序章:ペンタの冒険者時代10
序章-25 四天王ジャガール
「この俺の、鍛え上げられた、筋肉っ!!」
対峙したジャガールは、豹の頭をした獣人で、二足歩行かつ、筋肉もりもりなスタイルの武人と見て取れる男で、これ見よがしにポージングなどをしつつ、こちらを威嚇してきている。
「この無敵の筋肉には、いかな武器とて意味はなし! 初手は譲ってやろう。さあ、かかってくるがいい!」
と、自信満々に言う、豹頭。よくよく目を凝らしてみると、その身体には薄い魔力の膜が張っており、それで騎士たちの攻撃を無効化したのだろう。
周辺に倒れている、騎士たちは、きちんとした装備を整えた、いわゆる一流の騎士たちであり、そういった複数の騎士たちと対峙したというのに、このシャガールがまともに傷を負ってもいないのは、そういうからくりだろう。
「どうした、小僧? せっかく攻撃の機会をくれてやろうといっているのだぞ? ああ、足か震えて動けないのか(ふっ)」
「いや、そういうわけじゃないけどな。じゃあ、攻撃させてもらうけど……避けないよな?」
と、俺たちを舐めてかかっているシャガール相手に、そう確認をとってみる。
案の定というか、こちらを低く見ているのか、
「もちろんだとも。ならばこの俺を”1歩でも引かせたら”、この場はお前達の勝ちとして、これ以上の戦いはせずに去ってやろう」
等といってきたのである。
「オッケー。そういうことなら、一太刀行くか!」
俺は、手に持っていた剣を捨てて、アイテムボックスから一振りの刀を取り出した。
日本刀を模したつくりの刀。迅雷虎の牙を素材にした”虎徹”という名の刀を、さやばしって豹頭に斬りかかる!
「ぬっ!?」
振りぬいた先に手ごたえなし。虎徹が振るわれた直後、シャガールが顔色を変え、その刃を避けた。
わずかに避けそこなった胸板に、皮1枚の傷あとがついている。
どうやら、虎徹にまとわせた魔力は、魔人四天王の防御膜を切り裂くことに成功したようである。
「貴様……その武器は一体!? 神器だというのか」
「そんな御大層なものじゃないさ。それはそうと”一歩下がってるぞ”」
「むっ」
そう、攻撃こそ避けられたものの、俺の攻撃をかわすために、シャガールは大きく後ろに動いたのだ。
「ふ、ははは! なかなかにやるな。約束通り、俺はここから去ろう。小僧、名は何という」
「ペンタ」
「ペンタ……か。良いだろう。その名、覚えておこう!」
そういうと、背中を向けて悠々と歩き去っていくシャガール。いや、覚えておかなくていいんだけどな。
なんにせよ、どうにかこの場は切り抜けたようである。
序章-26 ぺろぺろ
「あの……ありがとうございます」
シャガールが地平の向こうに見えなくなってから、安心して一つ息をつくと、俺が背中にかばっていた少女が、俺に声をかけてきた。
振り向くと、そこには10代前半の年齢くらいの、水色の髪の美少女がいた。
「いや、何とかなってよかったよ。それで、怪我は……」
と、少女の顔に目を向けると、そこには頬に鋭い引っかき傷があった。
先ほどのシャガールの攻撃だったが、テツロウが邪魔をした分、浅くなったとはいえ傷は傷である。
「その、たいしたことではありませんので」
俺の視線を察したのか、少女は苦笑めいた笑顔を浮かべる。
なんとも、痛々しい笑顔に、どうにかならないかと考えーーーー一つ、思いついたことがあったので、実行することにした。
「ちょっと失礼……」
「ひゃあっ!?」
その傷ついた頬に顔を近づけて、舌を這わせてみた。俺のスキルの一つに、【なめなめ回復】というものがあり、白猫ケットシーのユキから学んだこれは、傷あとを消す効果が----
「お嬢様に何をしておるかー!!」
「ぬああ!?」
何度か、少女の頬を舐めていたら、シャガールに蹴り飛ばされていた大柄な騎士が、実は生きていたらしく、俺のことを殴り飛ばしてきたのである。
まるで、某ボクシング漫画のように、あるいは聖闘士のように宙を舞いながら、俺は思う。
俺は傷の治療をしただけなのに、なぜこうなったのか……げせぬ、と。




