~殺戮と強奪ワールドの戦国時代の恋はやっぱり命がけ?~
キキョウにとっては江戸時代は勉強しなくて良い上にわりと適当に男の子と遊べそうで気に入っている。
江戸の町人の家はトイレもお風呂もキッチンも無い2部屋に玄関の間や庭があると本には書かれていたが、江戸時代の町人が暮らしていた長屋が自分だけの家でも終の住処でもなく火事のときには壊すことになるような、いつ失くなるかわからない’生活するだけの場所‘だったという世間の常識に驚き、
江戸の国民はみな賃貸暮らしをしていることも、それはそれで気楽だったのかもしれないなとキキョウは感じた。
このところ平和そうな江戸時代がグッと身近になってきているキキョウにとって、実はこれまで最も気になりながらまだ触れていなかったのはアニメでもブームの戦国時代なのだが、それは殺戮や略奪が繰り返されて女の地位が低い戦乱の世なのであまりにも恐ろしい気もしていた。
江戸時代と言えば徳川の平和が2世紀半もの間続いていて、すでに戦国時代のような武力による政治とは決別し、法治主義による文書を介した文治政治の世の中だったのだと、
また父が解説して教えてくれた。
田畑と屋敷を所有することが可能になったり、江戸幕府が統治するのは北は蝦夷地から南は琉球まで、「御家流」という書体で統一されていたり、戦国時代のような不安な暮らしではなかった、らしい。
ますます戦国時代のことが気にかかり、なんとか、織田信長の頃の庶民ではなさそうな姫風の女の子が城の中で花見をしているのを見つけて写メった。
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桜の花びらが風に舞い、太陽が沈んでいこうとしている夕空を見ていたら何人もいる着飾った女たちの中の一人である、すぐ隣の女が小声で話しかけてきた。
‘あすの夜にはご出立ですね…’
’あす?‘
‘ご武運を祈りましょう’
’はい…‘
‘キキョウさま、万が一殿が打ち取られた場合は、お迎えが参ります…‘
打ち取られるとは身内が戦に負けるということだとわかったが、ここではキキョウには夫が居るのかもしれない。
この城では一人の殿に我ら妻10人、みたいな感じが伝わってきたので、キキョウはすぐに自分の部屋らしきところに戻ったのだが、部屋は薄暗くて静かで特にすることもなく、布団に横たわったものの今夜は男の子との体験はないのかな…などと思っていると、早足に歩く音がキキョウが寝そべっている部屋に近づいてきた。
‘キキョウ’
’はい…‘
‘本当は女人を抱いてはならんのだが、二度と戻れんかもしれんので来てしまった’
’え?‘
‘穢れなどと、誰が決めたことか知らぬわ’
’…?‘
‘此度の戦は五分五分じゃ…’
20代後半くらいだろうか、痩せマッチョな好青年風の男が両手でキキョウの顔を掴んでキスしてくるが、とても焦っていてどこか興奮して震えているような異様さが伝わってきた。
キキョウは、この青年は’殿‘で、たくさんの妻たちのところを順に回っているのだろうなと思いながら、彼のキスに身体が勝手に反応して相手に応えるようになっている自分に気付いて少し恥ずかしくもあった。
‘私が戻らなければ実家に帰りなさい’
’…!‘
抱きしめながらそう言う男の声があまりに優しくて、キキョウにしてみれば今夜初めて会った‘殿’であるのに、大切に愛されていたような気がしてくることで離れがたいような哀しい気分が込み上げ、つい、陽に干した藁のような匂いのする着物を着ているよく知らない男にしっかりとしがみついて泣いてしまった。
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朝、目を覚ますとキキョウの頬に涙がひとすじ流れていた。
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