに、指輪をかざして見つめていた。
「どうですか、マリー様? きつくありませんか」
「いっ……いえ、大丈夫です。その……大切にします!」
俺の問いに、そう返すと、ぷいと横を向くマリー嬢。そんな彼女をいとおしげに見つめる公爵様。
「これで2つ、そなたには恩ができたな。さて、どのように返すべきなのか」
と、楽しそうに言う公爵様。なるべく、お手柔らかにお願いしたいと思う俺であった。




